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ケアワーカーの日常? お正月

「えー!元旦から夜勤なの?」

介護のシフト制の仕事に19年近く勤めているのだから、毎度のことのようなものなのに、

やれ大晦日に年越しの夜勤だ
やれ元旦から早出だ
そしてやれ元旦から夜勤だ

となると、
まるで初めての経験のようにそうやってリアクションをとる母親。あんたも病院の看護師さんだったんだから、何を驚くことがあるんだか。

誠に鬱陶しい。

「それなら、夕方に行く前にお雑煮食べたら?あ!あとすき焼きどうする?残しておく?」

自分は来年で初老になるというのに、
アルバイトに励む成人前の若者じゃあるまいし。。
まあ、戴く身である以上、ブツクサ言うわけにもいかない。『はい、夜勤から帰ったら頂戴しますので。』

〜〜〜〜〜

正月ともなると何もかもが「いつも」の感じを失ってしまうのが好きではない。
こっちは「いつも」の調子で働くばかりなのに、事務方や休暇を取る人らは「年末進行」と銘打ちバタバタとする。書類を早めに出せだの、連絡はいつもより早くにだの、付き合わされる「いつも」の調子の我々。

医者との連絡もすっかり取れなくなることで肝を冷やすのも我々。

年末に急がせたりした人らが、長い休みから戻ってくると今度は何があったか整理させてくれーと付き合わされる。

テレビをつければ「さて、明日から仕事始めという方も多いと思いますが!」というお決まりのやつ。
早くテレビ番組のプログラムも「いつも」の形に戻らないかな。早くアド街観たいよ。などとブツクサ考えてしまう。

お陰様で、すっかり正月が嫌いになってしまった。

入職して10年くらいの間は、この長い長いお正月期間、爺様婆様たちは体調を崩す人もおらず、比較的何事もなく過ごせることが多かった。

しかしここ数年は、この長い長いお正月期間、
前述した通り医者との連絡が取れないというか取りにくくなる期間、

この期間に息を引き取られる方が増えた。

何年か前、夜中に亡くなられたけど医者に連絡がつかず死亡診断が出来ないまま、ご遺体を3日くらい安置していた事もあったりして、しまいには警察が立ち入る事態にまでなったり、

末期の癌を患っていて看取る形にしていた爺様が、元日の朝に息を引き取られて、毎年元旦の昼に事務方のお偉いさん達が一斉にご挨拶に来る恒例行事が中止になったりもした。

そして今年。
元旦に看護師代行夜勤の担当が回ってきた。
前々日あたりから雲行きの怪しい婆様1人爺様1人。
もう何かしらあるだろうと腹を括っていた。

夕方5時から始業の夜勤。
わずか2時間ほどで婆様の方の顔色が悪い。
急ぎ別室にベッドを移動させてから1時間ほどで召されてしまった。看取っている状態だったのでこれといって蘇生措置やら救急車やらと焦ることもなくご家族に連絡。夜中の11時にようやくご対面してから帰っていった。

今夜はこれくらいかしら?と、
すっかり油断していた朝の7時、

爺様の方の呼吸が荒いと連絡。
この爺様は末期の癌。看護師に電話で酸素を使用するように指示を受けた。酸素は付けたものの様子は変わらない。経験からしてもうもって数時間だろうと察した。

家族に連絡。
しかし電話に出ない!!
さらに厄介なのが、お相手の携帯は4コールほどですぐに留守電が起動してしまう。

あんなに毎晩のように顔を見に来ていた人たちが??
すぐに出るだろう大丈夫だろうと思っていたが、まったく出ない。

この状況、失礼ながら、
爺様が召されるのが先か?
家族が電話に出てここに来るのが先か?

とりあえず酸素を付けはした爺様を置いて、一旦元の業務に戻る。度々爺様を見に行くがやはりもたなそうだ。何度も電話をかけたが出ない。

業務→爺様→電話 をグルグルと繰り返していた。
何度かけたか分からないほど電話をかけた。
相手の携帯はすっかり「鬼電」「鬼着信」になっていたに違いない。2回くらい『お父様の容態が』という旨の留守電は入れたが、何とも暖簾に腕押しな感じがして精神的にはかなりこたえた。

終業時刻9:45になったが、結局電話に出てもらえなかった。

荒い呼吸をして頑張る爺様に、『絶対来るからもう少し待っててね』と言い残すしか出来なかった。

着替えを済ませて帰り際に事務所に問うと、家族がようやく電話に出てくれてこちらに向かっていると聞いた。本当は朝からの経緯などを話したいところだが、心身ともにくたびれたので、あとはお任せすることにした。後日、家族は間に合い、午後の3時に看取られながら息を引き取られたと聞いて、爺様ずいぶんと頑張ったなという驚きとともにホッとした。

もし、間に合っていなかったら
もっと正月のことが嫌いになっていたかもしれない。

電話に出てもらえなかったのが正月のせいとは言い切れないが、少なからず影響はあるんではないかなと思わずにはいられなかった。あれだけ毎晩気にかけていた家族がまったく電話に出ないなんて。

爺様の死亡診断に駆けつけてくれた医者も、なんだか酒臭かったわねと看護師が笑って話してたのが、個人的には正月嫌いに拍車を掛ける耳の痛い情報だった。

仕方ないよね
仕方ないとは思いますけど
やっぱり今年も正月が嫌いになってしまった


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