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【第三夜】バカという言葉を使わずに意識高いバカを表現する

「メロス…バカだよ…」
僕は思わずつぶやいた。
「バカだよ?」
花純姉ちゃん、酷い。なんでそんなに…バカにできるんだよ、こんなに一生懸命なのに!メロス、可哀想じゃんか!
「ナニ熱くなってんの?」
「だってさ…メロス…こんなに頑張ってるのに…」
「頑張りゃいいってもんじゃないでしょうが」
「でも!やっぱり、報われて欲しいよ…」

クイズ・ギリシャ人に聞きました

「いきなりですが質問です!メロスはなに人でしょーか?」
「えっ?」
「3・2・1…はーいタイムアウト。おそらくメロスはギリシャ人」
花純姉ちゃんは僕の頭をペチンと叩いた。
「ナニするんだよっ!」
「セリヌンティウスは、縄打たれた。鞭で打たれるのは痛いよ~?鞭で打たれたことある?」
「あるわけない!」
「じゃ、次。メロスは何歳くらいでしょーか」
「若者だから…20歳とかそれくらい?」
「おー、いいねいいね。じゃあ、メロスはおバカさんでしょーか?」
「…え?」
「最初のところ見てごらん。『メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。』つまり、のんきな羊飼い。ということは?」
「学はないよね」
「そう。メロスは学がない。けど、正義感だけは強い。『けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。』からね」
「それがなんなのさ…」
「ちょっとは落ち着いた?」
「いきなり叩かれていたかった…」
「あ~ん、ごめんごめん。だって熱くなりすぎてるんだもん。『走れメロス』に限らず、物語を楽しみたいならちょっと離れたところからツッコミ入れつつ読んだ方が楽しいよ」
「どういうこと?」
「のめり込みすぎるなってこと」

羊飼い

「はい。じゃあおさらい。メロスは若いギリシャ人。羊飼いだからそこそこ筋肉マッチョなんじゃないかな」
「それで、少なくとも政治には興味がない、だよね?」
「うん。それで、たまたま用事があって、久しぶりに都会へ出たら、なんか昔と雰囲気が違う」
「ええと…『歩いているうちにメロスは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。』このあたりかな?でも、日が落ちたら…この時代だし、街灯もないでしょ?くらく感じるのは当たり前なんじゃない?」
「だいぶいい勘してるじゃない」
花純姉ちゃんに認められるとちょっと嬉しいな。
「そう。まぁでも、不思議に思ったメロスは村人Aを捕まえて聞いてみた」
「RPGじゃないんだから…」
「そう、そこ。これがね、RPGならいいのよ。村人に片っ端から話しかけて、壺を叩き割りまくって、勝手にドアを開けて他人の家に入って、机の引き出し開けてへそくりゲットしても、RPGだから」
「RPGに何か偏見持ってない…?」
「持ってる。でもおいといて。メロスは村人Aを捕まえて『なんか暗くね?』って聞いたら無視された。だからそこらを歩いてる村人B、この人はおじいさんだね。このおじいさんを捕まえて、語気を荒げて身体を揺すって聞いてみた」
「恐喝じゃん」
「怖いよねぇ…。知らない人にいきなり話しかけられるだけでもびっくりするけど、大学生くらいのそこそこ筋肉マッチョな男が、おじいさんつかまえて『なんで町が暗いのか答えろ!』って揺さぶってるの」
「おまわりさんこっちです!案件…」
「そりゃ、おじいさんも小声になるよねぇ…『老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。』ってあるけど、辺りをはばかるっていうより、メロス怖い」
「なるほど…」
「さらに問題はそのあと。『メロスは、単純な男であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ王城にはいって行った。』からの『調べられて、メロスの懐中からは短剣が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。』このあたり」
「短剣はダメだろ…」
「旅してきてるからね。短剣くらいは持ってても仕方ないと思うけど。でも、『呆れた王だ。生かして置けぬ。』って殴り込んで来た筋肉マッチョ男子が短剣持ってたら、しかも買い物かご背負ってたら…どうする?」
「おまわりさんこっちです!!!全力で!!!」
「でしょぉぉ? だいたいさ、おじいさんの話で『王は人を殺します』ってあるけど、殺されたのは『王様の妹婿さまを。それから、御自身のお世嗣よつぎを。それから、妹さまを。それから、妹さまの御子さまを。それから、皇后さまを。それから、賢臣のアレキス様を。』ってあるように、ほぼ身内。あとは臣下のものたちね。だいたい暴君っていうと罪のない民衆を残酷な方法で殺したとか、奴隷を大量殺戮したとかだけど。おじいさんは民衆に手をかけたとは言ってない」
「確かに」
「だいたい、このおじいさんも本当のことを言ってるとは限らないからね?あと、命令を拒めば殺される。王政下なら当然あり得るでしょ?」
「うん…」

メロスが渋谷にやってきた

「このあたりを現代に置き換えてみよっか。まず、メロスは筋肉マッチョなフリーター。妹にプレゼントを買うために、渋谷あたりへやってきました。新聞も読まなければ、ニュースも見ないし、ここに来たのも久しぶりだけど、僕にはわかる!なんか渋谷の雰囲気悪い!」
「完全にやばいヤツじゃん…」
「だから、ちょっとすれ違ったサラリーマンに聞いてみたけど逃げられた…。どうしようかなと思ってたら、おじいさんがこっち見たから捕まえて、ちょっと脅して聞いてみたよ!」
「おまわりさぁぁん!」
「そしたらおじいさんが『都知事、側近たちが犯罪を犯したと言って、全員刑務所に送っちまった。秘書も解雇されて路頭に迷ってるらしい。繁華街のパトロールも厳しくなったし、株やら不動産やらで儲けたらバカみたいな税金がかかる。拒むと警察がやってきて即逮捕』って言う情報をくれた」
「おじいさん、それ当然のことなんじゃ…」
「だから僕は!都庁へ行ったんだ!うっかり包丁持ってたけど大丈夫だよネ!って思ってたらボディーチェックされて包丁見つかっちゃったよ!でも正義のためだし、悪いことなんてしてないモン!」
「いやダメだろ」
「暴れたりゴネたり、脅したり色々したんだろうね。包丁なんか持って歩いてたら即捕まって拘置所行きかもしれないけど、都知事は会ってくれたのよ」
「優しい!」
「優しいかどうかはわからないけど、とりあえず事情は聞いてやろうと思ったんだろうね。まずは事情を聞く。当然だよね」
「そうすると、いきなり暴力に訴えようとしたメロス、ダメじゃね?」
「うん」
「王様…都知事?どっちでもいいや。案外まとも?」
「現代ならいきなり処刑とかあり得ないけど、古代ローマの時代ならその場で首ちょんぱされても文句言えないよね」
「首刎ねられたら文句は言えないけどね…」
「へりくつ!まぁいいでしょう。王様は案外まともだったってこと」
「案外まともなのかも知れないけど、でも...じゃあなんでそんな身内まで殺すようなことになったんだろ?世継ぎって言ったら自分の子供でしょ?なんでまた…」


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