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「そういえば、『ムーチョ』って、スペイン語で『もっと』っていう意味らしいよ」 何が「そういえば」だったのかは忘れたが、夫にそんな話をしながら、私は鍋物をつつき、ビールを飲んでいた。他愛ない、夕飯時の夫婦の会話である。 夫は妻が唐突に披露した豆知識に、これといった返答をするでもなく、ただ一言、 「へぇ」 と言って目を輝かせていた。 思えば私は、これまでスペインと縁もゆかりもない生活をしてきた。 マドリードに行ったこともなければ、スペイン人の知り合いもいない。
私と夫は歩いていた。 遮二無二、歩いていた。 季節は夏、歩けば歩くほど、汗が噴き出す。 その歩行に効果音を付けるとしたら ズンズンズンズン その歩みは力強い。 向かう先は、ビール工場のすぐそばにある、ビアレストラン。 出来たてのビールとともに、和・洋・中のバイキング形式の食事を楽しめる。 しかも食べ放題、飲み放題なのだ。 まさに地上の楽園である。 そのビアレストランのことを知ったのは、 予定している旅先のガイドブックを見ていた時である。 「ビアレストランがある!」 この