見出し画像

吉正織物工場×Fukulierチームの歩み①

                    吉正織物工場公式Webはこちら
                       Fukulierについてはこちら

画像1

(Fukulier 福川登紀子さんと吉正織物工場 吉田和生社長(右)。双方の拠点が離れているため、対面での打ち合わせは貴重な時間。中央は事務局の長浜商工会議所吉井康治さん)

ルーツをたどると約300年前にまでさかのぼる、長浜の絹織物製造。
「浜ちりめん」ブランドの名で京友禅や加賀友禅の下地に用いられる白生地として、最高級の地位を確立してきました。
最盛期とされる昭和40年代には185万反が生産され、織物工場をはじめ関連事業所が市内に点在、機織りの音が響きわたりました。しかし、和装需要の低下に加え、品質ゆえの価格の高さは手が届きにくく、近年の生産数は4万反ほどに、関連事業所はこの30年で124から12に減っています。
浜ちりめんの新たな活路を見出すことは、業界の当然の課題として模索されています。
そのひとつがこの浜シルク活用プロジェクトなのです。
長浜の織物事業者が、デザイナーや専門家などとタッグを組み、新たな光をめざします。


プロジェクトでは3社の織物事業者がチームに分かれそれぞれの取り組みを進めます。
まずは吉正織物工場 吉田和生さん(吉田さんについてはこちら)✖️服飾デザイナー福川登紀子さん。

「広幅」って何?

めざすのは、浜ちりめんを使った洋服分野での商品開発。
吉正織物が織った生地を、福川さんがデザインし、縫製するプロセスというプロセスにあたってのミッションが、生地の「広幅」化です。

広幅という言葉を初めて聞く人も多いのではないでしょうか。
着物を仕立てるのに必要な生地の単位は、反であらわします。呉服屋さんで巻物のように筒状になっている生地、あれが反物です。1反が、およそ着物一着分の着物の生地の量です。長さが12m(以上)で幅が38㎝になります。

画像2

(反物の芯には社名が刻まれる)

一方で、洋服用の生地は、種類や仕立て方にもよるのですが、幅の基本は100㎝以上。
よって、着物用の反物(小幅)で洋服を仕立てる場合、デザインやサイズ展開などに制限が出てきてしまいます。仮に幅の不足分を補うため生地をつなぎ合わせたとしても、不自然なところに縫い目が出てしまうことになります。
小幅サイズでの展開が主流の浜ちりめん。洋服の生地としても活用していこうとする場合、幅を広くした生地を織ることが前提条件になります。
洋装に使用しやすい120〜130cm前後の幅の生地を作る! これがめざす「広幅」化です。

メッセージ上でのやりとり

その助走として、9月のギフトショーでパイロット版の展示を計画。
今回、目標より若干狭い96cm幅の白生地を使ってシャツを仕立て、バイヤーの手応えを見ようとの試みです。
浜ちりめんの生地は、光沢やシャリ感など風合いが多様なことが大きな魅力。
ごく簡単に説明すると、生糸(繭からとった糸)から経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を作り、その糸で生地を織る工程で仕上がりの風合いを計算していくのです。吉正織物工場ではすべて自社で生糸からの製造を行い、多様な白生地を展開しています。その数は約40。そのうちの3種を使ってシャツを試作、これを経て、新たな生地を開発していこうという流れです。

画像3

(シボといわれる生地の細やかな凹凸が風合いを生み出す)

デザインも仮置きで、福川さんがもつ既存のパターンを利用。
用いる生地の選別、ボタンのセレクトなど調整していくことは多数。
何よりも単にシャツを作ればいいだけではない。シャツを着るターゲットは? 販路は? いわゆるブランディングを確立させることも重要です。
とはいっても福川さんの居住地は静岡。SNS上で膨大なメッセージのやりとりを繰り返し、試作をつめていきます。

画像4


トラブル発生、全工程で広幅対応する難しさ

幅を広く織ろうとすると、まず織機を専用に特化しなければなりません。
吉正織物ではこれまで和装小物用として70㎝台、90㎝台の生地を織ることはありましたが、120㎝以上は初めて。既存の織機を改造した特別仕様で対応します。

画像5

(120㎝以上の幅に対応した織機)


ハードの整備以上に、約3倍も広くなる生地を織る技術が伴います。織る以前の糸をよる工程でも、織り上げたあとの精練(生地に付着したセリシンを除去する工程)でも同様です。 

画像6

(経糸作りの1工程「整経」。経糸を織機に仕掛けるため糸の本数、長さ、幅を整える。蜘蛛の巣がはりめぐらされているかのよう。幅が広くなる分、使う糸もかかる時間も莫大に増える)


どの工程でも広幅化に対応できる技に加え、浜ちりめんとしてのクオリティーを保つ――。
しかし、課題が浮き彫りとなるトラブルが発生してしまいます。
3種の生地のうち、1種の精練が不調に終わりました。
精練を行うための生地を吊るす作業が完璧にいかず、不要なシワが生じてしまったのです。広幅生地の扱いに不慣れさゆえのことでした。

浜ちりめんのブランドを名乗るには、浜縮緬工業協同組合がもつ精練工場に生地を出荷し、ここで精練工程を行う必要があります。
仮に他地域に広幅生地を得意とする精練業者があったとしても、そこに委託すれば浜ちりめんではなくなってしまうのです。
96㎝幅は当然ながら、めざす120〜130㎝幅に向けて技術の向上が不可欠です。 

画像7

(これらの印が揃って浜ちりめんが名乗れる)

ギフトショーは9月初旬。8月半ばに起こったこの不具合の影響で、急遽2種の試作へと変更、吉正織物から福川さんへ宛てて生地が発送されました。
タイトなスケジュールのなかの進行。どのようなシャツが生まれたのでしょうか。

              (ギフトショーでの評判は? ②へ続く)