【シネマンガフェスタファンノベル】奇妙な暦と現代

元の世界に戻ったツカハラは浅草の雷門の前にいた。辺りをキョロキョロと見回し、思い切り頬をつねり、『なぜか持って行っていた』遊戯帝カードのデッキを確認し、右手につけられていたデュエルディスクがなくなっていることで現代に戻ってきたのだと確信する。

『戻ってきたかぁ…でもおかしいな…今回の私は新宿で起きたヤクザの抗争の流れ弾で転生したはず…なんで浅草…?』

「まいっか。観光してこ!…の前に」

ツカハラは転生後のルーティンとして、近くで新聞を購入することにしている。
日付の確認と世の中の動向が歪になっていないかの確認だ。
新聞には6月25日と書かれており、ツカハラが新宿の親戚の家へ尋ねる日になっていることに安堵する。大見出しにはヤクザの抗争が本格化し、深夜の新宿で銃撃戦が行われることが予想されて書かれていた。

『昼から目下抗争中なんだけどね…』などと心のなかでつぶやき、仲見世通りへと入っていく。

「ん?」

ツカハラは仲見世通りのカレンダー、電波時計に書かれているありとあらゆる日付けが7月29日になっていることに気づき、なにか奇妙なことが起こっているのではという感覚に陥る。
自分が生きる世界以外にもたくさんの世界があって、時間も世界観も全く違うというのは異世界転生を繰り返すツカハラ自身もわかっていたが、こうも露骨だと逆に不思議だ。
現に先程の店の店員にカレンダーが間違っていることを指摘しても「合っている」と返答されたのだ。
どうやら自分にしか7月29日は見えていないらしい。

「Hey」

ツカハラはスーツを着たアフロに無精髭の男と長髪をてっぺんで結わえた外国人の男に声をかけられる。
観光客だろうか、浅草寺に来た記念の文字Tシャツを着ている。

「あ〜えー。えーと。ディスイズ、せんそうじー。あ〜。」

「おい、英語は苦手かい?日本語でいいぞ。俺はチャールズ。こっちのロン毛はバレンタインだ。」

「俺達は掃除屋をしていてな。」

「掃除屋さん…ですか。私の名前はツカハラです。ツカハラタツコてか日本語上手ですね。」

出稼ぎか何かだろう。
家族のために日本でお金を稼ぐのには頭が下がるなと思いながら、ツカハラは二人を仲見世通りに案内する。

「あ〜。観光もしたいが『同業者』のやつが金を持ち逃げしてな。ボs…社長から探すのを依頼されてる。コイツに見覚えないか?」

バレンタインが見せた写真に写っていたのは下品な笑みを浮かべた気持ち悪い男。
この男の人となりはわからないが、たしかに金を持ち逃げしそうだなとツカハラは思った。

「いや〜。ちょっとわからないですね…すみません。」

「そうか、悪いな。なんか変わったやつでな。7月がどうとか磁場がどうとか言うやつだからな」

「7月!?7月29日…?」

「あ、そんな日にちだったかもしれないな。なんか知ってるのか?」

「なんかも何も…その日は何かが起こる…詳しくは言えないけどそんな気がする…」

「オイオイ、ツカハラは都市伝説テラーかい?脅かすなよ。」

チャールズは仰々しくリアクションした後、「そんなことより」と前置きし、雷門を指差す。

「浅草を案内してくれよ。まだ何も知らないんだぜ?」

「とりあえず、名産品を教えてくれよ名産品というか…お土産?」

「ああ、それでしたら人形焼きとかどうです?おいしいですよ」

「人形焼き!?dollの人形か?あんなもん焼いて食うのか?どうかしてるぜジャパニーズ!!」

「おいおい、マンザイを見てるんじゃねえんだぜ、ちゃんと教えてくれよ」

二人が何やらおかしな想像をしているのを察し、慌てて商店街を案内する。

「これですこれ!人形焼きこれ!」

「Oh!人形っぽい見た目の皮にあんこが詰まったジャパニーズまんじゅうなんだな。これはイケるぜ。バレンタイン50箱くらい買ってくか?」

「そんなに食べきれねぇだろ、2、3箱で充分だ。ん?それより爺さん。ちょっとニュースペーパー見せてくれ」

「あ、ああ。これかい?どうぞどうぞ」

穏やかそうな人形焼き屋の店主はバレンタインに新聞を渡す。
バレンタインが見ているのは小さな小さな記事。
それに興味がない人は読み飛ばしてしまうだろうというマイナーな記事だ。

「おい、チャールズ、ここに映ってるシチフクって」

「ああ、七福くんね。うち息子のライバル校、江ノ島白波高校バドミントン部部長、神仏七福くん。強かったな〜」

「バレンタイン…こいつか???」

?が三つつくほど間抜けな声でチャールズが尋ねるが、バレンタインも人違いかなと大きな首を傾げ、二人に聞こえないようにこそっと耳打ちする。

「ノクスのアップルウォッチによく電話してくるジンバルドとかいうやつが言ってた情報屋のシチフクってホントにコイツか?」

「いや…顔は似てるが年齢も何もかも違うだろ…ん?でもこの店のカレンダーも7/29…「それは今関係ない。」

「ああ、そうだった。」

「あの…?」

ずっと二人で話している姿を見て、ツカハラが声をかける。
チャールズは「すまない」と軽く謝罪し、飴屋を見に行きたいとツカハラに礼を言って別れを告げる。

「なぁ…チャールズ。確かにさっきの女が言ってたこと、何かあるかもな」

「お、何だこの長いキャンディ。チトセアメ?こっちはタンキリアメ?」

「チャールズ!」

「ああ、わかってる7/29だろ?それは俺たちには関係ないさ。」

「あるだろう。なんで俺がTシャツかわかるか?7/29ならとっくにスーツのクリーニングは終わってる!」

チャールズはその蓄えた無精髭を一撫でし、確かになと考え、朝一の便でアメリカへ帰る手配をする。


「江ノ島白波ね…うちの近くには福岡和蘭ってバドミントンの強豪校がありますね…てかこっちの七福は私苦手…超ナルシストで」

ツカハラは新聞を片手に人形焼き屋の店主とスポーツの話をする。
人形焼き屋の息子は天音高校という東京都の強豪校にいるらしく、今年は一年生も素晴らしいのが入り、優勝を狙える実力らしい。

「君はどうなんだい?」

「私?私は…福岡出身で、博多第二工業ですね。博多第二工業女子バスケ部です」

「は、博多第二なのかい!?最近高校バスケは盛り上がってるよね〜テレビで見たよ!いや〜西新宿東と青葉育英の試合面白かったなぁ…たまに大和くんとかうちに来るんだよ!」

「そうなんですか!ちょっと会ってみたいなぁ…親戚が西新宿東と近くの高校なんですよ」

「近くというと…」

店主は何かを考え口をつぐみ、慌てて話題を変える。
悪名高きヤンキー高校の鐘蓮が近場だと言うのは失礼だと思ったからだろうか。

「そ、それより博多第二かぁ…一回戦残念だったね…」

「はい…でもその分私達女バスが勝ちますから!目標はもちろん全国優勝!」

「練習厳しい?」

「練習…厳しいですね。私はどんなことでも挑戦するし、その時代その時代に合わせて努力はしてるつもりです。でも、そんな私が初めて『あ、やめたい』ってよぎりましたし。」

店主はハハハと笑うと、ツカハラの部活の話をもっと聞きたいと促す。

「あ!そしたら九州大会決勝の話でも…」

「お願いします。」

ツカハラは数ヶ月前の話をし始める。


奇妙な暦と現代
ーおわりー


九州大会決勝。

博多第二vs薩摩天文館編に続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?