夢中

  たくさんくるLINEが私の肯定感を爆上げしてくれていた。やりとりに夢中だった。

  次のハイキングの前に生理になって、三日前にキャンセルのメールを送った。
ずっと行きたかったハイキングコース。

 彼からハイキングの写真と誰々と話し得た情報が送られてくる。
○○さんが美人
すごく美人
○○さん、○○さん
だんだん嫌気がさしてくる。なんだこのもやもやは。嫉妬してるのか?友達なのに?
このこけしみたいな顔のどこが?
○○さんとこんなことを話した。
○○さんはこんな人。
どうでもいいそんな人、そんな情報。

 肯定感は爆下がり。
もやもやが募ってイライラしていた。絶っていたお酒を飲まないとやってられない気分になったからコンビニまでわざわざ買いに行って、度数9%の鬼レモンサワーの600ml缶をむんずと掴んでレジに持って行った。家でそれを開け、ついでにネットショッピングのカゴに入れてずっと買おうか買うまいか悩んでいたアクアリウムショップの熱帯魚とシュリンプとアクアリウム用品数点の購入ボタンを押してやった。その勢いで彼にさよならを告げた。勿論、LINEで。
「人生は短いです。自分が一番一緒にいたい人といるべきです」なんて大人ぶってみたが、要は「そんなに美人、美人いうんなら美人といれば!?」をまわりくどく遠回しに皮肉も入れてオブラートに包みまくっていい人を演じながら、それがバレないように言ってやった(書いてやった)。振られるより有利な立場でいたいだけだ。自尊心を保つための強がりだ。
 しばらくすると通知画面に「取り消しました」の応酬がきた。次から次に取り消されていく画像や言葉。昼間のハイキングのものだ。ガンガン消してくる。通知が止まらなくてスマホが使えないではないか。それもイライラを増幅させた。消すなら送ってくるなよと内心思ってしまう。
 嫌味ついでに「この顔の人は私の地元にたくさんいる顔ですよ」と送っといた。

 それから一日で仲直りをした私たちだったが、私の気持ちは前の自己肯定感爆上がり無双状態から冷めてしまい、ちっとも嬉しくなくなってしまった。あんなに楽しかったLINEが虚しい。心に嘘をついているような気さえする。お茶をする約束も一応はしてみたが、全然乗り気じゃない。だって彼は一度であっても、私を二番にしたからだ。
 私はそんな美人が気になって仕方なくなった。前に一緒にハイキングに行った人がその美人とやらともハイキングに行っていることを知った。写真を貰えないか頼んだらすんなり送ってくれてその人が誰か教えてくれた。
教えてくれた人からすると
「ぇえそんな美人いたかなぁ?」という印象だったらしい。「多分、その人がタイプだったんじゃない?」と。さすがハイキング中ずっと私につきまとっていただけはある「肩岩さんの勝ち」「肩岩さんには敵わないよ」と嬉しい言葉をくれた。

 彼は別居中の妻に写真を見せて相談したらしい。私のことを別格で本物だと言ったと、そして彼が美人だと言った人を「こんなのに騙されるとは、色白なだけ」と言い放ったらしい。
 それから彼の態度が変わった。なんというか下手にでるようにお伺いをたてるようなそんな感じにかわった。しかし、どうも私の自己肯定感が上がらずなぜか虚しさまで感じるようになった。色々な口説き文句を言われても、ちっとも嬉しくない。

-つづく-


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