無題

 あの人は許されるのに、私だと許されない事だとか、つまりは稚拙な嫉妬の積み重ね。他人の脳内を覗けるから、私は音楽を聴いている。本を読んでいる。それ以上の理由なんてない。ずっと自分がわからなかった。もっと気楽に人生を歩めたら良い、と思う。思考ばかりしているせいで夜は眠れず、朝日が昇ってきたタイミングで眠りにつくと脳が疲れているからか毎回10時間以上の睡眠をとってしまう。昔から身体が弱くて、度々体調を崩すから母親からは将来の心配をされる。ぼくがいちばん、心配に決まっているのに。そんなどうしようもない人間なのに、無駄に知識だけ積んでいる所為で関係性の浅い人間からは「しっかりしているね」と褒められて、また辛くなる。違うんだよ、ぼくはきみたちよりもっと低いところにいるのに。

 辛い時にはいつも、彼の顔を思い出す。その刹那だけは絶対的な幸福に包まれるのに、直ぐにまた沈んでしまうのは彼がもうこの世界にいないからだ。生き辛そうで、それでも魂を音に乗せて響かせている彼のことが好きだった。人間は、人間が誰しも持ちうる、しかしそれを誰も描かなかった、深層心理をつかれるとその人物に対して「この人だけが私を理解している」と盲目的に信仰する傾向がある、という投稿を見た事がある。ぼくの彼への気持ちは、正しくそれだった。そんな「唯一自分を理解してくれている彼」が、自死の選択をしたのだ。それが深く、深く悲しい。もうこの世に希望はなくなった。最後の砦が消えたのだ。『彼と似た様な人』では駄目で、ぼくには彼だけだった。たった一人の愛した人だった。つまりは、彼がその選択をしたのは、彼が「この世は汚い」と認めて見限ったからだ。そんな世の中で、ぼくはどう生きていけばいいというのだろうか。わからない。このまま思考し続けていけば、いつかはまた光のあるところに辿り着くのだろうか? そんな確証など何処にもない。真夏の夜にひとりでこんな事を考えている、ぼくはどうしようもない。

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