昔読んだ本と再会する
これは2016年に古本屋「BOOKBOOKこんにちは」のブログに書いた記事です。ブログを閉じることにしたので、こちらに移動しました。
2016年3月29日
こんにちは。古本屋「BOOKBOOKこんにちは」です。
すっかり春らしくなってきましたね。コートなんてもう着ることもなく、身軽に移動出来る喜び!春が好き!です!
最近買った本の中に、「売男日記」という本があります。ハスラー・アキラさんという売春夫を生業としていた方の日記のようなエッセイで、2000年初版の本です。私はこの本を出てすぐに読みました。よく覚えています。しかし、それっきり読んでないので、16年ぶりの再会です。
その頃、私は新大久保にある学校に通ってました。今みたいに新大久保は綺麗じゃなくって、韓流ブームも来てなくって、ただの韓国人街という感じの街でした。私の通っていた学校は、比率で言えば日本人が一番多かったけど、沢山の国の人がいる結構何でもありなユニークな学校でした。
歩くのが好きな私は、新大久保から新宿までよく歩いていたのですが、その途中の道も今みたいに綺麗じゃなくて、道路はゴミだらけで、なんだか分からないものがたくさん落ちていました。ラブホテルもたくさんあって、その近くには「立ちんぼさん」と呼ばれる人がたくさんいたし、ゲイの人も、ドラッククイーンの人もいたし、当たり前のように道のちょっとしたスペースには段ボールがあり、ホームレスの人がいたし、この人正気じゃないんだなって人もいました。そして、そのまま歌舞伎町に足を踏み入れば今よりもっと露骨に夜の暗い闇の世界がじっとりとあった気がします。おおっぴらには話さないけど、友達の友達がいなくなったとか、あそこは本当に近寄ったらだめだとか、私がいる明るいのんきな世界とはまったく反対の世界のすぐ近くでたくさんの時間を過ごした時期がありました。
私は、本当に基本的にハッピーな人間で、暗い怖いことには近寄りません。私にとって売春はどちらかというと暗い怖いことの一つで、売るのも買うのも経験はありません。でも、この本は売春夫の日記なのに、暗くも怖くもありません。それどころか、ハッピーで希望に満ちあふれています。読んだ後、幸せな気分にすらなります。
彼は売春という仕事を好きで、価値のある仕事をしていると自分の仕事を誇りに思っています。どういう思いで仕事をしているのかを、丁寧に書いていて、仕事をしている上でのダークな部分はほとんど書かれていません。そして、文章の至るところに優しい眼差しが見えます。彼の写真が載っているので、彼がどんな顔で笑うのかを私たちは知ることが出来ます。彼は、とても優しそうな人です。お客さんとのエピソードはどれもなぜか切なくて泣きたくなるものばかり。なんでだろうかと考えてみると、彼が、人間というのはみんな誰でも寂しい存在だと思っていること。そして、彼はそれを慈しみ癒したいと思っている。彼の仕事であるセックスを通して。
私が歩いていたあの頃の新宿の街は、私がとても若かったからそう見えたのか、実際そうだったのか、今と比べるともっと混沌としていました。でも、この本を読んでからは、危険で汚いどうしようもないだけの街がキラキラとしたものに見えました。彼が、勇気と希望を持って愛を伝えている街だ。そう思って、若い私は新宿の街を、そして、そこにいる全ての人をなんの曇りもなく、それぞれの人生を生きている人としてみることが出来たのだと思います。
今、新宿から遠く離れたこの街で、あの頃の私を思い出すと、なんだか分からないけど切ない気持ちになります。
今でも新宿は好きな街の一つです。若かった私をすみっこに置いてたくさんのことを見せてくれました。痛いことも、辛いことも、悲しいことも、怖いこと、全部を新宿が飲み込んでくれた気がします。だから私は、怖いものなしでぼんやりとあの街を歩くことが出来たのでしょう。たくさんのどうしようもないことは全部新宿が受け入れてくれていました。今はどうなんでしょうか。新宿から遠くにいる今の私にはもう分かりません。
そして、もう一つ、気になること。
16年前より、世界は、私の好きな街は、愛に満ちているでしょうか?
久しぶりにこの本を読んで、彼がみた夢を思い出しました。
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