お前の世界を壊したいなら

いつかみた夢のはなし


花畑に佇む人
長い銀髪を風になびかせるその姿はあまりにも美しく、男性とも女性ともとれるようだった。

と、ふいにその人は刀を取り出した。
容姿に見惚れていたせいなのか、刀を携えているようには見えなかったのだが
と思っているとその人は刀で自らの首に刃を押し当て、そのまま斬り落とした。

首は音もなく地面に落ちていった。
(と思っているが実際は背の高い花々に覆われて地面に着いたかどうかも分からなかった。それくらいすべてが静寂に包まれていた)

ふと視線を足元に移すと、斬り落とされた首が私を見つめていた。
遠くで見た美しさが霞むほど、近くで見るその首ーー顔は綺麗だった。
「お前はなぜ銀のーーーーをーーーしたのだ」
容姿から想像される通り、声も星が煌めくような美しさで、男とも女とも取れる声音だった。

ーー?ーー?何のことだろう。
その首の放つ言葉の意味は分からないはずなのに、「そうです。私はーーをーーしました」と、予め想定されていた問いに答える手筈だったかのように、私の口は勝手に動いた。

それなのに、首は私の答えに期待はしていなかったような素振りで押し黙っていた。
そもそも問い自体には何の意味もなかったのかもしれない。

しばらくして首は「私を持て」と言った。

私は花々の中にかがみ込んで首を持った。
甘い香りが鼻をかすめ、和やかな気持ちになりながらも、ずっしりと重く沈んだ首の重さを手のひらで感じながら、そのまま私の胸元まで持ち上げた。

近くで見るとなおその首の端正な顔立ちがはっきりと見てとれた。肌は白く陶器のようで、二つの水晶には星々が輝いていた。
首の美しさに息を呑むと同時に、私は"その首で何をすべきか"を悟った。

首を持ったまま、長い時間が過ぎた気がする。
何をすべきかは分かった。けれど、どうすれば"それ"ができるのか、私は"その術"を知らない。

気づくと、私の横に首の持ち主が刀を構えて立っていた。
なぜ首を持たずして動けたのか、いつこちらへ近づいたのか、そのような疑問は浮かばなかった。
ただ、私は瞬時に理解した。

ーーあぁ、"そう"するのか。

理解した途端、恐怖が全身を支配する。
手の中の首がさらに重たく感じる。

ーー失敗したらどうしよう。

失敗とはどういうことなのか、その意味すら分からぬまま浮かんできた考えを、首は読み取ったのかこう言った。
「失敗することはない。なぜなら我々はーー

続きは聞こえなかった。
いや、聞くことができなかった、が正しいかもしれない。
首に重たい金属の感触。
そして世界は暗転した。


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