夫が5万円の眼鏡を買った話

夫が5万円の眼鏡を買った。

5万円である。
諭吉さん五人分である。
夫は極端に視力が悪いわけではない。
にも関わらず5万円である。
正確に言えば4万円のフレームと1万円のレンズである。
正確に言ったとしても高すぎである。


昨年末から
「新しい眼鏡ほしいなー」
と呟いていたし
「このブランドがよくてー」
なんて話していた。
今思えば頑なに値段を言わなかった。
あの頃から今回の5万円の眼鏡を狙っていたのだろう。
確信犯である。

そういえば家に帰宅するなり
「今日7万円の眼鏡勧められちゃって…」
なんて話もしていた。
7万円する眼鏡も良かったけど我慢して5万円で済ませたよとアピールしたかったのだろう。
もうここまでくると7万円だろうが5万円だろうが関係ない。
私にとっては高すぎる、ただそれだけだ。

「眼精疲労を予防するレンズにしたんだ」
と嬉々として語る夫。
そのお値段1万円。
実際に使ってみないとわからない機能に1万円を出せるとは素晴らしいチャレンジ精神であるが
そのお金は家計費から出ている。
家計費で夢が叶う壺を買うみたいなことしないでほしい。

夫の話を聞けば聞くほど白目をむきそうになった。


ああ5万円。
5万円あったら今日の夕飯は奮発して特上寿司の出前をしていただろう。
5万円あったらなかなか手が出せなかった近所のちょっとお高め焼肉屋のテイクアウト弁当を買っていただろう。
5万円あったら娘たちの秋服を買っていただろう。
5万円あったらTVのHDDを増やしてタイムシフトマシンの録画チャンネルを増やしていただろう。

考えれば考えるほど
5万円を相談もなしに勝手に使った夫に対して腹立たしさと虚しさしか感じない。
眼鏡は生活必需品であり、それの購入は必要経費である。
それにしたって5万円は、5万円は高すぎる。
当たり前に家計費のクレジットカードで購入しており、夫の財布は一切傷んでいない。
今は私が育休中で食費が上がっていて家計費を調整しているところだった。
だからこそ一言相談してほしかった。
5万円の眼鏡買いたいんだけど、と。
そんなこと聞かれたら絶対に却下していた自信がある。


今頃、夫の新しい眼鏡は福井県の鯖江で作られている。
10日もすれば自宅に届くということだ。
夫はその日を指折り数えて待つことだろう。
実物を見れば5万円の価値があると思えるのだろうか。
恐らく5万円の価値はその眼鏡をかける本人にしかわからない。
きっとわざとらしく
「目が疲れなくなった」
とか言い出すのが目に浮かぶ。
そして私は夫の5万円の眼鏡をしばらくの間、家計から旅立っていった諭吉さん五人分として悲しい瞳で見つめ続けるのだろう。

失った信用を取り戻すことは、容易ではない。

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