スター選手になれないから、バスケ漫画が好きだった

note公式で出たハッシュタグ、「私を構成する5つの漫画」

私はパソコンを持っていないのと割と機械音痴なので、とりあえずコマ投稿のやり方は閲覧したが難しそうだったのでとりあえずやめておいた。

画像だけ作って保存した。

作品名は左から

「あひるの空」 日向武史

「湘南爆走族」 吉田聡

「3月のライオン」 羽海野チカ

「夜はともだち」井戸ぎほう

「DAYS」 安田剛士

好きな作品とだけ言えば、他にも本当に沢山あるのだが、「構成する」という一言でこうも選ぶ作品が変わるかと思ったりした。

**一番に選んだ作品は、「あひるの空」 **

私は現在23歳だが、この作品を初めて読んだのは10歳の時、インフルエンザにかかって、家で暇をしていた時だ。ミニバスの先輩が貸してくれた漫画が、あひるの空だった。それまで漫画らしい漫画はドラえもんや、ちゃお等年相応な漫画は読んでいた。所謂少年漫画を読んだのはこれが初めての作品だった。

私はハマりにはまって、貸してもらっていた分を全て読み終え、興奮して母に続きも買ってくれるようにせがんだ。

それからはずっと、もうこの漫画の虜だった。
単行本の発売日を書店でチェックして帰った小学生から中学生の頃。発売日に必ず本屋さんで購入した。

私はバスケットボール部だったけれど、バスケットボールは得意じゃなかった。
だけど、バスケ以外に何がやりたいかと問われても答えられなかった。周りに運動神経が良かったり、バスケットセンスの良い子も沢山いた。私は高校生までバスケットボールを続けた。辞めるタイミング等沢山あったけれど、なんだかんだで続けた。私に、辞める勇気がなかった。続ける美徳があるこの国で、「つまらないから、しんどくなったから、苦しいから、センスがないから」そんな理由で辞めることに、恐怖を感じていた。だからなのか分からないけれど、私は部活を辞めてしまった人のことを、心の中で軽蔑していたと思う。勿論表面的にそれを出した覚えはないけれど、もしかしたら相手には伝わっていたのかもしれない。

ある日、私は家であひるの空の新巻を読んだ。

胸が苦しくなって読めなくなったシーンがあった。チャッキーが、部活を辞めるシーンだった。主人公の空くんはチャッキーを引き止めようとしたりしていた。でも、チャッキーと同級生の千秋が言った言葉が、高校生の私にはぐっさりだったのだ。

あひるの空 28巻 ボーイズオンザラン より

「友達だから何も言えんことがある チャッキーだって言われたくないこともあるだろう

それに だ

継続することが美徳みたいに思われがちだが
断ち切ることだって相当の勇気がいるんだ

俺はその勇気を買うよ」

あのシーンのことを、私は一生忘れないだろう。千秋が言った、
「その勇気を買うよ」という言葉は、当時の私に重くのしかかってきた。

その勇気を買う「勇気」が、その時の私には、無かった。グッとこらえて辞める勇気を出せないまま最後まで続けた私は、続けた部活をアッサリ辞めてしまった人を認められなかった。
時が経って今、私が今仲良くしている友人は、高校時代これといって部活に打ち込んではいなかった人だ。辞めてしまった人もいるし、続けたって人もいる。

これを認められるようになったのは、紛れもなくあひるの空のおかげだった。あひるの空は思い出がありすぎてこれだけでは話せないが、5つの漫画ということなのでこれで終わりにする。

**二つ目は、「湘南爆走族」 **

この漫画は、隣に住む祖父母の家の、2階の部屋、古い本棚に積んであった本だった。今では祖父の部屋となっているその部屋は、かつて私の叔父(母の弟)がいた部屋だった。祖父母が昼寝をしている時に、コッソリあの部屋に入って、コソコソ持ち出してきたのが始まりだ。

正直平成を生きる女の子が好くような漫画ではないと思うが、私にとってはそれがとても良かった。

日焼けしたあの漫画は、少しホコリをかぶっていたけれど、あの古いインクの匂いも、私は嫌いじゃない。

主人公の江口洋介が夜明けの道路は紫色だと言った時があった。紫色の空に、私は未だ出会えていない。
私はその、紫色の空と、海と、津山さんに少し憧れて、そのまま中学生になった。
学校の目の前に海なんて無かったし、バイクを乗り回したり、髪の毛が紫色の人も、あんなに優しい男の子もいなかった。それに、私が好きになったのは頭の良い、学級委員の男の子だった。

小学生の私が本の中で恋した江口洋介みたいな人はいなかった。でもなんだか今の私の恋人は、まるで江口洋介のようだと少し、思ったりした。優しくて、口下手で、不器用で。

こういうの、私を構成した漫画がこれだからなのかと少し思う。



**三つ目は、「3月のライオン」 **

この作品は、漫画が好きな私に祖母が「絵が可愛いから」と何故か2巻だけ買ってきたのが始まりだった。将棋の話はよく分からなかったし、私は同じ作者が描く「ハチミツとクローバー」は、作品名しか知らなかった。

でも何故かすごくハマった。主人公の零の暗くて冷たくて、ずっと独りぼっちの心が、救われたり、またどん底に落ちたりしながら、それでも「生きる」ことについての漫画だと思う。

私が一番好きなシーンは、2巻のラストシーン。
零が対局に勝った相手は、この対局を最後に離婚が決まっていた棋士、安井だった。
まだ道は途絶えていないのにアッサリ負けを認めてしまった安井。零は心の中で「こんな大切なものを容易く、手放さないでくれ」と呟く。

安井は感想戦までヤケクソだった。終わった後で、零は置いてあったクリスマスプレゼントに気がつく。走って追いかけて渡すが安井に「あーあ、最後のクリスマスだったのにな」と半ば無理やり袋を取られてしまう。

そこから、零のどこにもぶつけようのない感情が沸騰したように沸いた。走り出す零、叫ぶ零。激しくて荒々しかった。

「ふざけんなよ 弱いのが悪いんじゃんか 弱いから負けんだよっっ 勉強しろよ してねーの分かんだよ

解ってるけどできねーとか言うんならやめろよ!!来んな!!こっちは全部賭けてんだよ

他には何も持てねーくらい将棋ばっかりだよ
酒呑んで逃げてんじゃねーよ 弱いヤツには用はねーんだよっっ」

普段静かな零が怒るシーンはこれが初めてだった。

その後の零の絞り出すような「逃げるならっ逃げれるくらいなら なんで…」という言葉が苦しかった。
この、最後のセリフが私にとっては、最初のあひるの空で話したようなところに繋がるのだ。

まだ続くこの漫画は、話が進む毎にどんどん優しくなっていく。荒々しかった零の心は、どんどん優しく、温かくなる。人はいつだって独りだけど、誰かがいないと生きられないんだと強く思う作品だ。

**四つ目は、「夜はともだち」 **

これは所謂、BLという類の漫画である。読める人はもしかしたら限られるのかもしれない。暴力表現も、性的表現も沢山ある。

この漫画、初めて読んだ時死ぬほど泣いた。それこそ、嗚咽する程泣いた。

SとMのセフレという関係の、真澄と飛田。
真澄はバイで、Sになれる。
飛田はゲイで、真正ドMなのだ。

割り切っているその筈なのにどんどん苦しくなる二人。それは特別だとかそんな陳腐な言葉で表せない、苦しくておかしくて、「普通ではない」と言われる恋愛模様だと思う。

2人で寝た日、明け方に、飛田くんはベッドから抜け出す。真澄は、気づいていたけれど、引き止め方なんて分からないからこのまま黙って出ていくのならば寝たふりをしている間に出て行って欲しくて目を瞑る。

飛田くんはずっと空を見つめる。

その後のシーン、2人が別れるシーンで、飛田くんは、言う。「これから先また恋人ができて
真澄は俺とは違って女とも付き合えるし
そしたら結婚して子供ができて 多分喧嘩したり仲直りしたりとか きっとそう言う風に幸せになるんだと思う 俺と違って

でももしまた気が向いたら 俺に会いにきて
俺のこと都合のいい犬にしてくれて構わないよ
多分 俺はこれからずっと

それだけ待ってる」

このコマ、載せられないのが悔しいのだが、それだけ待ってるというセリフだけ次のページ冒頭、背景真っ白のシーンなのだ。

このコマの間だけ、時が止まったように感じる。

2人が別れるシーン、真澄は心の中で

「飛田くんはああ言ってくれたけど
でも僕は二度と会いに行ったりしない だって僕は飛田くんといるときだけ すごくこわくて
すごくさみしかったから」

と言う。この気持ちは、哀しさとか苦しさとか切なさとか、そう言う感情がごちゃまぜになって真っ黒な渦みたいな中から生まれたような言葉に思った。

大切な誰かといる時、「すごくこわくて
すごくさみしい」

この気持ちを具現化してくれた漫画がこの漫画だった。ラストシーンで私は何度読んでも泣いてしまうのだが、この美しい漫画は読んでみないと分からないところはあると思う。

BLという枠組みに囚われず、一度読んで見て欲しい作品である。きっと、明けの明星、金星の色が違う色に見えてくると思う。

**五つ目は、「DAYS」 **

この作品を私を構成するというと、知人はもしかしたら違和感を抱くかもしれない。でも、なんだかんだこの作品、読み始めてもう5年程経つ。

私はサッカーに関しては全くの素人であり、オフサイドのルールすらまともに理解できないが、この漫画の良いところはどうにも経験者もしっかり内容に入り込める物だという人もいる。

DAYSは凡人である主人公「つくし」が、凡人にできること、凡人だからこその苦悩それから周りの天才たちの天才故の苦悩等色々なものが詰め込まれた漫画だ。スポーツ漫画はこうでなくちゃと思う。

サッカーの名門校、聖蹟のサッカー部にひょんなことから入部することになったつくしの話が話の主軸だ。
つくしは凡人だが、「努力を続ける」という才能があった。これは実は、誰にでもできることのようで出来ないことなのだ。

かなり最近の単行本の話で、すごく好きなシーンがあった。

35巻のラストシーン

全国大会の試合で、つくしがゴールを決めたシーンがある。経験者で入部してきて、何となくつくしに辛く当たったりしたこともあった部員、来須は、その場にいない天才、風間に心の中で話しかける。

「風間 お前今何してんだよ 病院で観てるか?
お前はどの段階で気づいてた? 俺はまるで予見できなかった あの柄本がここまで成長するなんて

挫けていい場面は何度だってあったはずだ
諦めていい場面の方が多かったはずだ
実際立ち止まったことだってあったかもしれない

…俺は心のどこかでずっと 嫉妬と尊敬と冷笑と…その全てが入り混じった

何とも言えない気持ちを抱え続けてきた

だけど 本当は
俺はただ

お前に報われて欲しかっただけだったんだな」

そういって来須が泣くところで、35巻は終わる。

報われて欲しかっただけ その言葉の意味は、きっと何かにがむしゃらになったことがある人や自分は凡人だと思ったことのある人ならば、強く意味を感じる言葉だと思う。

報われない努力など山程ある。でも、もしも努力が報われる時があるのならば…と考える。
この時、つくしの努力は、たった1点のために報われたのだ。同時にきっと、来須も報われたんだろうと思う。


つくしのゴールは、ただの一点では無かった。沢山の人の思いを乗せて、時に涙すら乗せた、重たい重たい一点だった。

つくしの気持ちより、来須の気持ちに感情移入してしまう。
きっと、来須も苦しかったんだろう。来須が泣いたと同時に、一読者の私も泣いて、それから何かに気づけたような気持ちになった。

DAYSは天才たちの漫画だけれど、等身大の高校生であり、それから、スポーツマンの漫画である。

これからもずっと読み返したり読み続けたい漫画である。

以上、五つが私を構成する漫画である。

影響を受けた作品というのは、いつ読んだものでもセリフやそのコマの絵、どのキャラクターがどういうシーンで言ったかなど覚えているものだ。
この五つの作品は、自分にとって意味のある言葉を投げかけてくれたから選んだ。

自分のコンプレックスも、嫌なところも苦しいところも、漫画に書いてあることは沢山あった。漫画を読んだ時だけは、世界はここにはなくて、時間は無限に感じた。

漫画というカルチャーが、日本にあって良かった。きっとこれから、影響を受ける漫画も山程あるだろう。

この記事を書いた23歳の今、漫画は私の一部になっているように思った。そして、これからも一部になる。

まるで、骨血肉のように自分の身体に入り込むのだ。













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