二匹の猫と楽しい毎日ー6(子猫が手すりから落ちた)
1.妻と一緒に「バイバイ」をしていた<そら>が3階の手すりから落ち
た。
「そらー」
大声で叫ぶ妻。
僕はびっくりして、すぐ家のあるマンションに引き返した。
妻も一階まで降りてきて、玄関のベルを鳴らし、扉が開くとすぐに飛び込んだ。
僕たちの住んでいるマンションは元々家主さんが自分の家を三階建てのマ
ンションに改築して、そのうちの一階と二、三階の半分を自分たちで使用
し、他を人に貸している。
幸い妻は家主の奥さんと、とても親しくなっていた。
そして<そら>が落っこちたのは家主さんの庭だった。
暫くして、妻が<そら>を抱いて一階の家主さんの家から出てきた。
「大丈夫」
「大丈夫だったみたい」
<そら>は妻の腕にしがみついていた。
「家主さんに猫を飼っているのがバレちゃったね」
「奥さんに、『急病で入院した友達に頼まれて預かってしまった』と説明した」といった。
「それで」
「『そうなんですか。大変ですね』って同情されたわ」
さすが学生時代に演劇部にいただけの事がある。
見てきたような嘘がペラペラと出るもんだと感心した。
2.とりあえず、猫はどこもケガしてないようなので、ほっとして会社に向かった。
妻の話では、その後、家主さんの奥さんがやってきて、<そら>を抱いて「可愛い~」といって、暫く我が家で<そら>と遊んでいったらしい。
家主の奥さんは、本当は猫好きで猫を飼いたかったけれど、家主のお母さん(義理の母)が動物嫌いで、マンションで一軒でも動物を飼うことを許すと、みんなが飼うようになり、マンションが汚れるからと嫌っていたようだ。
しかし、義理のお母さんも2年前に亡くなってしまったのでもはや気にしていないようだ。
3.それからは、猫を飼っているのが見つからないようにと気を使うこともなくなった。
というのは、大家さんが時々回覧板を持ってくるのだが、その度ごとにテレビの音を大きくして、<そら>を妻の部屋に押し込んで鳴き声が聞こえないように気を配り、
<そら>を病院に連れていくときは、一階の家主に見つからないように周囲を妻が確認してから、<そら>を入れたキャリーバッグを風呂敷で包んで足早にマンションから出た。
マンションに入るときも、妻が周囲に誰もいないのを確認してから、僕がそっと入った。
まるで泥棒になったような気分だった。
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