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花丸恵の掌編小説集

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自作の掌編小説(ショートショート)を集めました。
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2022年12月の記事一覧

運試し擬人化 #毎週ショートショートnote

 ミイラ取りがミイラになるとはこのことだ。 「総理、そろそろ解散時期を決めて頂かないと」 「あと少しで運試し期が来そうなんだ。それまで待ってくれ」  私には目もくれず、スマホ片手に総理が言った。  今、あるスマホアプリが日本を席巻している。  自分の行動をアプリと連携させることで、自分の運を育てるゲームアプリだ。基本情報を登録すれば、自分の運気が赤ちゃんの姿に擬人化され、画面に浮かびあがる。妊婦や高齢者の手助けなど、ポジティブな行動をすると、その子が育っていくのだ。運試

執念第一 #毎週ショートショートnote

 「お客様第一よりも執念だ! 執念第一で契約を取ってこい!」  それが口癖だった上司のパワハラのせいで退職した私は、その後も上司の顔がフラッシュバックする症状に悩まされていた。  テレビ体操第一を見て動悸がしたり、運転中、安全第一の看板に動揺して事故りそうにもなった。《第一》という字を見ると《執念》を連想し、上司の顔が浮かぶ。そんな呪いをかけられているようだった。  今、私の唯一の楽しみは、娘が出場する陸上大会を観にいくことだ。リレーの選手に選ばれ、頑張る娘を見ていると

クリスマスカラス #毎週ショートショートnote

 「お父さんの嘘つき!」  今日、息子がサンタクロースの正体を知ってしまった。翔はまだ4歳。現実を知るには早すぎる年齢だ。 「サンタなんかいないって、誠くんが言ってた! 本当は…本当は…」 「待て、翔! それ以上言うな!」  翔がそれを口にするのが耐えられなかった私は、近所の悪ガキ、誠を恨めしく思いつつも、翔の口を塞いだ。 「いいか、翔。サンタはクリスマスが近づくと仮面ライダーみたいに変身できるんだ。人間が気づかないだけでサンタはあちこちにいる」 「そうなの?」