マガジンのカバー画像

花丸恵の食べたり呑んだり作ったり

101
自分が書いた食べ物やお酒などに関するエッセイをまとめました。 食べた感想だけでなく、食べ物に関して疑問や思ったことなども書いています。 今後もどんどん追加していきます。 食いしん…
運営しているクリエイター

#おもちょろい夫

春はますずし

 「春はますずし」  富山名物の駅弁「ますのすし」を頬張りながら、夫がそんなことを言い出した。  千年の時を越え、清少納言から著作権侵害のクレームが飛んできそうな一言だが、夫の言うとおり、ますのすしは色もほんのり桜色で、春にぴったりの食べ物だと思う。  ますのすしは、笹の葉にくるまれている。  小さな木製のわっぱには酢飯、その上に鱒が乗っている押し寿司だ。付属のプラスチック製のナイフを使って、等分に切り分けて食べるその様は、寿司界のホールケーキといっていい。  まだま

とんだアサリの見分け方

 今日は立春。暦の上ではもう春だ。  春の食べ物といえば、山のものだと、タラの芽やフキノトウなど、香りの良い山菜がたくさんあるが、海のものは、何といってもアサリである。アサリは砂出しさえしてしまえば、みそ汁、酒蒸し、洋風のパスタにだって使える旨味の万能選手だ。  しかし今、このアサリに激震が走っている。なんと、熊本産として売られていたアサリの97%が、実は外国産だったのだ。私はこの産地偽装のニュースを知り、 「きゅっ…きゅうじゅう、ななぱぁせんとぉー?!」  あさっての

隠れ身の術

 自宅に友人を招待したと仮定する。  楽しく呑んで食べて飲み会もお開きとなり「じゃあ、またね」と言って、玄関先で友人と別れる。片付けをして、布団を敷いて、歯をしっかり磨いて、就寝。  朝になり、少し飲みすぎちゃったかなぁ、なんて思いながら、顔を洗おうと洗面所に行くと、昨夜玄関先まで見送ったはずの友人が、 「あ、おはようございます」  と言って出てきたら、普通の人はどう思うだろう。思わず、 「お前、昨日帰ったよね? なんでいるの?」  という言葉が口をついて出てくるは

赤しそを驚かす

 赤しその出回る季節である。  赤しその時期になったら、赤しそシロップを作りたいと思っていた。赤しその鮮やかな赤い色は、私の大好きな色だ。好きな色を食べたり飲んだりできるなんて、艶かしく魅惑的な気がして、何だかワクワクする。  シロップ作りのための食材を準備し、さぁ作ろうとレシピを見返していると、赤しその葉を煮出す時、一緒にひとつかみの青しそを入れると、爽やかな風味が増して美味しくなると書かれてあった。  私は赤しそと砂糖とリンゴ酢さえあればできると思いこみ、青しそを