#1 修行だと思うことにした

 ここ一ヶ月くらい、日記とは違う形で日々のことを書こうと思っていたが、なかなか思い腰が上がらず、“文章の書き方”のような本ばかりを読んでいたら、時間ばかりが過ぎていった。
 何冊かそういった類の本を読んだが、決まって書かれているのが、「とにかく書き始めてみよう」ということ。当たり前だ。書かないことには始まらない。
 そんなこと、頭では分かっているのに、どうにも気分が乗らない。いや、もはや何を書いていいか分からなくなっていたのかもしれない。
 でも、これは無理にでも書き始めないと何もしないぞと、パソコンを持って出かけることに決めた。
 欲しい本もあったし、本屋に寄ったついでにカフェで書こう! それなら本屋もカフェもある初台のオペラシティがいいなと、二か月ぶりくらいに自転車に空気を入れ、いざ出発。
 青い空が広がっている。すこし風が冷たいが、春の前触れを孕んだ空気に気持ちも弾む。何かを始めるにはいい日じゃないか。わずかな傾斜の上り坂に差しかかると脚がちょっときつい。でも、それも悪くない。鈍った体が久々に機能しているんだ。うん、いいぞいいぞ。
 駐輪場に自転車を止め、新国立劇場の前を通って、本屋を目指す。演目をポスターで確認すると、沢尻エリカの舞台がやっているようだ。伊藤英明も出ている。ふーん! って思った。
 でも、なんだか様子がおかしい。妙に静かだ。休館日だった。柵のようなもので囲われ、全店が休業。本屋もカフェもやってない。出鼻を挫かれた。
 あー、帰りたい。疲れた。超無駄骨じゃん! 無駄骨って何だよ! 変な日本語!
 と、脳内でひとしきり愚痴をこぼし、どうにかこうにか気持ちを立て直し、近くのカフェをスマホで探す。良さそうなところが見つかるも、休みだった。仕方ない。もう、歩いて適当なところに入ってしまおう。そう思った矢先、珈琲館を発見。珈琲館かぁ…とは思ったが、とにかく書くためだ、ここは妥協しよう。店の前まで行くと貼り紙。本日は15時で閉店となります。その時点で14時。一時間じゃ書ける自信ないし、ゆっくりしたい。何だってこうも上手くいかないんだ…。
 これはもう、”修行“だと思おう。今、俺の心はちょっとずつ逞しくなっているはずだ。どうせなら、受けて立とうじゃないか。こんなことで挫ける俺じゃない!
 近くにガストを見つけ、そこに入った。六人組のおばちゃんの後ろで、狭いレジ前で待たされる羽目になった。うん、修行だ。程なくし通された席は、なに語かも分からぬ言葉でしゃべる外国人家族の横だった。嫁はバカでかサングラスを掛け、なぜかインカメラで自分を撮りながらメシを食い、夫はこれでもかというくらいくちゃくちゃと咀嚼音を立てる。小学生低学年くらいの息子は不快なリズムで足をドンドンさせている。
 その横で、「修行だ、修行だ」と言い聞かせながら、これを書いた。

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