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通勤のあれこれ。
わたしの職場は最寄駅から徒歩20分。
なかなかの距離だ。
そして、わたしは職場を出たら(極数名の例外を除いて、)同僚も上司も赤の他人だと思っている。あれだけ雑談に花を咲かせたお隣さんも、おやつを配給してくれた上司も、みんなみんな他人だ。
つまり、そういうことだ。この徒歩20分、如何にして誰にも捕まらず電車に乗り込めるか、ということが、目下のミッションである。
もし、更衣室を出たところで上司と鉢合わせようものなら、徒歩20分に電車10分がプラスされる。同僚であっても極力避けたい。普段はいいのだ、仕事中、仲良くしてくれるのは大変ありがたい。元から予定を合わせて食事するとかもありがたい。
でも、ダメなのだ。帰り職場の敷地を出たところから、さまざまな対人スキルをシャットダウンして、1人時間用の、このわたしに切り替わるのだから。
仕事の対人用わたしも、わたしであって、笑顔を貼り付けて声をワントーン上げて、感情の感度をわずかに下げる。それを苦しいとは思わない。それは、所詮よそ行きのお化粧とおしゃれをしたわたしだから。
まず、更衣室を1人で切り抜けるべく、定時で帰れたとしても5分ほど仕事をし、第一陣が去ったあたりで着替え始める。
次に、更衣室から出るタイミングを見計らう。ドアに耳を当て聴覚を研ぎ澄ます。誰も廊下にいないと悟った狭間にそっとドアを開け、廊下にでる。
そして、真っ直ぐに職場を離れる。会社の敷地を出たあたりから若干の小走り。第一難関の信号を切り抜けるためだ。井の頭通りを横断する信号はなかなか変わってくれない。待っている間に誰かに追いつかれてはいけない。イヤホンから音が溢れるくらい、音量をあげ、気づかなかった作戦を準備する。ここを切り抜ければ、あとは駅のホームでの鉢合わせを警戒するのみ。
ってところで、ちょっと話す程度の外注さん、40代おじさんと目があってしまった。気づかなかった無視する作戦は見事に失敗。ぎこちなく会釈をし、お互いに差し当たり、差し支えのないことを、辿々しく話して帰宅したのが昨日のことだ。
で、今日である。
電車が止まった。
迂回したところで最寄駅が停電のようなので、軽く1駅は歩くほか選択肢がない。
満員電車の人の入替わりを、電車が息をするように、吐き出して吸い込むと表現したりするが、今日は全く吐き出さない。
振替輸送で電車もお腹いっぱいらしい。当事者のわたしはまさに異物か。ごめんよ。擬人化した電車にまで謝りたくなってしまった。
そんなこんなで、今東京と神奈川を結ぶ橋を歩いている。橋は電車以上に重症で、喉をつかえているらしい。信号が変わるたびに嗚咽している。
あと、どれほどで着くのだろうか。こんな時は隣に誰かいて欲しい。赤の他人と、この理不尽を共有したい。
まぁ、本当の赤の他人が周りに沢山いるんだけど。みんなが気怠そうに、諦めながら僅かに進んでは止まり進んでは止まりを繰り返す。追い抜こうと頑張ったところで、すぐそこで止まるのだ。焦燥感しかない。
もういいや、今日も頑張った。頑張った。
車道を歩き始めた人もいる。逆走し始めた人もいる。
わたしはいいや。このまま嗚咽の中で、吐き出されるときを大人しく待とう。
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