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泣き虫こむし

いつも通りに目が覚めた。
起きていくと、子どもはもう起きていて本を読んでいた。このところお疲れでお寝坊だったけれど、本番を終えてホッとしたのだろう。

朝食は昨日の残りをあれこれ。チキンとか、パンとか。残ったサラダは火を通して温野菜にし、使い残しの野菜でスープを作った。
朝食を済ませた頃に、練習室の事務方さんから電話があり、ダブルブッキングしちゃったから時間をズラして欲しいと言われ、1時間ずらすことにした。
家人達は図書館へ出かけ、私はクリスマスカードを作った。今年のカードはなかなかの出来で気に入っている。新しいリボンが新鮮味があってとても良い。

家人たちが帰宅したところで、クリスマスカードを書くのは後回しにして、練習室へ出かけた。

途中で建売住宅の案内ボーイに声をかけられた。楽器を背負う子どもと歩いていると、よく声をかけられる。余裕のある生活をしているように見えるのだろう。いつも子どもとのお喋りを止めず、軽い会釈とか、軽い断り文句で通り過ぎる。しかし、近所だから見ていきませんか?すぐそこなのです!と言いつつ着いてくるので、咄嗟に、2軒目は要りません〜と言ったら、目を丸くされて、もうお持ちですか?と聞かれたので、はい!と返事をして、子どもの手を取ってどんどん進んだ。
人通りのある場所だったけれど、子連れでいる時にしつこい人と遭遇すると防衛本能が働く。少し離れた場所まで歩いたところで子どもが、歯に衣着せぬってこういうことだね!と言うので笑った。

レッスン室のフロントであれこれ報告をし、雑談をしてから、子どもと練習室に入った。途中でメイ先生が元気〜?と立ち寄ってくださって、お休みしたレッスンの宿題をお知らせいただいたお礼を伝えた。メイ先生はレッスンの合間だったらしくお忙しそうだったけれど、子どものスッキリして顔を見て、無事に終わったのだと理解されたらしかった。

練習を終えて出ると、家人が待っていた。また事務方さんと雑談をした。その足で、楽器屋さんへ。子どもの欲しい色の楽器ケースが入ったので、引き取りに行った。ケースが用意されるのを待ちつつ、ズラリと並ぶ美しい楽器を眺めていた。オールドの楽器達の来し方を思う。何人に弾いてもらえたのだろう、どんな風に大切にされてここに来たのだろう、誰がここから連れ出すのだろう、と想像を巡らしていた。

途中で、実家の人たちへのクリスマスプレゼントを買いに靴下屋へ寄った。お店の人にあれこれ質問しつつ選んだ。実家の人たちの希望を聴いていたので、あまり迷うことなく選べて良かった。私が選択肢を出し、子どもがその中から選ぶと、子どもが選んだ靴下よ〜と言える。子どもが選んだと聴くと、実家の人たちはより喜ぶし、私もややこしい判断から逃れられるので、良い。

連日の疲れが出て、イマイチ調子が良くないので帰宅して昼食を取ることにした。昼食はチキンの残りでスープを引いて、ラーメン。

クリスマスカードにみんなで回し書きし、プレゼントと一緒に梱包して家人に発送を頼み、子どもとレッスンへ出かけた。コンビニ前で、サンタ衣装の店員さんがケーキやチキンを売っていた。世の中が浮かれる日にレッスンに出るなんて、偉い!と子どもに伝えると、そっか!クリスマスだー!と言う。初めて気付いたようにビックリしていた。あぁ、カレンダーも追えないくらいに子どもは切羽詰まってたのだなぁ、と思うとなんだか申し訳なかった。レッスンをちょっと早めに終わらせて、クリスマス会をしよう!ということになったようで、子どもはすごく嬉しそうにしていた。

子どもを送り出し、何人かのママ友のお喋りの輪に入り、あれこれ事情を聞かれているうちに、ここ数日のいろいろな思いが迫り上がって、つい泣いてしまって、優しく慰めてもらった。よそのお宅の話を聴いて驚いたり、知らなかった事情を聞かされたり、多岐に渡るママトークだった。

マウンティングママとその子どもは、だんだんと孤立していっている様子が見える。私は今回のことがある前から、挨拶だけは交わすけれど距離を十分とる、というスタンスだから変わらないのだけれど。
マウンティングママに、本番後に逃げづらい距離で遭遇した時に、お子さん頑張られましたね!と声をかけると、ありがと〜と返事が返ってきた。ありがとう、以上終了。同じステージに子どもを立たせた母親という同じ立場なのだから、お互いに頑張りましたねぇ〜的なやりとりをするのが私の文化の慣習なのだけれど、彼女の属する文化では違うらしく、私の常識と思うコミュニケーションは成立しない。未知との遭遇。私の文化ではそれをマウンティングとみなす。あぁ逃げ切れなくて残念だったわ…と思う。

さんざんママ友達と話をし、場所を移してお互いに夫も交えて話をし、たっぷり笑い話をして子どもを迎えに行き、良いお年を!と交わして帰宅した。子どもはまたまたおやつをもらってきていた。お砂糖の国の富裕層並みに我が家にはおやつがある。

泣くつもりはなかったのだけれど、今日は決壊してしまった。子どもの頑張りと外部評価は一致しない。それは頭では理解している。でも、子どもの頑張りが認められないと、伴走している私が不甲斐ないからだ…と思ってしまう。みんなは評価されてポジションをもらえているのに、我が子はもらえなかった、というのはなかなかキツイ。それぞれが貰ったポジションについて、複雑な思いがあるのも理解している。けれど、私はそんな複雑な思いを持つ人たちの中で、涙が溢れるのを抑えられなかった。

なーきーむーし こーむーし、小さい頃の囃子歌が頭の中で流れる。あの時より大きくなったのに。ずいぶん遠くまで来たはずなのに。私は泣き虫なままだ。泣いてもどうにもならないのに。泣いて手に入るものなんて何もないのに。

夕食は水炊きだった。
スープたっぷりの温かいものは、弱々な私のクスリみたいなものだ。
温かいお風呂、温かい食べ物、温かい寝具。
温かいは味方だ。

クリスマス。2023年前に馬小屋で生まれた赤ちゃんに思いを馳せる。
今年もまた私たちの元へ来てくださってありがとうございます、と新しく思う。
願う前から与えられていることに感謝しよう。
涙を流す私に慰めてくれる仲間が用意されていた。なんてステキな日だったのだろう。泣き虫な私に用意されていた恵みだ。願ったこともなかったけれど、私には良いものが与えられた。

世界が平和になりますように。
温かい食べ物、温かい衣服、温かい寝床、温かい言葉がすべての人に用意されますように。

クリスマス、おめでとうございます!

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