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声はすれども・・・パート2

 「シシシシシシシシ・・・」虫のような声が、どこからともなく聞こえてきます。東南アジアから4月中旬に渡来する、夏鳥「ヤブサメ」のさえずりです。ヤブサメは漢字で「藪雨」と表記されます。鳴き声が藪に降る雨の音に似ているからだそうです。昔の人の音に対する敏感さと表現の豊かさには、いつも感心させられます。
 ヤブサメは全長約10.5cm。尾羽が短く、とても小さな野鳥です。日本最小と言われるキクイタダキが10cm、やはり小さなミソサザイが10.5cm、ヒガラが11cm、メジロで11.5cmですから、日本の小さな野鳥ベスト3に入る小ささですね。こんな小さな、とても長距離飛翔に適しているとは思えない短く幅広な翼と短い尾羽を持つ野鳥が、はるばる東南アジアから海を渡ってくるのですから驚きです。

渡来直後、枝の上でさえずるヤブサメ
この時期はなんとか見つけられる

 我々バードウォッチャーは、森の小鳥の姿を、主に鳴き声を頼りに探しています。声がする方向と鳴き声の種類から、その種類がよくさえずるような場所を、双眼鏡でチェックしていくのです。例えばオオルリなら梢や枯枝の先端。キビタキなら高木の低い横枝の上、といった感じです。しかしヤブサメは、なかなか見つけるのが難しい。声が高くて単調なためか、方向が定めにくいこと、そして渡来直後は高い場所でさえずることが多いものの、葉がしげるにしたがって、葉に隠れるように低い横枝でさえずり、ついには地面を歩き回りながらさえずるようになり、茂みの中の小さな姿を見つけにくいためです。

巣材にするためか、何か繊維状の物体を運ぶヤブサメ
これ以上こっちに近づくと、望遠レンズのピントが合いません!!

 一方で小さな野鳥には、時に人を恐れない(気にしない?)瞬間があります。食べ物を探したり、巣の材料を探したり、何かに夢中になっているのか、ヤブサメが人間の足元すぐ近くを歩いていることもあるのです。私も何度か、遊歩道で危うくヤブサメを踏みそうになったことが、大袈裟ではなく本当にあるのです。

めずらしく目立つ場所でさえずるヤブサメ

 7月中旬、目立つ横枝でさえずるヤブサメを見たことがありました。「めずらしいこともあるものだ」と、喜んで写真を撮るわけですが、しばらくすると足元の茂みから、小さな小鳥が次々と飛び立ちました。ヤブサメの幼鳥たちです。どうやら親鳥が、子供たちの群れを誘導するためか、もしくは私の注意を子供たちから逸らすためなのか、あえて目立つ場所でさえずっていたようです。小さいながらも、野生の逞しさを垣間見た出来事でした。

そんなヤブサメですが、実はバードウォッチャーにとっては特別な存在でもあります。それは「聴力のバロメーター」。ヤブサメのさえずりは周波数が高く、加齢により耳が遠くなると、聞き取りにくくなると言われているのです。私は今年も、ヤブサメの声を聞き取ることができました。でもいつか、ヤブサメの渡来に気付くことができなくなる日が来るのでしょうね。

ヤブサメの声を聞くなら「早朝バードウォッチング」がおススメ。

今年は葉の茂りが早く、探鳥は難易度高めです。


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