キングオブコント2021

①蛙亭「実験体No.164」
キングオブコントの醍醐味は、自分の知らなかった「面白い」がこの世にはまだあるんだと驚く瞬間だ。
それはキリンスマッシュであったり、おばはんであったり、天竺鼠の寿司であった。
かくして今回の蛙亭もまた、そうした新たな「面白い」を垣間見せてくれた。
そういえばローション相撲はあんなに面白いのに、コント内でローションまみれになる奴はいなかった。
ネタ出番のたびに舞台をビショビショにするわけにはいかないから、思いついた芸人さんも現実的な制約のために試みてこなかったのだと思う。
だからこそベチャベチャの中野さんが現れた瞬間は斬新で、表現の可能性を見せつけられた。

しかしネタ自体は、怪物と次第に心を通わせていくという大変シンプルなストーリーだった。
映画のようだったと評する声もあるみたいだが、むしろ映画のお約束をそのままなぞっただけでコントとしてのひねりはなかった気がする。

過去の名作である「ピザ」や「撤去」のような裏切りや転調があるネタと異なり、笑いの生命線をローション一本に絞ったネタに見えた。
故に中弛みするような箇所も少しあり、逃げ切りとまでは行かなかったのだと思う。

②ジェラードン「放課後」
このネタを見たときに、今年のキングオブコントに不信感を抱いてしまった。
これは言ってしまえば西本さんのキャラクターを笑う(だけの)コントだ。
しかし仮に西本さんのような容姿の女の子が存在したら、あるいは西本さんのような男性が女子の制服を好んで着ていたとしたら、果たしてそれは笑いにして良い事柄なのだろうか?
まあ、実際はそういった人が角刈りにしていることはまあレアケースだろうからこのキャラクターにも少し面白みはあると言えるのかもしれないが、でも髪型だって個人の自由だと言われればそれまでだし…。
(少なくとも途中の、髪型逆だろ!というツッコミはそんなに正論ではないと思う)

…こうした意見は、下手をすればお笑いをつまらなくしてしまう。
規制を求める声が大きくなりすぎると、表現者は必要以上に萎縮してしまうから。
しかし少なくともこのコントに関しては、この世の中には色々な人がいるという価値観の人ほど、面白さが感じられなくなるネタだったとは言えるだろう。

③男性ブランコ「ボトルメール」
何気ないモノローグだけでぐっとコントの世界に引き込まれた。
浦井さんはなんて味のある芸人なんだろう。

そこから女性が死ぬほどコテコテという裏切り。
ボトルメールをするのはもっと静かで訛りのない女性だという我々の偏見を巧みに暴かれてしまった。

しかし特筆すべきは、いままでがすべて妄想だったと分かった瞬間の驚きと、本当の出会いの時に走る緊張だろう。
平井さんが口を開くまで、我々は浦井さんとぴったり同じ緊張を共有していた。ハッピーエンドで本当に良かった。
緊張の緩和とはよく言ったものだ…。

④うるとらブギーズ
うるとらブギーズの代表的なネタで、劇場ではめちゃくちゃにウケるらしい。
しかしこの二人の「楽しくて笑っちゃう」空気が賞レースの緊張感や厳しい審査とどうしても相性が悪いようで、場を掌握した感じは残念ながらなかった。間違いなく面白いのだけれど。

気になったのは、定菱くんのワッペンがテイビシのBとCになっている部分。
お父さんも名前ちょっといじってないですか?笑
あくまでお父さんは愚直な人であってほしいコントなので、私個人の中のバランスでは少しだけやりすぎ(おもしろに傾きすぎ)に感じた。

あと、教育関連の仕事に就いている友人は、現実にも変わった名前を持った人は沢山いて、子供を変な名前だからと笑うのは可哀想だと語ってくれた。
現実がコントに追いついている…?

⑤ニッポンの社長
個人的には1番ゲラゲラ笑ってしまった。
「ボコ…」という音と動きがおもろいだけやないか!というくだらなさも含めて、馬鹿馬鹿しく、そして不条理なコント。
5分間あってやることがボールぶつかるだけ、というしょうもなさがたまらないが、松本人志がもう一つ山を欲しがったのもよく分かる。
しかしそれは筋書きがしっかりとしているコントが続いたために、観ている側が勝手に物足りなさを感じてしまっただけで、こういったコントが他にも多い年だったら、笑いの量を素直に評価されていたかもしれない。

⑥そいつどいつ
恐怖と笑いの塩梅が、見る人によって評価の分かれるところだったと思う。
私はホテルの一室でひとりでこのコントを見ていたため、恐怖の方が勝ってしまった。

でもこの脚本は一つの正解だとも思う。
やりたいことが100%表現されていたように感じたからだ。
個人的には、妻の動機がもっと序盤に明かされて、馬鹿馬鹿しいコントに振り切るか、最後まで動機が明かされずに、不条理なままコントが閉じる方が好みではあるのだが、それでもすごく良いコントだったと思う。

⑦ニューヨーク
去年の結婚式のネタが審査員に高評価だったので、今年もハッピーな明るいコントで行こう、という戦略がひょっとするとあったのかもしれない。
しかし去年のネタには、素人の余興というものをシニカルに見るような目線が微かに残っていたのと比べ、今年は毒が全くなく、観ている側が勝手に想定していた「ニューヨークらしさ」と齟齬が起きてしまったようにおもう。

ニューヨークは最初から馬鹿をやるつもりで、変なキャラクターとか、目のテープとか、ドリルとか、スライドとかを用意していたのだろうが、そうした楽しいボケが皮相に見えてしまった。

今回の嶋佐が変な行動をするのは「ぶっ壊れた人」だったからとしか理由付けがなく、ボケ方にルールがなさすぎて、私は見方が分からなかった。
(「思いが熱すぎた結婚式の余興 どんなの?」よりも「変な人 どんなの?」という大喜利の方が自由度が高くて難しい、という話です。)

売れっ子になったのに、忙しい中コントを仕上げ、でも敗北して、心から悔しがる姿を見て、芸人って孤独だし、かっこいいなと思わされました。

⑧ザ・マミィ「おじさん」
こんなコントは早くなくなってほしい。

統合失調症という病気がある。
これは実はそんなに珍しい病気ではなく、誰にだって罹患する可能性がある。
統合失調症の患者は、他の人と異なった世界に生きることになる。
幻聴が聞こえたり、妄想としか他人には思えない想念に振り回されたりする。
治療法はあるのだが、症状に自覚がないので治療に至らないまま苦しみ続ける場合も多い。

そんな人に対しては「偏見を持った方が良い」だって?
私は笑えなかった。
金がなく手癖が悪いような描写も統合失調症患者への悪いカリカチュアになりかねない。

そして最後のミュージカル的なシーン。おじさんが感動して歌を歌い出すことの何がおかしいのか。
なにもミュージカルは若くて美人な女性だけのものではないはずだ。
(そもそも去年のニッポンの社長が歌であんなに見事な展開を見せたばかりなのに、歌の使い方が安直でありきたり。)

一見これはヤバいおじさんと純朴な青年の心温まる交流を描いたコントだが、その実、病気の人間が「人間らしい」行動を見せることで笑いを取ろうとしているわけだ。
青年が手を差し伸べてやっている、という構図も含めて、これは差別だ。

今年のキングオブコントは変な人を受け入れる温かい笑いが多かったと評する人が多かったのだが、それは残念ながら違うと思う。
今回のコントのように変な人に都合の良いセリフを喋らせることで、変な人を「我々の側」に無理やり押し込んだだけであって、他者をあるがままに受け入れたことにはなっていないのだ。

でも、ザ・マミィの二人を批判するのも違うということは明言しておかねばならない。
ネタというものは、台本を書く芸人と、それを笑う観客によって成立するものだ。
そして芸人は観客からウケなければ食っていけないわけで、観客が求めるものにすり寄っていかざるを得ない部分がある。
つまりこのネタがゴールデンのテレビで放送された事態は、我々の至らなさの写し鏡として受け止めなければならないのである。

⑨空気階段「SMクラブ」
ストーリー、キャラクター、笑いの数、オリジナリティー、らしさ、全てが完璧。
もう少し贅肉があっても良いのではないかと思うくらいきっちりと作り込まれていた。
もぐらのお腹がポチャポチャしてるのが、気を抜くと面白くなるのがズルい笑

そしてなにより、空気階段のコントは余韻が素晴らしい。
SMクラブにワクワクしながら公務に就いていただろう警察官、火事になった途端キャラも忘れあわてて逃げ出してしまった女王様、SMプレイのすぐ下で社交ダンスに励むミドルたち、明日からの崎山さんの職場の空気…
登場人物たちがみんな生きていて、暮らしをしていて、みじめで、美しいのだ。

⑩マヂカルラブリー『こっくりさん』
めちゃくちゃ良いネタだった!
野田さんのマイムは間違いなくイッセー尾形の域に達している。
例え笑いが一切なかったとしても上質なコントとして楽しめたと思う。

こっくりさんがお尻の臭いを嗅がせているうちに野田君が死んで…というバカバカしさも、あたふたするこっくりさんの可愛らしさも、個人的にはたまらなかった。

しかし出順の影響なのか、客席はバカバカしい笑いが望まれていないような空気になっていた。
ネタは悪くなかったはずで、強いて言うなら村上の役割が薄かっただろうか?


〈1〉男性ブランコ『袋』
結構渋いながら味のあるコントだった。
旧友だと分かった瞬間からの盛り上がりがもっとあって欲しかった。
もっと叙情的な展開をしても、リアリティがなくならないだけの器を、男性ブランコの二人は持っていると思うので!

(これが知的障害者を揶揄していると言っている意見もTwitterで少し見たが、「レジ袋をケチってしまった男の末路」というセリフがあるのだから、あれは我々みんなの中のみみっちさや堅実さを象徴したキャラクターに過ぎない。ここの区別はよく考えないといけない。)

〈2〉ザ・マミィ『ドラマ』
正直、キングオブコントで披露されるべきクオリティはなかった。
展開は完全に予測できる上に、二人の演技力の幅の狭さも目立った。
しずるがやればもっと面白くなったかなぁなどと考えながら見ていた。

〈3〉空気階段『メガトンパンチマンカフェ』
上の二組が不発だったことで、空気階段の優勝を確信しながらゆっくりと見ていた人が多いのでは。
カフェのおじさん、大好きになっちゃうよなぁ。
面白かったのと同時に、この先空気階段は5分間という制約に縛られずに一生コントができるんだ、と二人の未来の活躍を期待せずにはいられなかった。

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