1  小倉→福岡

 出発する数日前に誰が言ったかわからないが
「仙台、分かっていたけどカルチャースポット無さすぎ」
という言葉を目にして、仙台ってそんな感じなのか…と思った。
知らない人間の言葉やよくわからない情報を軽〜く鵜呑みにしてしまう現代。自分も完全にどっぷりそっち側に来てしまっている。
 そしてあの時から行く前も結局は他人事でどこか別の世界で起きている事としてしか考えられなかった。

 結婚して現在5年目、初めて妻の親戚に会ったのは、去年山形に行った時だった。おじさんおばさん、いとこ二人と会った。しかし、全員集合ではなく、残りのいとこ三人はそれぞれ山形から出ていて、新潟や仙台で働いているらしく、その時は会えなかった。余談ではあるけれど、この時の親戚こんにちわツアーで東京より上に行ったのは人生初だった。けれども、時間の関係でがっつりと観光や散歩はできなかったから、来たぜ!東北!という気持ちは得られなかった。多分初めて会う親戚に緊張してナーバスになっていた事も原因のひとつかもしれない。
 今年に入って、妻のおばあちゃんが亡くなり、妻は山形での葬儀に参加。当然ながら親戚一同に会っており、そこで話が盛り上がったのであろう、今回の旅行のほんわかした部分が計画されたみたいだった。
「仙台行くから」
と妻から伝えられたのは、葬儀から帰ってきてそんなに経ってない時だったと思う。
 知らない街に行くうれしさとまだ会っていない義理のいとこ三人に会う不安が入り混じる中、凄まじい速度で日々が流れていった。

 06:04の高速バスに乗る為に5時起床。TVを点けるも、どれもこれも早く目が覚めてしまうご老体達にお金を使わせようとするTVショッピングしかやってなく、恐怖を感じる。困った時のBSと思ったら、JIMMY CLIFFの「Goodbye Yeserday」のTV LIVE映像が流れていて、金髪ねーちゃんたちが陽気に踊り、ジミー自身も踊りながら歌っている。

 高速バスに乗り込み、福岡空港へ向かう。バスターミナルで降りて地下鉄に乗り、空港。という流れだったのだが、バス停での待ち時間にこれまでの尿意ピンチ案件について話していたせいか、妻に尿意が襲ってきたらしく、ニューヨークでしか見た事のない伝説の顔をしている。この顔を見たせいか、私も感じていた尿意が遠退いていく。
「もうなんでだよ。またかよ。なにしてんだよ」的な「よ」三連発を妻に浴びせる。予定を変更し、高速を降りてすぐのバス停で降車。彼女コンビニ目指して走る。ここで「ちょ待てよ」とダメ押しの「よ」当然は言ってない。寒っ。私は万が一に備えて、妻と私双方がお花を摘めそうな(ダメなのはわかっているけれど、どうしようもできない時はもうそうするしかない)場所を探す。しかし、都会である。ここの隙間か…ここは厳しそうだな…。そんな事を考えていると妻がコンビニから出てきて走ってくる。私から見て右を指す。これはどっちだ?セーフだったのか?私も妻の方へ走る。無事生還を果たし、やっと会えた夫婦のようにロマンチック!ハッピーエンドかと思ったら、トイレをお貸ししてないとのことで、彼女はまだ危機的状況を脱していない。二件目へダッシュである。ここで私の失いかけていた尿意が徐々に蘇ってくる…
 二件目のコンビニに先に到着した妻はトイレに駆け込む。私も後を追い…トイレの使えるコンビニに安堵したのかここで一気に尿意が攻め込んでくる。 
 これは…ヤバい…妻よ…早く…出て…きて…yo…。
「よ」三連発の報いである。いらぬこと言わぬが仏。
 飲み物が陳列されている冷蔵庫の前で、朝見た「Goodbye Yeserday」のジミーのように軽快にステップを踏む私。陽気さなどない。もはや戦慄のステップ。
 妻がトイレから出てくる。顔を見る余裕もなく、トイレへ駆け込む。習慣とは怖い。チャックを開けてお○んち○を出せばいいものの、便器に座る通称「おうちスタイル」を遂行しようとし、ベルトを外す。あぁ!少しほんの少し尿が出てしまった。通称「チビる」という状態。ヤバい!冷静さを失った私は勢いよくドバッとズボンとトランクスを脱ごうとした瞬間、かなりの量の尿が出る。これは「チビる」レベルではない量である。この時、まだお○んち○は便器と対面しておらず、彼のホーム、トランクス付近の空中。残りの尿はせめて便器へ。その思いだけを胸に私は脱ぎ、お○んち○を便器と対面させる事に成功。時間にして1秒か2秒だったと思う。残りの尿を無事、便器へと送り出す。一息ついたところでトランクスチェックを実行したら、こりゃまぁ、おしりの部分がまぁまぁ濡れている。どうしよう…妻を呼んで、このコンビニで新しいトランクスを買ってもらおうか。しかし、しかし、しかし…。
 仕事柄、たまにトイレが周りになく、このような状況に陥ることが年に数回ある。そして、やはり少し濡らしてしまう。だからお恥ずかしい話、慣れてはいる。濡れている事に。そしていずれ乾くことも知っている。しかし、初めて会う義理のいとこたちに「なんか臭くない?」となられては困る。そんなことを思うも、空港に行かなくては時間が危うい。ご決断を!と脳内が叫ぶ。私はトランクスを履き、ズボンを履く。おしりが冷たい。いい冷たさだ。トイレから出る。
 間に合ったかを妻に聞くと、爽やかな顔をして、間に合ったと報告を受ける。逆に報告をする。少し間に合わなかったと。臭いはするか?と聞いたら大丈夫だ。とのことなので、それならばきっと義理のいとこたちからは気づかれまい。トイレを借りたお礼にグミチョコ二袋を妻が買う。レジの外国人の男が呆れた目で私を見る。きっと彼は私の軽快なステップに「holy shit」だったんだろう。
 
 尿意騒動も無事終焉し、地下鉄に乗り、空港に到着し、先に到着していた妻のお母さんと合流。09:00発の飛行機が遅れて09:10発。仙台に向けて離陸した。

 こんな調子でスタートした旅行。先行き良好?
『2 福岡→仙台1日目』に続く予定。 


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