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#7 赤羽

 一昨年の年末、仕事でお世話になっている方の提案で、僕らは赤羽で飲むことになった。2人だけの軽い忘年会だ。予定時刻よりも数十分早く、僕がまだ電車に乗って移動しているときに、その方から「ちょっと早めに来られる?」というLINEが入った。どうやら、もう既に赤羽に着いているようで、その文面から、一刻も早く街に繰り出して飲みたいという思いが伝わって来る。

 集合時刻の5分前くらいに到着し、僕はその方と合流した。お店が連なる通りへと歩を進めると、次第に賑やかになり、それだけで徐々にテンションが上がって来る。

 一軒目はその方オススメの、赤羽では有名な老舗っぽい飲み屋で飲むことに。まだ日が暮れる前から飲むお酒は最高だった。何だか、一気に年末ムードも押し寄せてくる。

 一通り飲み食いをし、お会計となった時、僕をここに連れてきた方が、慌てだした。どうしたのかと訊ねてみると、「財布が無い!」と、背負ってきたリュックの中のものをすべて取り出し、膝をついてテーブルの下を覗き込み、ポケットというポケットに手を突っ込んだ。しかし、結局財布は見つからず、その店の会計は一旦僕が支払うことに。

 それから駅に戻り、その方が僕を待っていた場所へ。当然ながらそこに財布が落ちている訳もなく、今度は駅の目の前にある交番へ。しかし、財布の落し物は無いとのことで、もし財布が届けられた時のためにだったか、その方は何やら書類を書かされていて、僕はその悲しみで小さくなった背中をぼんやり見ていた。

 「今度しっかりお金は返すから」と言われ、僕らはその後二軒目で飲み、テルマエ・ロマエの映画だかでも使われたという銭湯へ行き、三軒目で飲み直し、最後はその方に交通費を渡して解散した。

 結局、その方の財布は見つからなかった。

 そんな、苦い思い出の街、赤羽へ後輩とこの前行ってきた。前回来た時の記憶がほとんど抜け落ちていたので、かなり新鮮な街に感じた。

 後輩が一度行って良かったという店に行くも混んでいて入れず、僕らは一通りぐるっと回ってみることに。土曜日の夜だからか、大半の店がかなり混んでいた。もちろん混んでいない店もあり、そういう店はとことん空いていて、ほぼ客ゼロといった感じで怖くなる。混みすぎていても疲れそうだし、逆に空き過ぎている店は何を出されるか分からないぞと、いろいろ喋りながら歩いていたら、あっという間に一周してしまった。二周目、もうこの通りのどこかの店に決めようと入った通りに、程よくお客がいて、料理も美味しそうな店を見つけ、入ってみることに。そこが大当たりだった。出てくる料理はどれも美味しく、カルダモンの入ったお酒というものにも出会え、会計もめちゃくちゃ安くて大満足だった。

 良い印象と悪い印象がトントンで、いま自分の中で赤羽はとてもフラットな街になっている。

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