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56話(11巻収録話) 字ネーム

※完成版の56話とは一部内容が異なります。


line.56 ワインド

マンションのゲストルームにいるハンス、風呂上り。夜景を見る。
神埼「気に入った?」「このマンションのゲストルームだ しばらくここを使っていいよ」
ハンス「——それで 話って何? なんか人増えてるけど」
白勢、暗がりから現れる「初めまして李ハンス君 厚生労働大臣政務官をやっている 民政新党議員 白勢叶芽と申します」
ハンス、黙って見ている。白勢「単刀直入に言おう 私たちは君に 『広告塔』になってもらいたい」
ハンス「……広告塔? 政党とかの?」
白勢「違う」
「鬼の一般人たちを団結させ そのトップに立ってもらいたい」
「私たちは今の社会ができるにあたって 自然と鬼が団結し反対運動を起こす流れになることを予測していた でも実際はほとんどそれが見られない 対して鬼を排除したがるヒトの集団が増え幅を利かせる結果となった」
「実際 反対運動を起こしたいと思っている鬼はいるはずだ もしくはそういう鬼を支持したいヒトも存在している だがそういったヒトは過激派によって家を燃やされたりしている」
ハンス「あ それ知ってる 見に行った」
白勢「声を上げたくても上げられない 鬼や鬼擁護派は怯えて身を隠している」
「強力な誰かが現れ わが身をさらして牽引してくれたら変わるかもしれない」
ハンス「……」
白勢「君に 鬼擁護派をまとめる役をお願いしたい」
ハンス「俺 人をまとめる能力とかないと思うけど」
白勢「構わない 君は容姿が目立ち 見る人を魅了する やるべきことがなにかあれば ここにいる神埼やエカが指示をする 演説などが必要でも 中身は全て我々が考える」
ハンス、イスに体育座りで座り「——それで広告塔かぁ」
「目立って立ってればいい的なこと? 別に俺じゃなくてもいいじゃない」
神埼「君は一時期鬼狩りを止めて回っていた 素養はある 既にネット上で話題になった経験があるのも大きい」
神埼、近づいてハンスの後ろに。
「髪を触るよ」「いいアイデアがあるんだ」
「君は今のままでも目立つが ワイルドさより清潔感 『ちゃんとした紳士的な』感じが欲しい」オールバックで結ばれるハンス。「みんなが安心してついていきたくなるような…」
ハンス「…容れ物」
神埼「君の中は我々が満たす」「そうして『君』を貸してくれるなら その脚の手術をする」「ついでに住む場所も食費も 欲しいものはなるべく与えよう」
ハンス「……おいしいものは 食べたい」
神埼「それは いい返事?」
ハンス「……どうせ ずっと ひまだしな……」

倉庫に来る石丸組。牧村、そろそろとついていく。待っている沢崎、朝海。
沢崎「……生きてたか」無表情で。牧村、目をそらす。
沢崎が先に距離を詰め、牧村を抱きしめる。
牧村、涙を浮かべる。
朝海、牧村の髪をぐしゃぐしゃ攻撃。「ひっさしっぶりー!」「このばか」
あとから来るナナたち。まゆもいる。まゆ、牧村が自分に見せない弱い姿を見せているのを見て複雑に。
石「沢崎さんは非番?」沢「ああ 朝海は休憩で抜けてきたらしい」牧「ごめん」朝「ちょっと遅いメシ休憩だよ 勘違いすんな」ツンツンする
「そういや滝本がさ あいつC班じゃん」「牛尾をずっと勾留してるからたまに聞くんだけど」携帯見ながら
「いつまでやるんすかって お前に伝言よ」石丸に。
石丸「忘れてました」朝「おいおい」
石丸「でも私たちがキューちゃんたちを保護してるのと同じに 彼も保護されとかないといけませんから」
ナナ「…あいつは生きてるんだな」
石丸「心配ですか?」
ナナ「あいつは平つかさを撃ったと聞いてる 心配というと語弊がある」険しい顔「ただ元仲間だったのは確かだ 生きてるなら 顔を見るのも悪くはない」少し俯き
キュー(……ジューゴも ゼロヨン<仲村さん>もいなくなっちゃったしな……)
石丸「——一回顔見に行ってみますかね 一応11係の意向で保護してるし」
朝「俺はもう戻んなきゃいけないけど 滝本に聞くわ」電話しつつ
石丸「場所は?」
物音がする。足音。つかさが来ている。
沢崎「平さん…」

<回想>
この場所は 特別か
この場所は ありふれている
平凡で 普通で どこにでもあるもの
俺も どこにでもあるもの
どこにでもあるもの?

それでいいのか

ヒーローもの漫画や映画の並ぶ棚
少年期の牛尾。裏庭のいじめを見かける。
生徒「ねえまたやってる」「先生言う?」「うちらが言ったのバレたらどうなるか…」
男子生徒、知った風に「ほっとけよ いじめってのはなくせないんだよ なぜなら役割だから」
女生徒「何 役割って」
「集団でいると必ず起きるもの 例えば先生に言ったとして あいつがいじめられなくなって いじめてるやつもいじめなくなったとするだろ」「それが何年も続くと思うか?」「どうせそのうち誰かが誰かをまたなんか色々理由付けていじめ始めるよ 大事なのは巻き込まれないこと 器用でいないとな」「……って父ちゃんが言ってた」
「先生は 傍観者もいじめる側だって言うじゃんね」
「それも役割だろ? どうにもできねえよ」

それでいいのか ありふれている

裏庭へ行く牛尾
いじめっ子(金を取っている)「なんだよ 見物か?」
牛尾「今すぐ金返して帰れ」
い「ああ…?」「今なんつったよ ヒョロヒョロのクソ野郎が」
牛尾「俺は」「二回同じことを言わされるのは嫌いだ」

腹など殴られた牛尾寝ころび、いじめられっ子と庭にいる。
い「ありがとう……ごめん あいつら いつも見えない場所ばっかり殴るから
お金… 取られなかった?」
牛尾「そもそも持ってきてない お前はなんでカツアゲされる額を持ってくるわけ」
「持ってきても 持ってこなくても 殴られるもん…」立ち上がり、去っていく。

こいつもありふれている おれだけは違う

翌日から机が泥だらけになっている。
牛尾、顔色一つ変えずにタオルを濡らし、自分の机を拭く。
窓から教科書を捨てられる。
放課後呼ばれるが行かず、裏門で待ち伏せされ見えないところを殴られる。
牛尾は平気な顔。むしろ呆れている。

平凡だ それでいいのか
くだらない

くだらない 退屈な
ありふれた結果だ

——やってやる 俺は

母親の書置き<今夜は母さんスタジオに泊まり込みです。作り置きのおかず古いものから食べてね!>
親がいないうちにアイロンを頬に当てる牛尾、温度を上げていく。
我慢し、遠目にうずくまる牛尾。

全身に汗をかき、洗面所に行く牛尾。
鏡の中の自分と目が合い、何か腑に落ちたような気分。笑いがこみあげてくる。

次の日、早朝に家を出る牛尾。頬冷やしながら。校門前で氷をどける。
周りが思わずみんな見る。

「俺はやってません…」親を呼ばれたいじめっ子とともに職員室に呼ばれる牛尾。
「腹とか脚を見せましょうか 痣いっぱいありますよ 俺の前は別の奴にやってた」「でもわざわざ家からアイロン持ってきて人の頬を焼くなんて びっくりです」
「やってねえぞおい!!自分でやったのかよ!?頭おかしいんじゃ——」

牛尾、見下すような目で相手を見る。相手、さすがに気味悪がっている。
牛尾、演技「こんなことしといてしらばっくれるなんて許せない」嘘泣き。

俺は 平凡な男だった
ありふれていた

「三組の浅倉が誰かのほっぺたアイロンで焼いたんだって」
「うわーついに一線超えたって感じ?」
「焼かれたの誰」「見てみたい」
「それがなんか堂々としててかっこいいって」「イケメンだし」
「えー!」「じゃ浅倉の妬みもあるのかな イケメンに対するさ」

この痕は 思いつきにしては上出来だった
俺を ありふれた道から 解放した
俺を 自由にしたんだ——
<>

目覚める牛尾。
足枷がついている。
某所アパート

東藤「交代です 加賀崎さん」加賀崎「ああ」
東藤「うわぁ早速始まったぁ」モニタ消す
加賀崎「消すな ちゃんと見張らないと<何>をするか…」
東藤「<何>って オナニーじゃないですか」
加賀崎「見たくないなら俺が替わる」
東藤「上がったばっかりなのに」「……よく平気ですね 見たくないです僕」
加賀崎「心を殺して見てる」東藤「プロだなぁ」
(そう 心を殺してる)(俺は見たくない 見たくないんだ こんなクズの行為は——)
加賀崎、しばらく見ている。そして急に立ち上がる。
「ヤスキチ」マンガを読む東藤「はい?」
「アパートの裏で警棒を持って待機」

クリップを変形させて足枷を外す牛尾(毎回自慰をするのは10分前後 今日もそのくらいだと思われているだろう そして多分その間カメラは切られている 俺はC班にいたんだ C班のやりそうなことはよくわかる)
(もう耐えられない こんなところに閉じ込められて 足枷まで——)(すごい 足の解放感だ)俯いた顔から、ドアを見る。

ドアを開けた先の廊下、加賀崎が立っている。
牛尾、愕然として「……加賀崎」
加賀崎「確かにあんたが一人でヤり始めてからみんな気を遣ってモニタを切ってた C班はそういう情がある 俺以外は」
牛尾「……え じゃぁお前は ずっと毎回見てたわけ」「怪しんで?」
加賀崎「——」
牛尾「俺が逃げる準備をする機会を窺ってるって?」
「さすが 俺の相棒」
加賀崎、一瞬表情が揺れる。
「……でもつまり 俺はそんな風に 思われてたってことか……」「お前には 信用されてると思ってた」
加賀崎「出会った時から」「あんたにはそういうところがあると思ってた あんたの性格はよく知ってる」
「承認欲求が強く 策略家で 人をいつもどこかで見下している 俺のことも」
「見下してはない かわいそうだと思ってる お前は鬼だから」
「——あんたはズレてる」「間違った方向性の思想や価値観にとらわれてる 不自由な性格だ」

俺が 不自由?

牛尾「……なんで 毎回見られた?」
「俺はカメラを切らせるために結構あからさまに露出して自慰をやってた 全部見たのか?」
加賀崎「……」「見た」「他の当番の奴が見たがらない時は俺が替わりにチェックしてた」
牛尾「どういう 精神状態?」驚いたような半笑いで。
加賀崎「……」「悟りみたいなもの」
牛尾、なにかに思い当たって。俯き加減に目線を合わせず。
「お前さ ゲイなの?」
加賀崎「——」「違います」
「ゲイだろ」
「違う」
「じゃなきゃ説明つかない」
「つかなくない…」
「うわっマジか うわ…」
「やめろ!!」

牛尾「俺の事ずっとそういう目で見てたの?」
加賀崎「うぬぼれるな」
「俺はあんたが 大嫌いだ」
※牛尾、この発言は相棒として無意識に堪える。

そこにやってくる滝本と石丸一行。滝本「っておい! どうなってんだ!?」
加賀崎「……逃げ道はない ここで終わりです」滝本に向かって。
牛尾、加賀崎を無視し、「あれ 武史だ 他にもみんなで仲良く…」つかさを見つけて「へー何このメンバー」「俺を見物に来た?」
「——名前忘れたけど 君は髪が伸びた ゼロキューは背が伸びた ゼロナナは髪切った イレブンは……太った」笑いながら
まゆ、むっとして泣きそうなのを我慢し「っざけんじゃ…」
牧「黙れ直也」
牛尾「何…怒ってんの 武史」
「——」
イレブン、牧村の影に隠れている。
「…うそでしょ?え」「もしかしてそこ デキてる?」
「ブッ」笑い出す牛尾。「すっごい あー…」「武史ってブス専だったとはね」

牧村、少しずつ歩み寄る。牛尾しゃべり続ける。牧村、牛尾の首根をつかみ、
「東京湾に 沈めてやろうか」
まゆ、それを見ている。周りも沈黙。
牛尾、驚いて黙っている。 

牛尾は後ろに手錠をしたまま屋上へ日光浴に。夕方。付き添いは滝本。

石丸「牛尾くんも名前呼び?」
牧村「CCCに入った時 それがいいって言われて」「俺は特に口調や呼び名にこだわりもないから… お前もだろ 部下にもタメ口で呼ばせてた」石丸「でも下の名前で呼ばせるのはちょっと」
牧村「あいつは形から入りたがるんだ 仲のいい形を選んで——」
石丸「優秀なあなたと仲のいい自分に酔うタイプ ですかね」

沢崎とつかさ、一歩ほど離れて加賀崎、一緒にいる。つかさ、黙って座って休んでいる加賀崎を気にしている。
沢崎に連絡が入る。「少し待ってて」
つかさ「……」
「加賀崎…さん」「初めまして あの 平と申します 私は——」
加賀崎「平つかささん」「以前に牛尾が発砲した相手の女性 …ですよね」

つ「ちょっとモヤモヤすることがあって 少し足を伸ばして 以前F班が使っていた場所に散歩に行ったんです そしたら偶然みなさんとばったり会って ついてこさせてもらいました」
加「モヤモヤ?」
つ「ああ それはいいんですけど」「…次牛尾さんに会うことがあったら また口論になるだろうなと思ってました 前撃たれた時もそうだったから」「——でも違ってました 牛尾さんは何か少し 変わりましたね」
加賀崎「随分くたびれてたでしょう 長いこと部屋から出してなくて でも逃げる算段を立ててた」「行く場所なんかないはずだし 俺たちは一応奴を『保護』してるんですけどね 命を狙われないように」
つ「……」
加賀崎「——聞こえてました?」
つ「え?」
「あいつ俺のことを ゲイだって」
つ「……少しだけ」
加賀崎「当たりです」
「でも牛尾は差別野郎だから 特に知られたくなかった」「俺が—— C班に入ってペアになった時から 奴の事を好きなのも」
つかさ、そうか、と理解した顔「…わかっては もらえないんですか 少しでもその気持ち…」加賀崎「無理です」「<そういう>人間じゃない」
「……初対面でこんな話するのおかしいですね」加賀崎はにかむ。
つ「ご ごめんなさい 立ち入ったこと聞いて」
加賀崎「いいんです」「なんか昔からの友達と話してるみたいな気分です」
つかさ、ふと安斎の言葉『お前人と仲良くなる能力高いよな』思い出す。加賀崎と一緒に黙ってぼんやりする。

沢崎戻ってくる「どこだ!?」つかさ「沢崎さ…!?」
沢崎「石丸!平さんを頼む」「牛尾が逃げた!!」

滝本、腹を撃たれている。
「わり…後ろ手に銃取られるとはな…」
「加賀崎 東藤 屋上から牛尾が逃げた…周辺警戒しろ…」
加賀崎「!」
屋上に一瞬姿を見せる牛尾。数発発砲してくる。
つかさをかばって腕をかすめる加賀崎。つかさ「加賀崎さん!」
牛尾すぐに消える。「くそ」加賀崎飛び上がる。
日が暮れてきている。
水音がする。
裏の川へ飛び込んでいる牛尾。
加賀崎、クッとなり「俺たちから自由になったって! あんたに行き場なんかないだろ!!」

水中の牛尾、水面方向を見て。目をそらす。

俺はありふれていた
だからありふれた道から外れて
自由になった——

苦渋の表情の加賀崎、金網を握りしめ。

夜の街。ビルの屋上にいるクイーン。「いい夜風だ」
エカ「李ハンスは?」クイーン「はっきりとした返事はまだだけど 脚の手術はして欲しそうだった 返事を待たずにGPS弾を摘出しよう」「そうすれば貸しができる 今の彼の意志が曖昧でも 協力せざるを得ないと思うんじゃないかな 一見飄々としているが 完全に無責任な男には見えなかった」
エカ「ああ それはそう思う」
ク「彼はハーフだと聞くし この問題に無関係ではない」「……関われば関わるほど この泥沼に足を取られていく 自分が正しいというあらゆる者たちの 正義という名の泥沼に」

エカ「……白勢さんが何をしたいか まだ俺にははっきりとわからない」「対ヒトで鬼の勢力が盛り上がらないことが それほど重要なのか」「どの道俺たちが——」
クイーン「僕と」「叶芽さんと菊原警部はそこそこ付き合いが長くてね」
「鬼の勢力が台頭するのを一番に予測していたのは菊原君だった」「叶芽さんも 吸血欲の全くない鬼としての立場から 関心は強かったんだ」「だから今の状況は肩透かしで …反面 社会における鬼の数の少なさにも諦観を感じてる」
エカ「菊原警部はヒトだろう なぜこの問題に固執する」
クイーン「……多分 彼も<孤独>だから」
エカ「ん?」
ク「いや 正直なところわからない 僕と彼は友人とはいえ 医師と患者の関係でしかないし」
エカ「お前の港区の診察室でよく寝てるそうじゃないか」
ク「嫉妬? 仮眠に鍵を貸してるだけだ」
エカ「知ってる お前を疑っているんじゃなく 菊原警部の考えていることが読めないのが気になるだけだ」
クイーン、ふっと笑う「彼は子供の頃から病院のベッドが好きなんだよ」
エカ「……」

『こちらヨギ 目標Iを視認』『車に乗っている 警護車両はあるが狙うには問題はない』
クイーン「今日の<彼>の大きな予定は参院予算委員会と ブルネイ国王との首脳会談 このあとは場所を移して会食といったところだ」「狙えるか」
『信号で引っかかった』『いける』
エカ「国王の方に当てるなよ」
『まさか』

クイーン「さあ 始まるぞ」「僕らにとっての最後の正義が」

パシュ!

暗転
風呂上りの安斎、TVを見る。後姿。
『番組の途中ですがニュース速報です』『先ほど日ブルネイ首脳会議を終え 車で移動中だった会田総理が 何者かに狙撃されたとの情報が入りました』『繰り返します 車中にいた会田総理が何者かに狙撃された模様です』


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