見出し画像

1月22日開催 RP人狼〖コエノナイセカイ2〗ウィル視点について

 ──此れは、とある少年の物語。
 誰よりも弱かった少年の、物語。

 こんにちは。日月葉桜です。この記事では、先日参加させていただいた、人狼ジャッジメントを用いたRP人狼〖コエノナイセカイ2〗で、私の演じました、ウィルについて語っていこうと思います。

 こちら、RP人狼本編のネタバレを含みますので、宜しければ、主催者のなごん様の視点動画を視聴いただけると、私も嬉しくなるます。

 ──それでは、私の演じた『少年』について、語っていこうと思います。

キャラクターについて

 先ず、ウィルについての情報から。……といっても、そこまで多くは無いのですが。

僕について

 今回の世界線は、近代東欧の紛争地域。
 彼は、所謂その紛争に駆り出された『少年兵』です。正確には、年齢的な定義から外れてはいるので、『元』とは名乗っていますが。

 多少替えの利きにくい認定をされつつも、軽く見積もられた命。
 多少量は多くても、それでも決して多くのない食事。
 何より、絶え間なく響く銃声。

 ……──結果、考えるのを止めることで、感情を無くすことで、彼は『生きる』ようにした。そうして、『大人』になったように振舞った。……本当に大人になっているのか、彼には分からないのだけど。教えてくれる大人も、いないので。
 ……まあ、本当に〖無くして〗いたかは、別問題ですが。

 彼が兵士になる迄の過去は、……本人が忘れているので、無いです。そして、思い出すことも無いのかなと。……いや、ふと忘れた頃に思い出すかもしれないですが、それよりもずっと大事な『記憶』が出来たので。
 あと、強いて言うならば、私の演じる『ウィル』というキャラクターにしては、きっと低身長な方になった気もしますね。恐らく、大きくても175㎝より大きなことはないのだろうな、と。

 彼自身については、こんなところ。

彼と他者との関係性

 先に言います。本編だと触れきれないくらい関係を組んだ自覚はあります。それでも、私個人としては楽しい試みだったので良かったです。
 ただ、本編だと、なんとなく知り合いなのかなあと、見える描写があった程度の人物も多かったも事実。
 ──感情の希薄な彼でしたが、実は、作中最も、明文化関係組が多かった。
 そんな、彼の人間関係について、次は話していこうと思います。

ジェシカ

ジェシカについて

 今回のペア相手──つまりは、大切な人。失わなかった、そして、成長のした、大切な〖妹〗。
 彼本人が、彼女を〖妹〗と口にするのは、それを本編迄に口に出来たかと言われると、出来てませんが。
 気付いた時には、彼のセカイの一部であった、12歳の少女。たまたま訪れたこの国は紛争中で、巻き込まれ、親を失い、戦争孤児となった。ごく普通の少女。ゴミから残飯を漁って、なんとかその命を繋ぐ、──僕と同じように、心を無にすることで、何とか生きてきた少女。
 僕に教えられるのは、書類を読み、簡単に作成するために必要で、忘れ去った記憶が薄らに覚えていた文字の読み書きと、戦場での生き方だけだったけれど。
 彼女への感情は、もう一人の人物を語ってから、深く話していきます。

アーニー

アーニーについて

 もう一人の大切な人。そう私は断言します。
 性質上、ペアは一対。当たり前の事実です。だから、彼とはペアではない。そもそも、ゲームメタ的な話をすれば、彼は〖死亡〗する事が確定しているキャラクターでした。
 自分よりも九つも下だというのに、心を失っていない少年。そんな少年に、本当は耳を傾けなかった方が……よかったのかもしれない。
 ……それでも、ウィルにとって彼もまた、かけがえのない存在だった。
 一兵士、同僚の一人ではなかった。
 ──彼は〖弟〗だった。僕にとって、大切な、〖弟〗だった。

二人の〖家族〗

僕の〖きょうだい〗について

 其れは、幸せだった記憶。
 其れは、停滞すら、心のどこかで望んでしまった幸福。
 其れは、──言葉にしきれなかった愛情。

 恐らく少年兵となる時、ウィルの両親は死んだことでしょう。
 そんな彼の、新たな〖家族〗。ただの少年は、二人の少年少女と出会い、〖兄〗になり始めていた。……〖大人〗になり始めていたかは、別ですが。

 それでも、二人と接していた彼は、確かにぬくもりを覚えていた。
 三人で寄り添って寝たこともあっただろう。決して自分も多くのない食事を二人に分けようとして、妹と弟に怒られたこともあったに違いない。きっと、文字の読み書きも教えあった。銃声と爆発音の聞こえる度に、二人の頭を優しく撫でた。
 ……嗚呼、幸せだった。確かに幸せだった。
 言葉に早くした方がよかったんじゃないかって、後で後悔してしまうくらい、三人で寄り添い、これからもずっと一緒にいると、心の何処かで信じ切っていた、あの明日の確証のない〖日常〗が、幸せだったんだ。

マリアンヌ

マリアンヌについて

 ある日、何故か前線にいた、ぱっと見でも外国人だと分かる男。それ以来何かと絡んでくる、陽気で軽薄で、自分よりは三つ上の、不思議な〖友人〗。それが彼への感情でした。……友人と言い表せるのは、もう少し先だと思うけれど。

 ……実は、彼については、漠然とした違和感を覚えていました。
 彼の演者は言ってました。
「全方位から〖クズ〗と言われるキャラにする!」と。
 実際そうでした。満場一致で〖クズ〗って言われてました(笑)。感情の希薄なウィルですら、上記の表現をしてるので、明白です。
 だけど、実は関係を組んだ最初から、マリアンヌはウィルのことを、〖友人〗と一貫して表現した。冗談でも他に口説いているのにも関わらず。妹と弟について、あと何年とか、冗談でもぬかしやがるし、なんなら刺された男のこと好きなくせに。……僕だけ、一貫して、〖友人〗と表現した。
 殺しかける程度で変わるとかではない。最初からそうだったのだから。
 ……嗚呼、絶対何かあると、私は思いましたし、僕も、薄く違和感を覚えてた。……言わないことは、終わるまで聞かなかったけれど。

 彼については、また後で話すことにします。今言えるのは、──後日談で、ウィルが本当に進むための、キーマンであること。
 そして、ここまで彼との関係が捻じれると、思わなかったこと。
 ……嗚呼、結構あっさりとした関係になると、最初は、思っていたんだ。

クリス

クリスについて

 一回り以上離れた、ウィルの上司。己の意思を持つ人。そこに何処か羨ましさを覚えも、……していたかもしれない。
 ……正直、それ以上に、この上司こそ、先の〖マリアンヌを刺した男〗です。
 こんな側面もあるんだなあ……、なんて表現してますが、要は『メンヘラ』って言葉を知らないウィルが、「え……、僕の上司ってそういう……?」って思ったってことですからね(笑)
 可笑しいな。普段は冷静に、そして時には非情に徹してでも、己の正義を貫く格好いい上司の筈なんだけど……。
 マリアンヌを助けて、二人が対面して、マリアンヌさんは笑うし、クリスさん変な顔するしで。……うん、僕は悪くないからね。

 コイツがウィルの関係先で、屈指のギャグ担当になるなんて、誰が想像ついたよ。私はつきませんでした。

ローラ

ローラについて

 常連のBARのママさん。実は、住む場所としては、向こうは敵対組織の方の出身だったりします。だけど、彼女の人柄で、境界線上にある彼女のお店は、不可侵の、憩いの場だった。
 そんな場所で、……まあ年齢のことは目をつぶってください?彼は、〖兵士〗だったし、〖大人〗のフリをしていたので……、お酒を飲むこともあったし、きっと〖家族〗三人で来ていたこともあった。──その時はジュースの方飲んでたかな。あとはマリアンヌさんの滞納を捕まえることもあっただろうし。
 そんな、きっと〖日常〗を司る空間を作ってくれていた、女性。
 ──と、今なら表現できるかと。

 ……あ、マリアンヌのところで書いた、彼を半ば無意識に殺しかけた事件(笑)は、この店でしました。本当に迷惑かけました。ウィルはいい子なのでちゃんと金払ってます。

マイク

マイクについて

 敵対組織の友人。マジで本編時触れられなくて申し訳ない。君との出会いとか、会話とかは書きたい、私が。
 富裕層の青年(相手の方が結構年上だけど)と少年兵。一体何があって仲良くなったのか。
 それは汚れ仕事をさせられていた者同士だったから。こんな育ちの良い人なのに、否、だからこそさせられているのか? そんな風に思ったからこそ、心を通わせる機会があったのかな、と。
 彼は、僕のことをどんな風に思ったのだろうか。
 まだ〖子ども〗だと憐れんだのか。対等な〖友人〗として見ていたのか。──どちらかというと、後者だろうか。本編で、僕を落ち着かせる時の声色は、僕を対等な存在として扱っているように聞こえたから。
 そう考えると、かなり気楽な関係だったのだろうなあ、と。それは、所属する組織としては、敵対のしていたからこそ。そして、彼の大事な存在をしっていたからこそ、そこできっと、『嗚呼、君も同じなんだ』って、思ったに違いないから。

フランク

フランクについて

 恐らく自分と年齢の変わらない青年(少年……?)。境遇は、何処か〖妹〗を想起させる青年。そんな彼の面倒を、時々見ることがあった、そんな間柄です。……向こうに心を開き切ってもらえていないことから、ウィルも、自分がマイクと所属する組織が違うことは、言えていないのかな、と。
 それでも、無碍にはできないのだろうな、と。
 自分にも大切な〖妹と弟〗がいるし、それを失うことが、どれだけ恐ろしいかを、……当時言語化出来なかっただろうけれど、本能的に理解していたのだから。
 だからこそ、フランクのことを頼まれた時は、……流石に僕の領地の方に露骨に連れ込んで、安全を確保することは、マイクが引き取りに来るときに難しいから出来なかっただろうけれど、それでもちゃんと面倒見ていたんだろうなあ。


 ──さて、事前に関係について話した人物についての説明はこんなところ。
それでは、本編に触れていきます。

本編(ゲームの流れ)

 プロローグ

 ──きっと朝方は、からりとした、砂埃の飛び交いやすい天候だったに違いない。僕らに最高気温なんて考える思考は無いが、少なくとも、自身も相手も、疲弊しやすい天候になる、そう思ったに違いない。
 然し、その予想とは打って変わり、僕以外の人間が見れば、それは不幸の前兆のような空模様となり始めていた。
 ……そんな予兆に気付けていれば、僕は、何か変えることが出来たのだろうか?
 そんなことを考える頭は、この時の僕には無くて……、ただ僕らは、最前線で、雨の降りしきることなど関係なく、戦場を走る外無かった。

 ──怪我なんて、日常茶飯事で。その傷から細菌等が入り込み、死亡する兵士も、少なからず見てきた。僕らは今の所、時々傷を負う程度で済んでいるけれど。
 何時もみたいに、アーニーは僕に「いなくならないでね」と言った。
 何度も何度も聞いたこの言葉に、僕は、……一度返事をするか悩んだ、気がした。言葉として、僕の口から生まれ出ることが無かったから、「なんでもない」と、結局口にしたのだけど。
 
 ……嗚呼、この時に言葉にしていれば、何か変わったのだろうか?
 そんなこと、考えるだけ無駄だと、言われてしまうかもしれないけれど、考えずにはいられないのだ。

         『それは、僕だってそうだよ』

 たった一言言えていれば、セカイは〖弟〗を奪ったりしなかったのかな?

 そんなこと、この時は考えず、僕らはローラのBARまで向かっていった。何時も通り、そう、僕も、きっとアーニーもこの〖日常〗が続くと思っていた気がする。
 ……〖これ〗が僕にとっての幸福だったと、あの時は知らなかったけれど。

 空が嫌に変化した。アーニーの先に、きっとウィルはジェシカも見たのだろう。アーニーも、それを見て、重たい銃を揺らしながら走り出したに違いない。

 ──その光景を見て、未だ理由の説明の出来なかった微笑を浮かべていた時だった。
 空から嫌な音がした。ハッキリと覚えているわけじゃない。
 だけど、きっと、僕は確かに、あの子たちの名前を呼んだんだ。
 呼んで、叫んで、手を伸ばして──……、

 ──……何も、考えられなくなって、そこで、僕の意識は途絶えた。

 ……一生忘れることのない、きっと暫くは何度も夢に見てしまってもおかしくない光景が、──目の前で〖弟〗が、……きっと言葉通り〖神の雷〗に撃たれる瞬間を、ウィルは目にして、意識は、暗転した。

 目覚め

 目を覚ますと、そこは真っ白な世界。何処までも白の世界。さっきまで背負っていた銃も、弾も、何もない。──強いて言うならば、身体が痺れる様な感覚なことくらいで。声は出せない。喉から風だけが通り抜けるような感覚。
 でもそんなことはどうでもよかった。   ねえ、二人は?
 僕は叫んでいた。倒れていたアーニーを、意識のない、……あの、雷に撃たれた直後で時を止められているようなアーニーを、見つけて。
 クリスさんやマリアンヌさんは、珍しいものを見たような眼で僕を見てきたが、ああそんなことどうでも良くて。
 ジェシカが見当たらなくて、叫んでいた。こんな不可思議なセカイに、本当はいるべきではないのかもしれないが。不安で不安で堪らなかったから。
 そして、獣のように周囲に威嚇している様な、とても聞きなれた声が聞こえた。その声の主を、ジェシカをを抱きしめて、やっとわずかでも安堵を覚えた。そこで、やっと他にも知っている人間がいることに気付けた。
 その安堵の中、もう一人、聞き覚えのある呻き声とも取れる、それでも、やや高い声が耳に入る。
 僕は、背後にいる声の主に、……あの瞬間手の届かなかった〖弟〗の方を振り返る。
 息が上がりそうになるのを必死に抑えながら、〖ここ〗に来るまでのことを思い出す。頭が痛い。嗚呼、やっぱり僕は、アーニーを、庇いきれなくて、間に合わなくて……。
 守ろうとしてくれてありがとう? 当たり前じゃないか? 僕は君の……、君は、僕の……。
 ……嗚呼、なんで言葉にできなかったのかな。庇えなかった自分が〖ソレ〗を名乗るなんて、相応しくないと、そう思ったのだろうか? そもそも、そんな表現が、あの時の僕に無かったとも言えるのだろうか……?
 真実なんて、もう分らない。分かるのは、『説明』なんて言葉を口にしたアーニーに、何か嫌な予感を覚えたこと。
 ……今、言い表すならば、神の使いに、アーニーは成らされたような、そんな心地がしたのだ。

 ──なんにせよ、アーニーから聞いたこの〖セカイ〗について聞いた。
 後に配られる『ミッション』をどちらも達成できなければ、愛情を失うことに、何故かひどく動揺をしたけれど。
 ……どうしてだろう。失うものなんて、何もなかった、うんん、なくし切ったはずの僕なのに。この時は、その答えを出せないままでいた。

 絶対に被ることのない、『大切な人』。
 その言葉と、今ここに存在する人間は、〖13人〗であるという事実が、僕に叫びたくなるような衝動に駆られるほどの不快感を覚えさせた。同時に、それを口に出したくもなかった。僕の心が認めようとしていなかったから。
 ……だけど、僕の抱いていた、若しかしたら皆が抱いていた『違和感』を、ジェシカは指摘した。
 アーニーの回答が、嫌な可能性を、仮説を、確固たる結論として伝えているようで聞きたくなかった。
 ジェシカを大切に思う相手には心当たりがあった。──まだ、喉がつっかえて言葉にはならなかったけれど。でも同時に、アーニーを大切に思う人にも心当たりがあった。

              ──どっちも、僕だ。 

 ねえ、どうしてそんな残酷なことをするの?
 二人とも大事にしたっていいじゃん。 
 それの何が悪いの?
 ねえ。
 ちゃんと守るから。
 ちゃんと二人とも守るから。
 大事にするから。
 おねがい。
 お願いおねがいおねがい。
 そんなこと、しないでよ……。

 ……そんな、僕らの不安を取り除くための、アーニーの笑みだったのだろう。でも、僕はその笑みが、今は一番要らなかった。僕は全く安心できないよ?
 それでも時間は話は進んでいく。ここにいる13人の自己紹介が、始まり、最後に、僕らの自己紹介を始めたのだ。

 ……とうとう口にしてしまった、気がした。
 勘違いはしてほしくなくて、でも、今更の様な気もして……──だけど、結局は二人の、かけがえのない〖家族〗だと、〖きょうだい〗だと、僕の〖妹と弟〗だと、認めてしまった。
 
 ……今思うと、本当にどうして気付くのが遅くなってしまったんだろう。忘れたつもりだって、ずっと思い込み過ぎていたのかな……?
 自分がどんな気持ちか、わからないまま、だけど、二人が何時もみたいにじゃれ合う光景は、本当に何時も通りの〖日常〗で、〖幸福〗の姿をしていた。
 そうして、〖妹〗の自己紹介は終えた。

 口を開けば、不安は溢れて、止まってくれなくて。
 この場の半数を、僕の知り合いで構成されている事実に対する安堵よりも、脳内を埋め尽くす仮設と、その仮説が、ジェシカとアーニー、どちらもここにいるという事実を、受け止めさせやくれない。
 そんな、きっと他の誰にも共有の出来ない感情を胸に抱きながら、僕は、自身の紹介を終えた。

 最後、〖弟〗の自己紹介だった。
 何時も話す、「みんなが手を取り合えばいいのでは?」という願い。僕はそれを、肯定するしかなかった。よく考えてるな、と。よく、心を失わないでいるね、と。
 アーニーは、まるで僕の不安を見抜くかのように明るい声を発した。
 だけど、そんなんじゃあ拭い切れるわけなくて。ジェシカと同じで、アーニーは、〖弟〗もちゃんと生きて帰れるのか、分からなくて。
 
 たった一言、「終わったら、僕も一緒に帰れるよ」って、言ってくれるだけで良いのに、言ってくれなくて。
 ──何時もみたいに、「おやすみ」の声を聞いて、僕の意識は、また暗転した。

 ……アーニーが、そんな契約を、〖セカイ〗としていたなんて、ウィルは知らない。
 
 ……でも、アーニー。誤解をしている。
 ……少なくとも僕は、胸を裂かれる思いを、してしまう。
 だから、やめてよ。

二日目〈****〉

 本当は、こんな『明日』なんて、認めたくない。それとも、他にも意味を含んでいたのだろうか?
 あの雷撃による火傷をまじまじと眺めてしまう程度には、僕はきっと、上の空だったのだろう。

 ──ねえ、アーニー。せめてこの時に、君は大切な僕の〖弟〗だから、咄嗟に庇おうとしたって言えば、取られなかったのかな?
 今の僕には、分からないよ……。
 ……飴くらい奪わなくたって、いいじゃないか。飴くらい、食べさせてくれたって、いいじゃないか。
 それとも何? 現世のものを食べさせないことで、アーニーを、〖弟〗を、『こっち』に戻させる隙を与えないってこと? 
 
 …………、食べたかったよ。三人で、なんでも、よかったから。

 自覚したくない。認めたくない。お別れなんてしたくない。
 ずっとここから出られなくたっていい。
 代わりに僕が死んだって構わない。
 だから、お願いだから、アーニーを、もう一人の家族を、弟を、奪わないでよ。
 さようならと大好きが聞こえた。
 ──君の最期の言葉だけ、まるで無線にノイズが走った時の様に、全く聞き取れなかった。
 嫌な予感がした。
 そして、思い出してしまった。
 『昨日』は言っていて、『今日』は言っていなかった、あの『言葉』を。

『****』

 神様。カミサマ。なんでそんなことするの?
 そんなことをしないと、〖平和〗って来ないの?
 本当に平和を願った〖弟〗を贄にしないといけないほど、このセカイは腐り切ってるの?
 それともなに? そんな綺麗な〖弟〗だから、贄に相応しいって?
 それなら、とっとと僕らを見捨てていいから、それでもいいから、
 
 ──弟を、返してよ。

三日目〈始まり〉

 本当に『ゲーム』の始まる翌日。
 みんなが羨ましい、憎たらしい。
 手当たり次第周りに噛み付いて、胸ぐらを掴んだような気がする。
 打開なんて、そうしたって、あの子は戻ってこないのに、なんて言えなかった。
 アーニーの様になるのは次は自分だと言われても、何一つ危機感の働かない頭を制止した。
 ……駄々をこねるような、何も進まないことをしたら、この〖セカイ〗に制裁を加えられることだけは、分かっていたから。それじゃあ〖妹〗を、守れないことだけは、分かっていたから。

ミッションカード

 ──そうして『ゲーム』は始まった。
 ……そう言えば、こんなもの渡されていたなあ、なんて、思い出しながら。僕は如何やら、人狼陣営らしい。妹は、ジェシカは何方なのだろうか。

 ソフィアさんというシェフの女性が占い師と言って、エマという少女も出てきて、そして、ジェシカが三人目で出てきて……。最後に、マリアンヌさんが霊能者と名乗って。

 ……嗚呼、なんだか上手く覚えていないなあ……。
 占い師が三人いるから、彼女たちを追放する流れになったのは覚えているのだけど。ジェシカは本物か人狼なんじゃあないかな、って、言った記憶はあるのだけど。ソフィアさんは今は追放したくないって言った記憶あるのだけど。エマさんの言葉に、どこか失言めいた何かを感じた記憶はあって。……でも、人狼陣営だったから、『彼女は人狼でないという結果が出たとしても、狂人だと思って追放したい』なんて言葉は、出さなくて。そんな理由で、エマさんには投票したような気がする。

 そうして、この日の、所謂『吊り先』は決まった。
 エマという少女だった。
 僕は、ジェシカがこの対象じゃなくて安堵してしまった。
 
 ……僕は、ああいうしかなかった。この〖夢〗の説明が真実なら、きっとここには、相手を大切に思う存在が要るという事しか。
 それ以上に、ジェシカの言葉が胸を打つ。……二人は、きっと僕にも、こんな言葉を教えていただろうに。
 ……何処か、妹と弟の方が〖大人〗になり始めていたんじゃないかと、そんなことを考えながら、『今日』の意識を終える。

  ※夜時間

独白

 ……ぼーっと、意識が目覚める。
 ……嗚呼、そう言えば、僕に渡された役職は、誰かに爆弾を仕掛ける事が、できるのだっけ。
 そしてミッションも、『任意の人物に爆弾を仕掛ける』、だったっけ。
 
 手にある爆弾を眺めながら、僕はひとり、考える。
 カミサマは、何も答えちゃくれない。
 後悔だけが、頭をグルグルと支配する。
 本当は、占い師が何処を占うかを予測して爆弾を仕掛けるなり、エマという少女が人狼だった場合を見越した狩人が、ソフィアかジェシカを護衛するかもしれないことを、考えるべきで。
 ……噓をついた。本当は考えていた。占い先も絞っていた。占い師に、ジェシカにすら、爆弾を仕掛けることも過った。
 でもそれ以上に、何処か、自棄になっていた、気もする。

 〖兄〗であることを、〖情けない兄〗であることを認めながら、〖家族〗に今更、愛を伝えながら──、

 僕は、半ば自らの意思で、この『ゲーム』の表舞台から退場した。

四日目〈独白〉

 他にも人はいたけれど、『向こう』でゲームは続いているけれど、そんなこと考える気力は、どうも湧かなくて。直前と同じように、ポツリ、ポツリと、ひとりで思考を回す。
 臆病で、自分勝手に死んで、自己満足して、何もできやしない。
 嗚呼、こんなのが〖兄〗って、笑える冗談過ぎる。
 でも、こんな事、二人には言えないなあ……。二人が僕も含めて、三人で家族だって思っていることくらい、分かっているから。
 ジェシカが、誰ひとり欠けちゃダメって、思っていることくらい、分かってはいたから。

 ──意識を失う直前に見た空を思い出す。
 セカイって、あれくらい暗かったのかな。もう分からない。
 本当に、今までの、何時誰が欠けるかわからないけれど、三人ともいた、あの頃が既に恋しい。
 
 気付けば、向こうの時間は進んでいた。……ジェシカが吊られるようだった。嗚呼、本当に僕くらいは、真っ先に頭を撫でてあげないと。
 ……アーニーの声は、やっぱり聞こえない。
 ……………………あーあ、本当に、いやになる……。

 酷く乾いた声で笑う。
 人すら恨んで何になる。
 人の死を願って、何になる。
 本当はそんなこと、アーニーの願い抜きにして、本意ではないのに。
 でも、この時だけは、どうしてかな? みんな僕たちの敵に見えちゃったんだ。
 …………ごめん。ごめんね? ジェシカ、アーニー。
 こんなバカなお兄ちゃんで。 すぐなにもかも嫌になる、お兄ちゃんで。

 ──それでも、二人の〖兄〗でいたいって、今更強く願っている、お兄ちゃんで。

五日目〈兄妹〉

 ……うんん。僕が悪いんだよ。
 僕が、臆病だから。
 妹は、ジェシカは頑張ってるっていうのに、僕はひとり、勝手に死んだのだから。
 でもそれよりも、君を褒める方が大事だから、何より、僕がそうしたいかr、ジェシカの頭を撫でた。
 …………嗚呼、本当にやっと、落ち着けた気がする。ジェシカが生きてるって、わかったからかな?
 お父さんとお母さんみたいな温かさという言葉に、……また、救われたような心地を覚える。
 ──そっか。僕は、君の家族でいて、いいんだ。
 噓だけは、ついていない。ジェシカも、きっとアーニーも、きっと僕も、噓は嫌いだから。
 ──ふと、ジェシカが僕にお願いをする眼差しを向けた。

 ──妹に撫でられて、正直戸惑いもあった。でも、それ以上に幸福で満たされた。
 ……それと同時に、自分が取りこぼした〖幸せ〗を意識してしまう。
 お互いに「今日も頑張ったね」って、言えたらよかったのに。
 相変わらず、僕がご飯だったり、お菓子だったりを分けようとして、周りにも二人にも怒られて、結局同じ量のお菓子を食べるだけでよかったのに。
 ……もう少し、あの時より笑って、妹と弟の頭を撫でて、抱きしめる日々が続くだけで、よかったのに。
 せめてと、お返しをする。……嗚呼、やっぱりこの方が性に合うなあ。
 ……傍から見れば、変なやり取りなんだろうか? でも、きっとこんな姿が、僕ら〖家族〗の姿だったんだ。……きっと。
 ……ジェシカの中では、素敵なことを教えてくれた家族として、アーニーは生きてくれるんだって、それだけは理解して、酷く安堵した。

六日目〈成長・交流・祈り〉

 ……本当に、僕に教えられることって、何なんだろう?
 あんなことを言ったのに、僕は分からず仕舞いだ。
 結局僕は、それにまともに対抗する知識を持ち得ていない、気がするのだから。同じことを教えることを、繰り返してしまう、そんな気がしてしまうのだ。
 ……僕も、ジェシカと同じで、自分が嫌いだな。決して、口にはしないようにしたいけれど。
 何もできない、うんん、何かするには知識の足りない自分が、大嫌いだ。

 そんな中、ジェシカは動いた。一人の少女と友達になろうと、勇気を出して手を伸ばしたんだ。自分でそうしたいと相手を探し、目を見て、真っ直ぐな気持ちを、エマという少女に伝えた。
 ……嗚呼、凄いなあ、君は。自分の力で、前に向いて進んでいて、……本当にすごいなあ……。僕とは大違いだ。

 ……妹の成長を見守りながら、僕は他の人とも交流してみることにした。

 少しだけ、気が緩んだ。……僕の上司ってこんな人だっけ? 本気でそう思ってしまった。……この先、彼を『上司』と形容できるのか、彼の問題でなく、僕自身の問題で怪しいのだが……。
 だって、僕はもう──……。

 そんな考えを余所目に、先程ジェシカが威嚇をしていたシェフの彼女が、自身の店の宣伝を始めた。──自分でも認める、その商売魂が、今は羨ましく、輝かしくて堪らない。
 ……嗚呼、そうだ。この人のことは、妹から聞いたことがあったんだった。……きっと、僕は、この先前線に行かなくなるのだから、お礼には、行けるはず。

 自分自身に祈る。特定の個人に祈る。そんな祈りもあっていいいと、フレディと名乗っていた男は言った。
 ……それでも僕は、何処か〖祈る〗という行為を、この〖セカイ〗に来てから嫌悪しているように思う。
 ──いや、未だ『ゲーム』をしている人たちも含めて、ここにいる誰よりも『祈って』いたのかもしれない。
 それが無意味としても、掴む藁すら無いような祈りだったとしても、……〖祈る〗しか、無知な僕は知らなかったから。 

 人と話しながら、友達と何をして遊ぶか考えている妹を見て、僕は、慣れない笑みを浮かべる。
 ……嗚呼、やっぱり頭がうまく動かない。
 後悔ばかりの僕の脳。
 ……僕の方が、ずっと、幼いじゃないか。
 ジェシカは、あんなにも成長しているのに。

七日目〈友達・及び、終演〉

 友達はいないけれど、家族はいる。
 ──家族という表現を、ジェシカにとって特別な意味で使っているんだって分かると、……嗚呼、そうか、僕はまだ、生きないといけないんだなって、思わせてくれた。
 このゲームがどうなるかは、分からない。……だけど、何処かで、己の陣営よりも、ジェシカの陣営が勝利すれば、──妹の傷が治ればいいなって、思ったんだ。

 そして、なんだか考えることに疲れちゃったせいなのか、それとも、そういう気分だったのか……、僕は、マリアンヌさんのことを、初めて〖友達〗と肯定した。

 〖友人〗の笑い声が響き渡る。……今日、という表現でいいのだろうか、なんにせよ、いつもよりは沈んでいた彼の声が、何時も通りの声に、少し戻っていた気がした。……実際、脅していたのは僕の方だったし。
 ……少しだけ、僕も笑った。嗚呼、『笑う』なんて、少なくとも、妹の前では初めてかもしれない。
 ……こんな風に笑う事の自分がいたのならば、早く笑えるようになれていれば、良かったのになあ。
 
 自分の口がうまく動かない中で、ジェシカは進んでいた。
 忘れてしまっても、また友達になってって言うと思うなんて、そんな、明るい未来の話をしていた。

 ……噓。なんて、この時は言えなかった。
 届いたら、もうとっくに弟は帰ってきてるんじゃないの? って、思ってしまったから。
 それとも、僕は本当は祈っていないとでもいうの?
 ……そうかもしれない。だって、カミサマなんて、僕は信じたくないんだから。

 ──僕は態と、あの子と同じ言葉を口にした。
 ……本当は、きっとこの子は、いつか素敵な成長して、自立していくんだって、分かっている。
 だから、もし、その時まで許されるならば、こんな僕で、兄でいいなら、まだ守っていて、いいのかな。

 ……そうして、もう存在しない未来を、希望を、幸せを、想像するのを止められないまま、
 臆病な己を見つめながら、ゲームは幕を閉じた。

エンディング

 ゲームの勝者は、市民陣営。僕は人狼陣営で、ジェシカは市民陣営。ジェシカが現世で元気な姿を見せてくれることを、ここで理解する。
 僕は妹に尋ねた。
 『僕に生きてほしい?』
 ……うん、って、即答されてしまった。

 ……ねえ、ジェシカ。僕からすれば、君は十分自分の力で生きていけるように見えるよ? だけど、そんな君を、まだ守って欲しいと言うならば、……僕は、「分かった、生きるよ」と、首を縦に振るしかないじゃないか。
 ──だって、こんな『曇った』セカイにも、妹は、懸命に生きているのだから。

 僕らの結果は、僕が成功で、ジェシカは失敗。
 結果を確認した瞬間、僕の視界は、暗転した。

 目が覚めると、二人の姿があった。
 僕を見て、ほっとしている妹の姿と、微笑みながら眠っている、弟の姿。
 
 身体は、正直上手くは動かない。直撃ではないが、あんな目の前に雷が落ちたのだから。
 それなのに、口だけは達者に動く。妹『声』は失われて、僕の『声』だけ、戻ってきてしまった。
 僕は、記憶よりも健康状態の良さそうに見えたジェシカを撫でる。
 ……嗚呼、ちゃんと温かかった。僕の幻覚とかじゃなかった。
 ちゃんと、僕の妹は、生きている。先ず、其れに安堵を覚える。
 
 ……次に、アーニーに触れると、……本当に、冷たかった。少しだけ熱があるように感じた場所は、火傷による損傷が酷い箇所で。
 ……やっぱり、僕の弟は〖セカイ〗に『取られ』ちゃったことを、ありありと突き付けられた。

 ぼぉっと、空を眺めていると、ジェシカは、あの『夢』で友達になったエマと、その少女の大切な人であろうロディに、何時だったか、僕らの教えた文字を全て出し切るように、『話しかけていた』。
 僕は、ジェシカの『勇気』を、眺め始める。

 ……本当に、見ることのできる幻覚は、見てしまっていいと思う。
 見ないフリをして、最後、見る事すら許されなくなった自分を見つめながら、僕は横槍を入れる。
 
 ……みんな、進んでいる。妹も、その友達も、その、大切な人も。
 いや、三人だけじゃない。他の人たちも、前を見ている。
 ……僕だけ、僕一人だけ、あの『夢』から一歩も進んじゃいない。
 一人で上手に歩けない。嗚呼、そんな僕と比べたら、ジェシカ、君は十分強くなっているよ。
 だから、僕のこの横槍は、君の、──そしてアーニーの強さを借りたもの。

 嗚呼、そうだ。僕は頑固になり切れなかったんだ。答えを後に後に逸らし続け、気付いたら、時間切れの音が聞こえていた。たった二人。だけど、かけがえのない二人の家族。
 本当に、僕がワガママになれていれば、僕のもう一つ隣で眠っている弟は、死なずに済んだのかな?
 僕が、君のいない世界じゃ、色が一気に失われてしまうんだって、言えばよかったのかな。
 ……実際そうだ。ジェシカもアーニーも、……そうだ、思い出した。僕らはそれぞれ三原色なんだ。光の三原色。混ざり合って、そして、いろんな色を見せ合って。
 きっと、本当は、いろんな人と、その色を混ぜ合えばいいのだろう。──ほら、ジェシカが今まさに、しているように。
 ……僕には、まだ、うんん、これからずっとできそうにないかもしれない。失ったまま、セカイが何処か単色に近づいていってしまった、気がして。
 ……そりゃあ、ジェシカ。君の周りだけは、君のセカイの色を借りているからかな? 色とりどりに見えるのだけど。
 
 ──一人、考えているうちに、どうやら一組の〖家族〗が出来たらしい。
 ……間に合ったなら、良かった。今は、君達を直視してしまえば、僕の網膜が焼けてしまいそうなのだけど……。

 ゆっくりと立ち上がる。全身が痛い。『まだ殺さない』と、セカイに言われているような痛みだ。
  進む君と、止まったままの僕。
 僕は、このセカイで、これからまともに息をすることができるのだろうか?
 『声』を取り戻しても、『コエ』の届かない現実があることを知ったこのセカイを、果たして愛せるのだろうか?

 妹の様に、僕は強く前に進めない。
 弟の様に、世界を心から愛せない。
 
 ……それでも、そんな二人もよりも弱い僕を、それでも、兄が良いなんて、生きててほしいなんて、思ってくれた二人が、僕は、大好きだよ。

余談

感想

 さて、これが彼の結末となりました。
 『声』を取り戻してもなお、届かないものがある。そんな行き場のない喪失感や怒り、悲しみを持って、それでも生きないくてはならない。自分の存在を、心から願っている妹と弟を少なくともウィルは知ってしまっているから。
 ……私自身が言う事ではないですが、『声』を取り戻したってのに、何なら愛情を失ったペアもいたっちゃあいたのに、ウィルが一番沈んでましたね! ジェシカは前に進んでくれてお兄ちゃんは嬉しいですマジで。
 ──でも、確かに私としても、敢えて、ハッピーエンドを端から除外した関係組み、キャラクターメイク、ゲームの始まる迄のセリフは、多少、意識しましたとも。それは、前回参加し、かなり手放しに『彼らにとって』のハッピーエンドを堪能したからこそ、とも言えますが。
 世界観がそうさせたとも言えますし、私自身が、自ら地獄に足を運んだとも言える。
 ……ただ、どちらにせよ、主催者の、初日に死ぬことが確定している人物を、『もう一人の大切な人』という気概で組むというのは、……あの子が、このウィルが苦しんでしまうことは、分かっていたのですが。
 
 正直ワード『おやすみ』は私も暴れ散らかしました(笑)。最高に空気読みやがってと思うと同時に、一生許さないとなりました。いや本当に許さない。恨む。
 嗚呼、そうです。今回は役職作為であると聞かされていた為、自分には何が来るのか……! とワクワクしていました。
 ──渡されたのは、『爆弾狂』。最初は、おおっ、マジか!? と実は驚いたのですよね。……だけど、渡されてから、考えていく内に、嗚呼、確かにこれは、ウィルに相応しいなって。
 アーニーが〖セカイ〗の、若しくは我々の為の贄となり、そうなった時、嗚呼、自棄になるなって。……自爆しても、いいかなあって、思うなと。
 そして、プロローグ。最初ちょっとお手伝いしたのですが、最後のウィルのセリフ、あれはそちらで自由に! となごんさんに言われ、一時間くらい唸って考えましたね(笑)。おかげで、彼らしく、そして、彼の後悔につながるような言葉を、キチンと表現できたと思います。
 あと、ジェシカが強い! 僕なんてもういなくてもいいのに、ってお兄ちゃん言いたくなるくらい強い! 弟も強いんだけどさあ! 守りたかった二人が強いんだよ! 自立するまで妹のことは守るけれど! 傍にいるけれど!

 ……本当に、ここまで弱くなるなんて、私は考えても無かった。
 マリアンヌの演者、──だとしても、マリアンヌ自身の言葉だけど、
『この紛争が終わったら、彼らはどうなるのか?』
 という問いを、最初、私は「これが終わったら言えるので」と、言ったんですよ。その時は、本当に、答えらしきものがあったんですよ。
 ……今ですか? 出るわけないんですよ。
 本当に、考えたくないというか、……それよりも、返してほしいって、ウィルは、思っているので。

別エンドについて

 ……さて、これだけ感情をぐちゃぐちゃにされた本編ですけど、ウィルの辿り着くエンディングとしては、まだ、マシです。
 まあ結構ウィルのエンディングは死ぬのが多いのですが!
 ──でも、彼が最も苦しい、いや、本当に前に進めなくエンドが、一つあります。
 それは、この演目で、『辿り着いたかもしれない』ものでもあるので、紹介だけ。
 ──人狼勝利の時。それは、ウィルの怪我が治り、ジェシカは怪我をしたままの結末。その時、ウィルは必死になって二人の家族を運ぶでしょう。走って、走って、地雷の場所だけは気を付けて。おねがい、お願い。間に合ってよ、と。
 ……でも、アーニーも、きっとジェシカもこのエンドの時は、酷い火傷を、雷撃によって与えられてしまっていた。……それは、一目見ただけで『手遅れ』と判断を下される程度には。
 ウィルは、どちらもを、〖セカイ〗に奪われた。大事にしたかったものを、取られてしまった。
 ウィルは、弟と妹の言葉を思い出しながら、それでも、叫んでしまうことだろう。
 
 返して、かえして。返してよ! 僕の家族を! と。

 ──考えてもいいんですけど、私自身が辛いので、この辺りに。
 ……今でも叫んでいるのでは? と指摘されると、その通り。
 だけど、これでもまだ前に進むことの出来る余白があるのは、妹は生きているから。
 ……どちらも死ねば、その余白すらない。それだけ理解いただければ問題ないです。

前回の『兄』と、今回の『兄』。偶発的対比

 ──さて、もう一つ余談ですが、この結末にたどり着いて、そして、こうして書き記している内に、自分の中の奇妙な運命を覚えましたね。
 私は前回の『コエノナイセカイ』にも参加させていただいたのですが……、その時は、ミッション両達成だったので、『声』を失った。しかし、その時の彼──彼もまた『ウィル』だったのですが、その時は、演奏という、『コエ』を使って、想いを伝えることが出来た。自分で言う事ではないのですが……、あの場で最も幸福なペアの一組だったと思います。
 一方、今回の彼は、『声』を取り戻した。だけど、彼にはジェシカだけじゃなくて、妹だけじゃなくて、アーニー、弟にも、……もっと傲慢なことを述べるならば、『セカイ』にも、己の『コエ』を聞いて欲しかった、でも……。と、いうものでした。
 また、此処も数奇な運命ですが、前回は『ウィル兄さん』で、今回は、敢えて表現するならば『ウィルお兄ちゃん』。
 私の演じた二人の『ウィル』という『兄』は、対極の結末を迎えた。
 本当に、不可思議なことしか起きないですよ。この世界は。
 
 ──時間あれば、もう一人との『彼』との対比、見ていただけると、また喜びます。

最後に

 今回も、新たな人生を追体験出来たなあ、と、笑顔になっています。同じくらい、彼らとともに泣きもしましたが……。
 こうしてRP人狼をしていると、嗚呼、ちゃんと君たちは生きているんだなと、思いますし、だからこそ、その半生を、私なりに文字に起こしたいと、そう思うのかなと。
 さて最後に。今回は、こんなキャラを演じましたが──いや、演じたからこそ、でしょうかね。
 世界は意外と捨てたもんじゃない。
 
 以上、日月葉桜でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?