綺城ひか理さんベンヴォーリオを見つめ続け、自分なりにまとまった考え

①なぜベンヴォーリオはマーキューシオとティボルトの死を
 止められなかったのか

 どちらも刺されるに至る展開は思っていたより一瞬、そしてあの時点ではマーキューシオもロミオも激昂のあまりトランス状態に陥っていて、たぶん誰の言うことも耳に入らない。
 でも、もしベンヴォーリオが出遅れた理由があるとしたら…マーキューシオの場合は、ロミオの「誰が誰を好きになってもいい」に耳を傾け、「この争い全体を止められるのかもしれない」と考え、一とき目の前から気をそらせてしまった事ではないかと。
 ティボルトの場合は、なんと言っても親友が息を引き取った悲しみに囚われているから…
 ただ、止めるのに成功してしまうと、結末がハッピーエンドに変わってしまうのでシェイクスピア困惑(苦笑)

②ベンヴォーリオは、事態を受けとめる前に慎重に見極める時間がある
 例えばマーキューシオが刺された時、霊廟で2人の骸を見つける時。
 これは自分の話だけど、いつも「また早とちりした」と言われるのが嫌で、一応気をつけている(が、なかなか抜けない泣)。
 ベンヴォーリオも「粗忽者」と言われないように、普段からまず事態を念入りに把握しようとするクセがついているのかな?と。
 そして、充分に確認した後だからこそ絶望が深い。
 あるいは、彼の中に残っている少年ぽさが(モンタギュー夫人に事件の顛末を話す時の狼狽っぷりとか)、あまりに衝撃的な事が起こると、しばし思考回路を停止させてしまうだけなのかもしれないけれど。

③「どうやって伝えよう」で観客の体内へ直に流れ込んでくる
 ベンヴォーリオの慟哭

 聞いた時のロミオの衝撃を考え、ジュリエットの死を告げるのは、その時に支えられるのは「兄弟よりも親しい」自分だけだと初めから決めている、彼が悩んでいるのはただ伝え方のみ。
 「マーキューシオが消えて」という歌詞が最初から気になっていて、もしかしたら彼はマーキューシオの死を受け入れられていないのではないか、ベンヴォーリオも苦しい、1人では背負いきれないから誰かと分かち合いたいのだとしたら、その相手は他の誰でもなくロミオ。
 悩んだあげくストレートに伝えようと決めたのは、抱き合って泣きたかった、一緒に生きていこうと誓い合いたかったからかもしれない、それなのに「1人にしてくれ」と突き放され、果てしない無念をかかえ黙って去る、あの場面こそがベンヴォーリオの悲劇のクライマックスではないかと感じた。

④霊廟でベンヴォーリオが静かに嘆き悲しんでいるように見えるのは
 SNSでは「自分が伝えたせいでロミオが死んでしまったと、後悔している」という説もあったけど、はまのはちょっと違うのではないかと思っている。
 彼が悲しんでいるのは、最愛のロミオが選んだのが自分と生きる事ではなく、ジュリエットと共に死ぬ事だったためではないかと。それでも「どうしても生き続けていかなきゃいけない」(歌劇3月号「話の小箱」より抜粋)
 彼は生を選び、青春が終わる。あの場面で、ベンヴォーリオは静かな悲哀に包まれながら、少しずつ決意しているような気がしている。最後は大公に背を支えられて去る、あれは新しい旅立ちであって欲しいと…

 中3息子に常々「ハピエン願望つよすぎる」と言われてるのが出てしまった(笑)
 でも、どこかの空の下でベンヴォーリオが、仲間に寄り添われながら幸せに生きている世界を想っていたい。

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