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hanaike Books #5 『かわいい闇』

花のある暮らしに添えていただきたい書籍を、リレー形式で紹介いただくhanaike Books
今回のライターは、建築家の谷田 恭平さんにご紹介いただいた、ガーデンデザイナー、フラワーアーティストとして活躍されている、有限会社温室の塚田 有一さんです。

『かわいい闇』マリー・ポムピュイ、ファビアン・ヴェルマン作 ケラスコエット画 原正人訳

ちょうど今頃の季節、落ち葉の降りしきる森で、学校帰りに落ち葉の絨毯の広がる森のひだまりで、女の子はうとうとと眠ってしまったらしい。
大きな樹々の下、お母さんのお腹の中のような秘密の場所をあどけない彼女は知っていた。目が覚めた時は陽が傾いて、少女は立ち上がりおそらくお家に向かったのだろう。しかしそこで何らかの悲劇が起き、美しい森で人知れず死んでしまう。何が起きたのかは伏されている。ただそこは美しい森の中で、人の寄り付かない場所らしい。
女の子が死ぬと、彼女の分身、あるいは記憶や夢やちょっとしたトラウマや愛や、悪意やおてんばが、宿りの場所がなくなってしまった為に小さな小さな子供達として、飛び出してくる。
森の中で、小さい子たちは新たな暮らしを始めるが、美しくも厳しい季節のうつろいの中で、ヒロインらしい子が新しいコミュニティのために知恵を絞ってかいがいしく立ち回る。
時々、恋あり、けなげあり、信頼したり中傷されたり、逆上したり、一度は大きな裏切りに絶望するが、再生していく。子供らしい残酷さ、純粋さ、エゴもみえ、むしろそれがはじまりの、もとの女の子を殺したのかもしれないとさえ思えてくる。

森は多様な生命の生き生きする場であり、無慈悲で厳かで、死と生が明滅しながら流動する場である。短い生のサイクルも森の樹々のように長いサイクルもある。
もっと長い、岩や鉱物のような存在も。季節は流れ続け、様々なものの結びの中で命は紡がれていく。

少女の死という闇から生まれたかわいい子供達、最後に残った女の子は、かわいいあどけない少女だが、あらゆるものを大切なものを失い、復讐を果たした闇を抱えた存在でもあり、子供らしい残酷さと無邪気さとをあわせ持つまさに「かわいい闇」なのだ。
それが本来の美しい森の掟のようなものでもある。
イノセントな闇、そしてファンタジーをもたらす森。見えないもの達が跋扈する森。

自分の仕事である活け花も作庭も、実はそうした華やかさと死と再生を同時に抱えた自然の擬きである。引き寄せられた花に、庭に、季節の訪れとともに祈りが宿り、死者を含めて他者達によって生かされている命を想う、一瞬の美しい音楽を奏でる世界を見、見えない世界をも観照し、自らを脱却、リセットするための、誰かにとっての窓であり、縁側であり、劇場となるのである。

花のカードは数年前に「物語としての花活け」ということで、『かわいい闇』をもとに秋から冬を経て、春を迎えるまでを原作者であり、かわいいキャラクター達の作画も担当したマリーによるフランス語の朗読の中、ライブで活けた時のもの。

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関連書籍

『かわいい闇』を読んで描く勇気をもらったという真造圭吾の『ノラと雑草』

writer
塚田 有一(つかだゆういち)
有限会社温室代表。
ガーデンプランナー/フラワーアーティスト/グリーンディレクター

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立教大学経営学部卒業。
草月流家元アトリエ、株式会社イデーFLOWERS@IDEEを経て独立。
ランドスケープや作庭、花活け、装飾、オフィスのgreeningなど空間編集を多数手がける。
赤坂氷川神社「はなのみち」、TISTOU「花の文」、世田谷ものづくり学校「学校園」、花綵列島「めぐり花」、「緑陰幻想詩華集」など旧暦や風土に根ざした植物と人の紐帯をたぐる様々なワークショップを開催。お庭を作るだけではなく、グリーンディレクターとしてその場を生かしたワークショップを企画。西神田のスペースでは”TERRAIN VAGUE (都市の空き地)”を主宰し、植物×他ジャンルのクリエイターと座を開いてきた。ユーロ=アジアの観点から文化の多様性と固有性を、風土に根ざした身体性とともに研究している。


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