一、蜘蛛駕籠 三三

蜘蛛駕籠。三代目小さんにより上方から東京に輸入された一席。次々訪れる身勝手な客たちに良いように翻弄されてしまう、二人組の雲助(人足)のドタバタぶりが可笑しい。冬の寄席でお馴染みのうどん屋などと同様の展開で、酔っぱらいの客が同じ話を何度も繰り返すくだりなど、共通した趣向も見られる。今回初めて柳家三三の高座で聴いて、その構成の見事さにあらためて驚かされた。

如才ない兄貴分と、どこまでも抜けている新入りの弟分。この二人の雲(/蜘蛛)助の関係性が、噺を貫く縦糸を紡ぎ出す。そこに様々な角度から一癖も二癖もある客たちが絡み、幾重にも横糸を通していく。いよいよ獲物(=客)を捕まえ、駕籠が夕闇に沈む街道を疾走するそのとき、噺家の語りはサゲに向けて一気に視点を引く。

テクスト生成そのものの比喩のようなこの構成は、様々なキャラクターを持つ客たちの明快な演じ分けと、リアクターである二人の雲助の関係性の機微の巧みな表現なしには輝かない。まさに三三にうってつけ。

各パートの積み重ねが透明な糸を張り巡らし、ラスト、視点は街道脇に住む第三者の親子(≒聴衆)へと移る。織り成されたテクストを横断する蜘蛛駕籠のイメージが、月明かりの下にぽっかりと浮かぶ。まるで広重の浮世絵のよう。

(文/水田隆 2014/7/6「神楽坂二人会 入船亭扇辰・柳家三三」@新宿区立牛込箪笥区民ホール)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?