歳の差恋愛をして、後悔した話

私には二回りほど年の離れた恋人がいた。
当時のバイト先で出会った人で、珍しい銘柄の煙草を吸っていた。
まず恥を忍んで告白すると、私が彼に好意のようなものを抱いたのは、この煙草の銘柄が要因だったのだ。

わけがわからないと思う。私もわけがわからない。
しかし10代の女というのはそれはもう頭がめでたくお花畑なもので、彼がバツイチで、くたびれた軽自動車に乗っていて、変わった煙草を吸っている。彼の構成要素の全てを「なんかカッコイイ!」と脳内変換できてしまうのである。(私だけか?)

とにもかくにも、私は彼に猛烈にアプローチをしかけて、ついに交際意思を確認するまでに至ったのである。

サラッと前述してしまったが、彼はバツイチだった。彼の名誉のためにも詳しくは伏せるが、離婚の原因は彼の側にあった。それを聞かされていたにもかかわらず、私はお花畑真っ只中なので右耳から左耳へと抜けていくだけだった。
当初は、気にするような事じゃないと思っていたのだ。

しかし付き合いが続くにつれて私の不安と不満が増幅していった。
彼は離婚して以来ずっと実家住まいで、ほとんど家事経験がないまま転勤のために一人暮らしを始めたところだった。結局、別れるまで料理は1度もしたことがなかった。洗濯はなんとかやっていたが、掃除も私が促すか私がやってあげるかしないとだめだった。当時彼が勤めていた会社はまさに真っ黒で、帰宅時間を考えれば仕方ないといえば仕方ない。ただ、講義のない時間を使って彼の部屋に行っては家事をするという通い妻的なことをしているうちに、「私はなにをしているんだ?」と妙に冷静になってしまう自分がいた。

自炊のためにフライパンや皿を実家から持ってきたと豪語して、結局1度もそのダンボール箱を開けることは無かった彼は、その他にも有言不実行な部分が多々あった。

2人でゆったり過ごせるようにもう少し広い部屋を借りようとか、貯金を幾ら貯めるとか、歯医者に通うとか、そういうことをただ軽く言うだけで実行に移さない。

彼はものぐさなのか歯磨きをしたがらない人だった。だから当然といっていいのか、歯はボロボロだった。
夜寝る前に炭酸飲料を飲んで、そのまま寝てしまうのを私が何度咎めて歯磨きさせたか数えきれない。
歯医者に連れていったこともあった。私が探して、予約して、診察を受けさせて、「ゆっくり治していきましょうね」と言って貰えた矢先に、また転勤が決まって通えなくなった。転勤先でまた通えるところ探そうと言っていたけど、結局実行されることはなかった。

私が精神的に不安定なのも悪いのだけど、彼はヒートアップすると大声やがなり声を出す人で、それも嫌だった。
私は育った環境のこともあって男性の大声が苦手で、それを説明して、怒鳴らないでと何度も言ったけど、結局喧嘩になるとまた怒鳴られる。
「ごめんな、でもこうしないと〇〇が話を聞かないから」が常套句だった。

いい時ももちろんあった。基本的には優しくて私を優先してくれた。すすんで送迎をしてくれたり、雨の降っている時は私が車に乗り込むまでドアを開けて傘をさしてくれるとか、年上らしい包容力も感じられた。
うつ気味だった私を外に連れ出して、あちこちに旅行させてくれたりもした。

旅行は本当に楽しかった。自分の稼ぎじゃ行けないような宿に泊まれて、行き帰りの移動も任せ切りで、プランでさえも任せ切り。自分は受動的に楽しむだけでいいのだから、そりゃ楽しいに決まっている。
旅行に行っている時は、自分はこんなに恵まれて、こんなにいい旅行をさせてもらえて、同年代の女の子たちに比べて幸福だと、思い込むことが出来た。

だけど旅行から帰ると現実が見える。狭くて薄汚い田舎のワンルームに、頭髪の薄くて口臭のあるバツイチのおじさんと、おじさんに寄生するしかできないメンヘラの自分。

今思えばあれはしっかりと生き地獄の体をなしていたように思う。

私はだんだん彼と過ごすのが嫌になっていた。
彼の家に行って、汚い部屋を掃除して、何の糧にもならないゲームやDVDを見てダラダラと過ごすのがもう嫌だった。周りの子たちは夢を見て進学したり就職したり、彼氏ができて切磋琢磨してがんばっていたり、社会人として一歩一歩を踏みしめているところなのに。

彼と別れるのが怖かった。彼ほどのハンデがある人でもないと、私なんかを愛してくれるわけがないと思っていたから。私なんかを大事に扱ってくれるのは彼に負い目があるからで、私を失うと他に女がつかまらないからだと思っていたから。
一人になりたくなかった。誰でもいいから自分を肯定して、愛してると言って欲しかった。
私を失ったら彼がまともでいられないかもしれないとも思っていた。
たぶん共依存に陥っていたんだと思う。もしくは私が一方的に。

別れるのが怖い。でも一緒には過ごしたくない。
それで私がとったのは、決定的な言葉をつかわずに離れるという選択肢だった。

これは今考えると実に良くない判断だったと思う。
とりあえず、しばらく会わないようにしたい、距離を置きたい、みたいなことを伝えた。
わかった、気が向いたら教えて、みたいな返信が来たと思う。
それからしばらく私は連絡すらしなかった。
それであわよくばそのままフェードアウトできれば、なんて甘く考えていた。
ある時彼は痺れを切らして、いつまで待てばいい?と聞いてきた。
私は、待たなくていい、みたいな、なんか噛み合わない返事をしたかもしれない。
最終的には、別れたいなら別れたいって言ってほしかったと言われて、思ったよりもあっさりと関係は終わってしまったのだった。

その後、年齢が1桁違いの彼氏ができたが、元彼に比べて気が利かないとか、子供っぽくて相手にならないみたいなことは全然ない。むしろ、あんなに年の離れていた元彼が、なぜこれくらいのことができなかったんだろうとか、なぜ20代の彼がこんなに簡単にできるようなことが元彼はできなかったんだろうとか、そういうことしか思い浮かばない。

今が本当に楽しくて幸せだ。私なんかをカッコイイと尊敬してくれて、可愛いと褒めてくれて、一緒にいて安心すると言って甘えてくれて、甘えさせてくれる。
気が利かなくてごめんねと言いながら、私の嫌なことを絶対にしないし、私の顔色をよく見てくれている。喧嘩しても、私が悪いのに「嫌な気持ちにさせてしまってごめん」と言って一緒に泣いて抱きしめてくれる。
一緒にプランを考えて遊びに行ったり、一緒にお金を出して何かを買ったり、なにかをしてもらうのではなくて2人で何かをするのが楽しくてたまらない。
家にこもってアニメをイッキ見したり、プラモを作ったり、桃鉄に熱中したり、ただふたりでいるのが楽しい。

この当たり前の日々を尊く感じられるのは、あの元彼との日々があったからこそなのかとおもうと、あれはあれで私のひとつの通過点として必要だったのだと思う。
そういう意味では後悔はしていない。
でも、自分の価値を低く見積りすぎたがために誰かに依存してしまうという愚行を二度と繰り返さないための戒めとして、ここでは後悔という言葉をあえて用いたいと思う。

歳の差があるからダメなのではない。歳が離れていようとなかろうと、自分の価値を見誤って、自分はこんなにダメなんだから、これくらいは許してあげなきゃとか、これくらい我慢しないと誰も自分を愛してくれないとか、そういう思い込みを持ったまま交際してはいけないのだ。
自尊心の低い人間はつけこまれやすい。貴重な時間を食い潰して(食い潰されて)後悔しないためにも、自分をしっかり持って、自分を尊重して生きていきたいと思う。

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