ヒーロー、今川優馬

2021年9月12日の試合のヒーローは立野和明と今川優馬。現役ファンクラブ会員による初めてのホームランが生まれたことが話題になった。


広く、高い、札幌ドームのフェンスを大きく超えてレフトスタンド上段に突き刺さったホームラン。今シーズン、チームのホームラン数が極端に少ないということもあるが、今年見たどのホームランよりも鋭く胸に突き刺さった。魅了されずにはいられないホームランだった。今日で彼のファンになったという人は少なくないだろう。

だが、今日レフトスタンドに座っていたファンの胸を掴んだのは、ホームランだけではない。攻守交代のたびに全力疾走で守備位置までやってきて、必ずスタンドのファンに一礼する。ボードを掲げ手を振るファンに笑顔で手すら振ってみせる。打点がついたあとのお決まりの称賛の拍手以外の回にも、そんな姿に拍手が湧いた。守備中も、外野からピッチャーに向けて鼓舞する声を出し、外野同士での守備位置の確認などのやりとりも積極的に行う、そのすべての行動に対し好感度がうなぎのぼりだったように感じた。


入団一年目ながら、チーム内での自分の価値を確立している。鎌ケ谷では「執念先輩」と呼ばれ多くの選手に慕われ、すっかりムードメーカーになっているようだ。太陽のような人だな、と思ってしまうくらい、その存在で周囲を明るくできる人間というのは得難いもの。将来、今川と清宮が中心選手になったファイターズの姿を夢想してしまう。気持ちが高まりすぎてロッカールームから泣きながら出てくる…まではいかないにしても、きっと活気があっていいチームになることだろう。

もちろんいいことばかりではないだろう。一年目、二年目あたりまでは周囲の目も甘いもの。それを超えたらほうぼうから言葉の刃が飛んでくるような事態になるかもしれない。うまくいかず苦しむこともあるだろう。だが全力疾走で守備につき、一礼する。その姿勢が続く限り、そう悪いことにはならないのではないかなとも思う。今でさえ誰に強制されてやっているわけでもないのだから、きっと今後その姿勢がなくなることもないのだろう。


北海道で生まれ育ち、幼い頃からファイターズを見て育ち、プロ野球界の扉、それもファイターズの扉をくぐった伊藤や今川らは北海道日本ハムファイターズにとっても特別な存在だ。地域に根ざし、社会貢献や野球文化を普及する活動が実を結び始めた確かな証だからだ。「ファイターズが大好き」で、「チームに貢献したい」「かっこよくて強いファイターズを取り戻したい」という気持ちが誰より強い選手として、名実共にチームの顔に育ってほしい。


諦めなければ夢は現実になる。「雨垂れ石を穿つ」の言葉通り、少しずつ、少しずつ努力を積み重ねてたどり着いたプロ野球の世界。これから先も積み重ね続け、貪欲に知識を吸収し、魅力的な選手になっていくことだろう。今までは弟妹たちのヒーローだった彼は、これからたくさんの子どもたちの、そして大人たちのヒーローになる。

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