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ケアワーカーの日常?


「ドウシテ電話シタンデスカ??」

電子音声のような口ぶりで、そう言って自分の近くまで迫ってくる、

人??

いや、人かどうかよくわからない。

薄暗い廊下。
相手の実像がよく掴めない。

目が白く光り、
肌は茶色?黄土色?
手足もあり、全体的に人の形ではあるが、髪の毛は無く、スキンヘッド??

不気味そうにする自分の様子に構わず続けてくる。

「ドウシテ電話シタンデスカ??」

電話というのは、おそらく今、
自分が携帯しているPHSのこと。

時間は2時過ぎ。
夜間の入居者のオムツを取り替えるために全ての部屋を巡回している時だった。

ポケットに携帯していたPHSから「ツーツー」と音がした。

〜〜〜〜〜〜〜

3年前くらいに予算を叩いてようやく、
新しく買い替えた施設内用のPHS。
設備が新しくなったは良いが、使い始めてみるとコイツが徐々にデメリットを見せ始める。

❶まず液晶が小さくて見づらい。
❷単純にメニュー表示をすればいいのに、暗号のように数字を入力しないと一つ一つの機能が表示されない。
❸ボタンが妙に出っ張っているからポケットに入れておくといつの間にか色々とボタンを押してしまっている。
❹セットになっていたマイク付きのインカムで、常時他部署からのやり取りが可能になったり、インカム装着しているスタッフとの遠隔でのやり取りが可能になった。。のはいいが、マイクのコードがしょっちゅう断線する上に、修理費が莫大。

とまあ、欠点を上げ始めたらキリがない。。

そんなインカム、
こちらが何もしていないにも関わらず、昼間の勤務中に耳のイヤホンから通話が入る。

何かしらの連絡かな?と耳を澄ますと、
「あのー、電話かけましたか?」と、
まったく接点のない生活相談室からの通話。

個人的にはこの手の通話が2回ほどあった。

さらに個人的な話だが、相談室の奴らは日々の疲労があるのか知らないが通りすがりの挨拶に会釈ひとつ交わさない。そのくせ、社員食堂では長々と居座りダラダラとテレビを観ては聞いてもないことをベラベラ喋り出す、鬱陶しい丸坊主メガネ。

愛想は比較的良く、丁寧な口調ではあるが、「自分の担当だったから」とかで、わざわざ明日から年末年始ですので暫くお休みいただきます今年もありがとうございました。なんて事を、日頃から家に帰りたがってゴネる爺様に言いに行く天然ヒョロ長嬢。

そんな独特キャラ達へのイラつきの蓄積もあって、その間違い電話には尚の事イラついた。「そっちがミスってかけただけだろバカ」と、通話を切るなりブツクサ言っていた。

そんな通信の行き違いや、前述した通りの修理代のコストも加味して、インカムは使用を中止した。

それでもPHS自体は入居者の命綱でもあるため、
たとえ使い勝手が悪かろうとそのままだった。

いつの間にかマナーモード、
いつの間にか画面にあらぬ番号の羅列、
いつの間にか電源が切れている、

日々スタッフもその辺の小さなストレスに苛まれていた。

〜〜〜〜〜〜〜〜

そうして今、夜勤の業務をしている最中、
1人の婆様のオムツを取り替え終わるとポケットから「ツーツー」と音がする。
また何かボタン押しちゃってるなと思い取り上げると、例の相談室の番号に発信している。

「よりによって変なとこにかけんなよ!」

全ての部屋を巡視する忙しい時間帯、
ただでさえピリピリしてる時にこの誤作動。
強めに通話を切るボタンを押した。

もしかしたら、しばらくの間相談室の内線電話が鳴り響いていたのだろうか??
随分前だが、同じ夜勤業務の時間帯、
自分の担当するフロアの真下にあるリハビリルームの内線電話が延々と鳴っている事があった。

階段の踊り場から覗き込んでみると、内線電話のランプが赤くチカチカして「プルルルル!プルルルル!」と延々と鳴っていた。あの時は物凄く不気味だったが、今、この状況になって種明かしされた気持ちになった。

全部で10部屋の巡視。順調に進み残り3部屋ほど。
それほど時間もかからず少し余裕が出てきたその時、「カチャン、キキー、カチャン」

例の下の階に続く階段の方から、
入居者が階段を降りないように設置しているゲートが開く音がした。

つまり、下の階から誰かが上がってきた音。この時間に出入りするとしたら宿直のオッサン??でも別に何の用事も無いはず??他のフロアのスタッフか??いや、夜勤中は専らエレベーターを使っているが?

いろいろ疑問が浮かび、誰が来たのか見当がつかないため、階段の方に目線をやる。

人影。
薄暗くてそのようにしか認識できない。

茶色、黄土色?の全身。スキンヘッド。
目は白く光り、メガネをかけている。

ただ洋服らしきものは何も纏っていないように見える。
暗さでちょうど実像がハッキリしない距離までヒタヒタと歩きこちらに近づいてきて立ち止まった。

「ドウシテ電話シタンデスカ」

恐怖というより、どこか未知の生物と遭遇している気分でただただポカンとしてしまった。そして、思いの外スムーズに相手の言っていることと、ポケットで誤作動したPHSの事が即座に頭の中で結びついた。

あぁ、、多分コレのことですよね?
その〜、作業してたらポケットの中で押されちゃったみたいで。。すみません。

そう伝えると、その未知の奴は
「ハァ...ソウデスカ..」
と呟くと、クルッと後ろを向き、来た道をそのまま戻って下の階へ降りて行った。

ヒョロっと長くて、
メガネ、
坊主といえば坊主、

いやいやいや、
誰!?!?

つい反射的に言い返して戻っていったが、
訳がわからない。。
とにかく、残した業務を進めた。

仮眠休憩から戻ったスタッフに話そうにも、
不可思議過ぎて話す気が起きなかった。。

特徴が、、
あの鬱陶しい奴らの特徴が凝縮されたような??

なんだ??
自分の心が生み出した幻覚???

実態は掴めないままだ。

*フィクションです*

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