#2 セルフレジとの距離感

 少し前、実家に帰ったときに弟とスーパーへ行った。食べたいものをカゴに入れ、会計をしようとレジへ進むと、弟は迷わずセルフレジへ向かった。夜も遅かったので、有人レジ(こんな言葉むかしは無かったよなぁ)もセルフレジも別にお客は並んでいなかった。どちらに並んだって構いはしないのだが、商品を自分でスキャンさせ、それをせっせと袋に詰めるという作業がどうにも面倒な自分は、一人だったら絶対に店員のいるレジに行ってしまうため、弟の行動にすこし驚いた。
「これ、自分でレジやるの面倒じゃない?」と訊くと、弟は「えー、人と関わる方が面倒じゃん」といったようなことを返してきた。レジでは、「関わる」というほど、店員とのやり取りなど無いが、弟にとってはそれすらも煩わしいようだ。
 そんな有人レジ派の自分だが、本屋だけはセルフレジがある場合、そちらを選んでしまう。店員に自分のこれから読む本を知られるのがどうにも恥ずかしい。
 こういったことを言うと、「いや、別に誰もお前に興味ないよ。自意識過剰!」などと揶揄する輩がいるが、はたしてそうだろうか? 自分が店員だったら、逐一客の買う本を確認して、「あ、これを買うってことはセンス無い系の人ですね。お疲れっしたー」とか、心の中で絶対に思ってしまう。なんなら顔に出てしまうかもしれない。自分でも最低だと思うが、そんな風に生きてきてしまったし、もう治る気もしない。
 だから、極力本屋ではセルフレジを使いたいし、セルフレジが無いときに売れてる本とかを買うときは、「あ、自分よく分かんないすけど、知人に頼まれてきて買いにきたんです」みたいな風を装ってしまう。本当にダサい人間だ。
 ここにきて、弟の言った「人と関わる方が面倒じゃん」に激しく同意できる。
 セルフレジにて自分で本のコードを読み込ませ、会員カードを読み込ませ、お金を投入するといった面倒も、店員に自分の嗜好を知られることに比べれば、何でもない。
 そんな風に付かず離れずの距離感でセルフレジと付き合っているのだが、このままセルフレジが増えるのもどうなんだろう? という光景に遭遇した。
 そのスーパーは半有人レジと言うか、商品のスキャンは店員さんがやってくれ、会計は機械を通して自分で行うという仕様で、俺の前のおじいさんは機械での会計にすこし手こずっていた。そのカゴの中を見ると、リンゴが2つしか入っていない。もしかすると、このおじいさん、店員さんと少しでも会話をしたくてここまでやって来たのでは…? そんなことを思っていると、おじいさんは会計を済ませ、気怠そうにカゴを持って袋詰めのスペースへと移動した。
 不意に、数十年後の自分を見ている気になってしまった。「孤独」の二文字が脳裏を過ぎる。
 よく考えれば、この三連休、自分が店員としか話していなかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?