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文学碑や史跡の逍遥録

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文学碑や史跡の逍遥録
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2021年2月の記事一覧

文学碑ガール  最終章(全3章) 短編小説

最終章  旅館へ帰った川崎と秋山は、座卓を挟み畳の上に寝っ転がり、川端康成の小説を眺めた。古色を帯びる旅館の壁色と、文庫本の紙色がいつしか同化し、壁や天井に文字が浮かんでいるようだった。  日が傾き始め、障子越しに夕日が差し込み始めた。 「夕飯が楽しみやなあ。美味しい刺身を食べたい」 「うん。けれど、三木さんとドライブに行くから、酒は飲めないよ」 「なあ。三木さんとのドライブは、川崎が独りで行ったほうがええやろ。俺は邪魔な気がするわ」  秋山は本をパタリと閉じ、起

文学碑ガール  第2章(全3章) 短編小説

第2章  清澄な黎明が中伊豆に降り立った。相変わらず川の水音は激しく鳴り響き、枯渇を知らないようだ。旅館へ朝日が降り注ぎ、障子にて柔和にされた光が、川崎と秋山の頬を優しく撫でた。会話に会話を重ねた二人は布団を蹴散らし、浴衣が乱れ、新緑と同じように若さを解放していた。 「おはよう」  同時に目覚めた二人は、瞼を擦りながら背中を起こし、枯れた声で挨拶を交わした。 「二日酔いや。川崎は大丈夫?」 「ああ、僕は元気だ」 「流石。根っからの酒豪やな」 「子供の頃から常に酒

文学碑ガール  第1章(全3章) 短編小説

第1章  墨を降らせたように地は暗く、光の泡沫を散りばめたように天は明るい。川崎は都内で借りたレンタカーのエンジンを止めてヘッドライトを落とし、背伸びをした。数時間のドライブにて疲弊した背骨が鳴った。隣には、同じ学部の秋山がシートを寝かせて、リズムの狂った鼾を奏でていた。 「秋山、着いたよ。起きろよ」  川崎は秋山の肩を揺すった。 「お。もう着いたのか」  とぼけた声を出す秋山は、瞼を数回こすった。 「バカ。秋山はずっと寝ていただろう」 「悪い、悪い。帰りは俺が

伊豆で磨かれた文学

こんにちは。 伊豆の文学碑のメモをしていませんでしたので、記憶を掘り起こしつつ花子出版noteを更新します。 川端康成先生の著書『伊豆の踊り子』の舞台でもあります、中伊豆。また、名歌であります、『天城越え』などなど、様々な歌や詩が読まれています。大自然の持つ、絢爛さと脅威の両方が入り乱れ、近代化されていない日本らしい美の香りが漂っていました。 河津川を覗き込むと、その水量にびっくりしてしまいます。終始、ドバドバと流れています。枯渇を知らない清水。耳鳴りを催すほどの水音です