物語「一畳漫遊」 第一話 一喜一憂GISTの乱⑨

 さぁいよいよグリベックの効果判定の日が来ました。CTを撮り終えたけどやはり何も食べる気にはならず、外科の外来でじっと待っていました。不安を抱えながら待つのって、時間がなかなか経たないのよね。居川先生は診察室から顔を出しては患者さんを招き入れている。次から次に他の患者さんが招きいれられている。私の結果が悪いから先生もお話ししにくくて後回しにされてるんじゃないかしら、なんて疑ったりしたわ。

「尾中さん、どうぞ。」
あら、表情がちょっと柔らかいような気がする。いやいやあまり期待せずに診察室へ入りましょう。

「尾中さん、お薬効いてますよ。それもとてもよく効いてます。」
胸の中が弾けるように明るくなった。
「画像を見てください。肝臓の中にたくさんあった影の中で小さいものはほとんど見えなくなっているし、大きいものもかなり小さくなっています。普通効いていても影はしばらく残っていることが多いんですけど、これはずいぶんよく効いているんだと思います。よかったですね。」

 天にも昇る気持ちと言うのはこういうのかしらと思った。まぁ実際天に登ってしまうのはまだ嫌なんだけどずいぶんふわふわした感じだった。でも手放しでは喜ばせてはくれなかった。効果が一時的なこともあると言うこと。薬の性格として細胞分裂を抑えるだけなので、効いているならば継続服用が必要と言うこと。そんな説明を受けた。それでも実際に突き付けられていた影が消えていくなんてものすごく嬉しい。

 次の検査は3ヶ月後と言うことになった。ふわふわふわふわ診察室を出て、ふわふわふわふわ病院を出た。なんだか全てが明るい。全てが輝いている。あらゆるものに感謝である。

画像1

 居川先生はこちらに気を使いながらも、なるべく情報を正確に伝えるようにしてくれている。病に向き合う事は辛いことも多いけど、目を逸していては不安になるばかりだろう。向き合っているからこそ、今日ものように嬉しい気持ちになることもあるわけだ。いずれまた辛い現実がやってくるとしてもね。

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