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【まごわやさしい】 この言葉を初めて聞いたのは、当時、まだ現役の野球選手だった工藤公康さんのドキュメンタリーを見たときのことだ。 テレビカメラは工藤氏の自宅キッチンを映し出し、そこで奥さまの雅子夫人が手際よく料理をしている。大きな冷蔵庫を開けると、そこにはたくさんのタッパーが並んでいた。中身はすべて、下処理された食材や、夫人手作りのお惣菜だ。きちんとラベリングされ、整理された冷蔵庫は、なかなか壮観なものだった。 「やはり、食事はかなり気にされているんですか?」 デ
私はすき焼きに関しては至ってクールな女である。 すき焼きがご馳走であることは重々承知しているし、食べれば美味しいこともわかっている。しかし、今夜がすき焼きだからといって、その日一日機嫌がよかったり、帰り道にステップを踏んだりはしない。 すき焼きよりも、好きな食べ物はいくらでもある。ワンタンメン、たらこスパゲッティ、ジンギスカン、もつ鍋、玉子。すき焼きは、それら好物の中に割って入るような料理ではない。単価が高く贅沢品ではあることは認めるが、目の色を変えるほど、私はすき焼
年の瀬は、台所仕事が忙しくなる。 最近は台所ではなく、キッチンというのが一般的だが、せめて年末年始くらいは、この調理場を台所と言いたい。 私はそんなことを思ってしまう。 近頃はおせちも買う時代となり、小晦日、大晦日はのんびり過ごす人も多くなってきた。それはそれで、私は悪くないことだと思っている。日常を、非日常のようにバタバタと慌ただしく過ごす現代人が、ようやく人間らしい休息がとれるのは、もしかしたら正月くらいかもしれないと思うからだ。 それに、今は目新しく、美味
今年は白菜が安いらしい。 軒並み物価が高騰する中、薄緑の外葉をまとってそびえたつ白菜は、まるで救世主のようである。その力強い姿を見ると、私の頭の中には、湯気の上がった「ピェンロー」が浮かんでくる。 随分前にラジオで、舞台美術家をされている妹尾河童氏の著作「少年H」の朗読を聞いた。ながら聞きしていたので、内容までは思い出せないのだが、聞いていて、おなかがほこほことあったまる、そんな感覚になったのを憶えている。 「少年H」はドラマ化もされて話題になった作品だ。今でも妹