かわいいひと

私は昔から残念なイケメンが好きだった。
残念なイケメンというとちょっと語弊があるかもしれないが、一見欠点のなさそうな人なのにセンスがダサかったり、おバカさんだったり、天然だったり……というギャップにものすごく弱い。

例えば、おねがいマイメロディというアニメに柊恵一というイケメンキャラがいる。
彼は、お金持ちでイケメンで天才ヴァイオリニストでクールで女子の親衛隊もいて文武両道で……という完璧超人である。結構な冷血漢だが。
そんな彼はクロミちゃんのパートナーとして色々と悪事を働くのだが、物語が進むと悪事がバレて罰として「ウサミミ仮面」になる。
ウサミミ仮面については各自調べていただきたいのだが、クロミちゃんたちを裏で操っていたダークヒーローとして描かれていたイケメンが、突如ヒロインのピンチにピンクのウサギコスプレで嫌々召喚されるシーンは幼心に大変ショッキングで、雷に打たれたような衝撃だった。

それからというもの、イケメン(一見欠点の無さそうな男性)に覆しようのない欠点があるといてもたってもいられなくなってしまった。

漫画やアニメでもギャップの大きいキャラをすきになるし、現実世界でもギャップが大きな男性に心を奪われがちである。

かく言う私の恋人も「残念なイケメン」タイプである。
若い頃は三浦春馬さんに似てるなんて言われていたらしく(私は市川知宏さんや君沢ユウキさんに似てるなと思っている)、本人もカッコイイと言われ慣れている様子である。
身長が高く、小顔で目鼻立ちもハッキリした華やかな印象なので、見た目だけなら若手俳優の間に入れても遜色ないかもしれない。
見た目だけなら。

イケメンの皮を被った彼氏は、まぁまぁなメンヘラで子犬系男子であった。
私が会いに行くと、それまでの寂しさを埋めるようにベッタリで、まるでママに甘えたい盛りの子犬みたいになる。
家からすぐの自販機にジュースを買いに行くにも、「心配だからLINEの通話を繋げていよう」と言うし、私が実家に帰る時には、1人になる寂しさから「今日もきっと眠れない」「君がいないと俺は何も出来ない」「俺と一緒に居たくないんだね」「次会うのは来世だね」などと可愛い八つ当たりをしてくる。

また、ADHDの気もあるので、次の瞬間すっかり記憶がなかったり、そもそも話を聞いてなかったり、ゴミ出しを忘れていたり、冷蔵庫の中がグチャグチャだったり、部屋に脱いだ服が散らばっていたりと、どうにか1人でも生きていける生活力はあるが、サポートをしないとどんどん生活環境が荒れていく。

人によっては彼の態度は重たいだろうし、ウザったく感じるだろう。
私も帰る度にぴえんぴえんされると良心が痛む。
行くたびに洗濯物を部屋中からかき集めて洗濯機を回すのと、空になったペットボトルをかき集めて処理するのには慣れたが。笑

しかし、彼氏もヘラっているばかりじゃなく、仕事終わりなのに文句も言わず料理を作ってくれたり、お風呂の準備をしてくれたりと、私がうつで上手く体が動かせないことを知っているから、私に無理させまいとせっせと頑張ってくれる。
愛情も、誰よりもストレートに伝えてくれるし、私と居ると幸せだ、と上機嫌でよく分からない歌を歌っている。
そんな様子を間近で見ているから、ヘラっていたり生活がグダグダだったりするのも「こんなことが彼は苦手なのね、助けてあげなきゃ」と思って愛しくなる。
こんなに愛くるしい人に、私は出会ったことがなかった。

男の人でメンヘラ好きな人をしばしば見かけるが、可愛い見た目と庇護欲で鷲掴みにされるんだろうなと思う。
彼氏のことを守ってあげたいとはそんなに思わないが、私が居なくなったら生活がままならなくなるだろうなとはひしひしと感じるし、じゃあ私がそばに居てあげたいと思う。

人は足りないところがあるから魅力的なんだと思う。
浮気をするとか、酒癖が悪いとか、暴力を振るうとか、ギャンブル依存だとかじゃなければ、ちょっとくらいのメンヘラや忘れっぽさなんて可愛いものだ（メンヘラが好きというわけではなく、彼だから許容できるだけ）。
それに、欠点のないイケメンなんてつまらないだろう。
私は、彼氏の足りない部分もまとめて愛しく思っている。
だって、足りないところは私が補えばいいのだから。