一、風邪うどん あさ吉

あさ吉さんの高座を聴くのは今回で2度目。彼は桂吉朝師の総領弟子で、笛も得意とし、若手を集め講習会を開催している。
去年の夏に動楽亭で初めて見た時、上品な所作とよく通る明るい声、謙虚で物腰の柔らかい口調に惹かれ、今回再び大阪へ高座を聴きに行った。
マクラでは趣味の料理の話をよくする。今回もポトフをざこば師匠宅に作りに行かねばならない話や浅漬けのコツなどを楽しそうに話していた。

「そ~いや〜〜ぅ~。そ~いや〜〜ぅ~」といううどん屋の掛け声からこの噺は始まる。

いつものように夜道を歩いていると「子供!早いことしなはれや、うどん屋さん通ってはるで。」と、商家から話し声が。親が子供にうどんを食べさせてやろうと、注文へ行くことをせかされてる…。と思い笑顔で待機をするうどん屋。

(ここであさ吉氏は爽やかで優しい笑顔で上を見上げ、子供がうどんを買いに来るのを待つ芝居をする。それが忠実な中型犬のようでとても愛らしい。)

しかし、出てきた子供は表の溝をまたぎ小便しに家へ戻る。驚いたうどん屋だったが子供は頼まれたことを忘れてしまったのだろうと、うどん屋自ら「こんばんは」とその家の戸を叩き、「注文忘れて、店入ってしまわはりましたけれども。おうどんは、何杯さしてもらいましょ?」と聞いてみると、「夜遅く暗いさかいに、うどん屋さんの灯りを目当てに、溝をまたげて小便してはんねん。」とはたからうどんを買うつもりじゃないことを知る。
「くそったれ」
「くそやない小便や」

うんざりしながらもまた「そ~いやぅ~」っと歩いていると今度は、酔っ払いに捕まる。
「一杯くれ」と酔っ払い。
「おうどんですか?」
「水や」
「おひやですか?」
「水や」
「おひやでっしゃろ。」
「水は水。お冷はお冷や。うどん屋の使う言葉と違う。宮言葉使うてどうすんねん。お前だけ夏場水羊羹やのうてお冷ようかん食べんのかぁ?水臭いやつお冷くさいゆうのかぁ?」とまくしたてられる。

(早口でリズムよく連ねられる皮肉に会場は沸いていたが、大阪の地名などの部分は関東勢にはよくわからなかったが、いつもはんなりしているあさ吉さんのまくし立てる口調は貴重である。)

次に声をかけてきたのは賭け事をしていたグループの手下。
「そ~〜いや〜〜ぅ~」
「ぅ…っふぅどんやはぁあ…
ぅ…っふぅどんやはぁあ…」
「そ~〜いや〜〜ぅ~」
「ぅ…っふぅどんやはぁあ…
ぅ…っふぅどんやはぁあ…」
「ぅわぁ!なんでんねん!」
「大きな声だしたらあかん…
ぅうどんじゅっぷぁい………」
「は?うどんの注文ですかい!それやっ」
「シーーー!!!!!!!!!!!
路地の突き当たり、明かりついとるやろ、しずかにしーや!」
賭け事が近所の人たちにばれないようにうどん屋はしずかに配達。
戸の外から小声で中へ声をかけ続ける。
「うどんやないか!きてたんかい」
「大きな声だしたらあかん言われたので、ふぅどぉんやぁでございぃぃ…と聞こえなんだとは思いましたが…」
賭け事の親分に気に入られ、釣り銭を多めにもらい、喜びながら再び夜中の道を歩くうどん屋。

「そ~〜いや〜〜ぅ~」
「ぅ…っふぅどんやはぁあ…
ぅ…っふぅどんやはぁあ…」
うどん屋はまた賭け事をしている違うグループからの注文かと思い込み…
「…こんなん流行ってんのか。こんどはきぃきかしてこっちから…じゅっぱいですか?」
「一杯でえぇ…」
さっきのグループとの会話のように静かにヒソヒソ声で会話する二人。
そして美味しそうにうどんをすする客。
「うまかったぁ」
「お釣りは?」
「もろうとこぉか。うどんや…またきてな」
「へぇぇ!」
「うどんやぁ」
「へぇ!」
「お前も風邪引いてんのぉ?」

あさ吉さんのうどんを食べる仕草はがっついているように見えるものの、容姿端麗さが加わり下品さのかけらもない。
全てにおいて気品を感じる見ていてうっとりする噺家である。

あさ吉さんの落語動画は見当たらなかったので師匠である桂吉朝氏の「風邪うどん」を貼っておきます。
http://youtu.be/u6HFm6feTeg

「繁昌亭へいらっしゃい」という番組企画であさ吉さんが浅漬けを3分で作るという動画があるのでそちらも貼っておきます。お料理の話の時は強気なあさ吉さんです。
http://youtu.be/K_etaOIpghE

(文/マユコ 2015/2/13「チョコっとLOVE寄席」@天満天神繁昌亭)



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