M-1グランプリ2020 感想

準決勝も関西の映画館でパブリックビューイングを見ることができたので、その記憶も絡めながらら、M-1グランプリ2020決勝の感想を書き残しておきたいと思います。
お笑いは非常に移り変わりの激しい分野で、10年前に流行ったネタを見てもどこが面白かったのか、何が評価されていたのか、わからないことがよくあります。
ですから一個人がリアルタイムに何を感じていたかを書き残しておくことは価値のあることで、私自身も先人たちのお笑いブログから多くを学んできました。
言い訳めきますが、個人の趣味嗜好のみを書いているのはそのためです。

①インディアンス
敗者復活戦を勝ち上がっての決勝の舞台だったが、包み隠さずに言うと敗者復活戦の漫才で私はインディアンスを応援するのをやめた。
まずツカミで、コロナ感染のため敗者復活戦を欠場しなければならなかった祇園の名前を出していたこと。
もちろんこれは素直な気持ちで祇園に呼びかけていたのだろうし腹を疑いたくもないけれど、祇園ファンの視聴者票がインディアンスに流れる可能性がある、アンフェアな行為だったことは間違いない。
まあ、この盤外戦術は大目に見るとしても、ぺこぱの出番がすぐ後に控えているにも関わらず、シュウペイのポーズをネタで使用したことは許されるべきではないと主張したい。
ぺこぱのネタを潰しかねない行為だし、実際にもぺこぱのツカミは上手くいっていなかったように思えた。どこまでインディアンスのせいかは分からないけれど。
こういったことは最低限のモラルとして避けなければいけないと思うのですが、みなさんはどうですか。

さて、決勝での漫才について。
敗者復活戦とまったく同じネタだったのだが、Twitterで「敗者復活戦のはアドリブじゃなかったんだ」といった感想があって頭がクラクラした。
それどころか審査員のオール巨人も、噛んだところを上手くフォローできていたという旨のコメントしていたのには啞然とした。

M-1を見た人はもう分かっている通り、インディアンスのこのネタは、田渕のギャグへとつなげるために、きむが台本通りに言い間違いをするという漫才だ。(アドリブだ!と思った人はそれにしてはネタの本筋がなさすぎると思わなかったのかな?)
NON STYLE石田さんの言葉を借りると「揚げ足取られ漫才」。漫才におけるヤラセであって、私はとても苦手だ。

いや、この言い方はフェアじゃない。漫才とは、言ってしまえばすべてヤラセなのだから。
漫才中、ツッコミはボケが次に何を言うか知っているのに、「ふんふん」と相づちを入れ、「コラ〜!」とボケを叱責する。ある意味では漫才のネタは全部嘘のやり取りだ。
でもそれをフィクションではなくリアルなやり取りのように見せることが漫才の妙、イリュージョンではないのか?
インディアンスが最高のトップバッターだという意見もあったけれど、漫才面白みを貶めるようなネタを見せられて、私は大変つらかった。

でも、インディアンスがどの会場でもウケ続けている、その事実は手放しで賞賛したい。
お笑いマニアの巣食うM-1予選でも(大したボケはないはずなのに!)毎年笑いを取っているのは、二人のプロフェッショナルな点だ。
ただ、私は以上のような理由で評価できなかった。

②東京ホテイソン
前年の英語のネタ(This is a pen)が、決勝に上がっても良かったくらいに面白くて、そこから一年さらなる進化を遂げた結果、少しだけ複雑になりすぎたのかもしれない。フリをそれなりに頭を使いながら聞く必要があるからだ。
だとしてもオール巨人の、「ツッコミは客の代弁者なので、ツッコミがわからないことを言うと客がついていけない」という発言は、東京ホテイソンのネタに対しての適切な批評とは言えないだろう。
オール巨人がよく言う、ネタはよく見てますねんけどというのはどの程度なんでしょう?

しかし今年の巨人評が的を射ていないのはおいておくとして、お客さんが何となくついてきていない雰囲気だったのは確かだった。
ネタの入りがもう少し丁寧だったら、たけるのツッコミの力がもう少しだけ抜けていたら?

つまらない感想を言いますけど、これは最下位のネタではないですよ!

③ニューヨーク
これは本当にきれいなネタで大好きです。
流れが美しすぎて爆笑を取るポイントは多くないかもしれないけれど、ずっとぐふぐふ笑えて、見終わった後の満足感は高い、そんな漫才だったと思う。
個人的なお気に入りは、細かいけれど「誰だってやってんだろォ」「やってるかあ」

ここでもオール巨人の話になってしまうけれど、「犬のウンコを食う」というひとフレーズだけで(ウケていたのに)減点されるのは少しだけかわいそう。
老若男女を笑わせるという巨人の姿勢の現れとして見るとかっこいいけれど。

④見取り図
面白さが分厚いというか、人間が出まくった漫才だった。
リリーがずっとマネージャーとして関わり続けるから、盛山とのぶつかり合いがずっと続いて面白い!
(例えば見取り図でいうと結婚相談所のようなネタでは、リリーが色々な人を演じるので、どうしてもショートコント集に近くなりグルーヴ感が出にくい)
その上で色々な場面を見せてくれるので彩りもある。
朝礼のくだりも、導入として自然かつ、二人の関係の説明になっていて秀逸だった。

⑤おいでやすこが
まず準決勝にユニットが上がるということが2020年時点では異例中の異例だったことを書き残しておきたい。
しかし準決勝で一番大きな笑いを起こしたのもおいでやすこがだった。
おいでやす小田のピンネタはいつも見えない誰かに怒鳴り散らすネタだったが、こがけんという実体を得ることでこんなにも明確に笑いやすくなるとは!
ではおいでやす小田とこがけんは最初からコンビを組んでいたら良かったのかというと、そうでもなさそうだ。
お互いピン芸人として、舞台に一人だけ立っていても映えるような魅力を身につけていたからこそ、誰も見たことのない個性的な爆発を生み出せた気がする。
ユニットだからと勝手にあなどっていたら、怒濤のように畳み掛けがあって笑い死ぬかと思った。

⑥マヂカルラブリー
準決勝では吊り革のネタを披露していたので、てっきり決勝でも吊り革をやるのかと思いきや、往年の名作フレンチで勝負をかけてきた。
この瞬間の判断、そしてネタの手応えについては大量のインタビューで本人たちの言葉を聞いていただきたいが、手番直前まで最善手を探り続ける野田のかっこよさには痺れた。
一本目がかなりウケて、特番で数回やっていたマヂラブのオールナイトニッポンがレギュラーになれそうだ!と興奮した思い出。

⑦オズワルド
おぎやはぎやPOISON GIRL BANDと比肩される東京のしゃべくり漫才師。
本人たちもこの二組を、自分たちが被らないように研究しまくったという。

おぎやはぎは奇妙なまでの仲の良さが味になっている。
小木の悪気ない間違いを、矢作がその実直さを尊重しながら一回一回止めてあげる。まるで話が進まない。
POISON GIRL BANDは、阿部の珍妙な発言を、吉田が否定せず話に乗ってあげる。
そのおかげで無限にとりとめのない無駄話が続いていく。二人の間に明確なツッコミはない。

対してオズワルドは両者の美点を上手く取り入れているように思える。
「おい、もしかして君も入れる側の人間?て、聞こえたぜ。まさかとは思うけど。」
この伊藤のセリフはツッコミとして明確な笑いどころを作ることに成功している。しかし畠中の発言を止めているわけではないので、畠中はこの後も自説を展開できる。
POISONの、ツッコミで大きな笑いを起こしにくい点、おぎやはぎの話の展開を生むことができない点をカバーすることで、M-1で「勝てる」漫才を発明したのだ。
勝つことを求めすぎて、後半に用意したギアチェンジはやや唐突になり、松本と巨人にはひっかかったようだが。
個人的には、象さんのポットが一番近いのではないかと見ている。

⑧アキナ
確かに準決勝では笑い声は多かった。
しかし体感では、笑っている人と全く笑っていない人が完全に二分されており、特に女性の笑い声ばかりが聞こえてきた記憶がある。

ウケ量で決勝進出者を決めるのも一つの正解だろうが、このウケ方は決勝の舞台に出るとリスクが高いと判断して落としてあげることをしなければ、審査員の存在する意味がないとも思う。

ネタは散々な評価をYouTubeのコメント欄で受けていたが、入り込めないネタだったと、私も思う。
芸人の楽屋という誰も知らない舞台設定、リズムばかりを重視した二人の不自然な会話、見えすぎていた伏線、などなど。
和牛やアインシュタインとの繋がりで、東京の会場にもファンが多くいたのだろうか?未だに準決勝のウケ方が不思議だ。

⑨錦鯉
準決勝のトリを飾ったネタ。
これまで舞台で勝手をしまくるまさのりさんが渡辺さんにぶっ叩かれるのを、ただ見ている印象だったのだが、今回のパチンコのネタは、ギャグがウケるかスベるかというある種の緊張感を観客全体が共有できたことで、入り込めるネタになっていた。
パチンコで負け続けた経験をも笑いに変えて、スターになれるのだから、お笑いは味わい深い。

⑩ウエストランド
準決勝のAブロックの中では、金属バットと並んでそこそこ盛り上がっていたので、出順も考慮して決勝に上げられた印象。
これは井口の良いところなのだが、M-1の華やかな舞台が全く似合っていなかった。
また、他のコンビが各々の設定を発明していた中で、シンプルにやっかみだけで戦ったのは見栄えもしなかった。でもこれすらも褒め言葉になってしまうのがウエストランドという芸人さんの強みだなあ。
今見返すと、ところどころウケていなくて変な空気になっている気がするけれど、現場はどうだったんだろう…。

最終決戦
〈1〉見取り図
前年と似た形の漫才。
かが屋の加賀の表現を借りると、中華料理のテーブルのように、面白いくだりがぐるぐる続く形式だ。
個人的にはかなり力技に見えた。

〈2〉マヂカルラブリー
M-1史に永遠に名を刻んだ漫才。
準決勝はこのネタで、常に地響きのように笑いが起こり続ける、異様なウケ方をしていた。
M-1という格式の高い場で、あえてルールを破る面白さは、M-1のバグを突いたと言える。
電車の光景がすごく見えるんだよなあ。大好きな、分析するのもバカらしい最高のネタ。

〈3〉おいでやすこが
恐らく本当に優勝できるとは思っていなかったのだと思う、小田のツッコミが練られきっていないように見えた。
1本目を大きく上回ったのはマヂカルラブリーだけだったので正直、最終審査が僅差になるとは思っていなかった。
見取り図2票、マヂカルラブリー3票、おいでやすこが2票で、歴史的な混戦をマヂカルラブリーが制した。
日本で一番面白いネタの後に、商品贈呈でボケようとしてくる日清の担当者は一体どういう図太さなのか。

M-1グランプリの歴代王者の中にマヂカルラブリーがいるのは少し変な気もする。けれど、マヂカルラブリーの華々しい経歴の中にM-1グランプリ優勝の文字があることは、むしろ当然のように思える。

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