忙しいから看護師に聞いて

マスコミに高名な医者の本を読んだ。外来が混んでいて治療方針などについて聞けない場合は周りの人、特に看護師に聞いて欲しいと書いてあった。なんと癌の化学療法のことである。化学療法をすると何日位の入院、費用は、副反応などである。日本は世界でも誇る医療環境にある。それなのにこんなことを医者が書くなんて理解しがたい。

看護師は看護が専門であり、治療の説明をして欲しいと言ったってわかるはずはない。看護師が治療のことを話しているのを聞いたことがあるが誰かの受け売りだった。当たり前だ。

ある看護師と個人的に話しをしたことがある。彼女は40歳位でなんとなく利口そうな人だったが自分が、従事している産婦人科のおおざっぱな見当はずれの知識と介助以外はほとんど知らなかったが別段おかしなことではない。再度書くが日本の医療保険は世界で傑出している。国民皆保険、医療費の安さ、病院にかかる気楽さ、高度な医療レベルについては高い評価をうけている。しかし、いろいろな問題も含んでいる。

3分間診療では病気のことや治療について十分な説明は出来ない。医者は重要なことを話すべきなのだが次の患者が押し寄せてくるのであまり時間がない。私みたいな医者に対しても担当の医師が何も話さないので看護師に聞かねばならないこともあった。医者と看護師は患者の医師を一般的には嫌う傾向がある。私のようなヤブ医者に対しても当たり障りのない事を言うか口を開かないだけだった。私は普通の人よりたくさんの病気にかかり大学病院にも入院をしたことがあるのでいろいろな経験をした。

私だって患者の時は医者と話をしたい。病気の話でなくてもよい、雑談でもいいから先生と自分が近くにいると思いたい。医者ないし看護師は一定の人間関係をたとえ短時間でも築くべきだ。
私とは長く付き合っているような話し方で接する看護師がいた。そのことは優れた能力だ。看護師は糞便で体が汚れていても嫌な顔ひとつせずきれいに拭いてくれるし、薬もきちんと飲んだか確かめにくる。そんな時体の弱った人には本当にありがたい存在だ。誰だって病気になれば心細い。死のせまった時はどんなに心細いだろうか。そのような時こそ看護師はあるのではないか。治療方針を看護師が決めることはできない。運命の別れ際の時に看護師に聞いたらいいと言うのは納得できない。医者がはっきりと話す時間を取らないのがいけない。

回診時に教授とか診療部長は「どうですか」と言う以外何もしゃべらないことが多い。最近は術部に優秀な絆創膏を貼れば昔のようにガーゼ交換などはしない。1週間放っておいてもいい。外科医は手術は成功したと思っているので退院するまでほとんど診にこない。その代わりに看護師は1日に1、2回見に来てくれる。症状の変化を見るのだろう。医者が来るとしたら問題のある時だ。内臓を扱う外科医は腹の中はエコー、CT、MRIなどで見ているので腹を触診をしなくなった。私も入院したことがあるが主治医が何もしゃべらないので退屈しのぎで看護師と世間話をしたことがあったが、私は看護師に治療方針など尋ねたことは無い。

普通の人は自分の治療がどうなるのか医者が話さないから看護師に聞いたりすることは十分ありうる。それは医者の怠惰の結果である。看護師はルーチンワーク(例えば体温を測る、血圧を測定する、尿量をチェックするなど)をこなす。医者が時間がないから看護師に聞いてみるのがよいと言うのは仕事を放棄したことになる。

その医者は患者が増えるに従って患者と話すことは億劫になり看護師に任せたくなったのだろう。確かに声が枯れている。が看護師は自分の仕事と関係なければ患者と話さない。大きな病院なるに従って患者と看護師や医者との距離は広がり患者はこんな事を聞くのは気が引け、悪いと思いあきらめる。
ある有名な病院で有名な先生のところへ行ったことがある。その先生の外来の診察で、私に「看護師に話しかけないで欲しい」ときっぱり言われた。前回私は随分看護師と話をした以外何がいけなかったか思い浮かばない。私は「はいわかりました」と詫びた。これは一体何を意味しているのか考えた。それがあってから看護師を普通の人間ではなくロボットと思うようにした。彼女ら看護師仲間うちでは仕事のことなど多弁に話をしていた。私がかかったのはペインクリニックで医者が注射をしたあと4、50分安全のため横になっていなければいけない。確かにどの患者も口を硬くとざしていた。刺々しい雰囲気はそのためだとだんだんわかってきた。その医者には1人ではとても見切れない患者の予約があるのでもし看護師に聞いてくれと言ったとしても納得できるものはあった。何かが狂っている。

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