論文の書き方・書き直し方(その2)

卒論研究のために収集したデータや資料の分析とその執筆方法について説明します。(最終更新:2020年10月3日)

調査方法の説明と収集したデータの紹介

調査方法と収集した資料やデータを明らかにする

 まず取得した資料やデータについては、その調査方法を明確にする必要があります。そこで、こうした調査内容の分析を始める章の冒頭のセクションは本研究における調査についての方法と取得した資料やデータを概説する事が必要です。こうした記述は調査についての5W1H(いつ・どこで・だれが・なにを・どのように)という内容を満たすのがまず第一条件となります。ここでは調査日程、調査場所、調査対象、調査方法などを概説してください。なお、調査で取得したデータや調査対象者などについては個人情報が漏洩しない方法で一覧表としてまとめ、掲示しておくと良いでしょう。この後資料やデータを個別に分析する際に、読者は園都度こうした一覧表を参照し、どの資料やデータについて分析されているのかを把握することができます。また、収集した資料やデータの公開性(捏造やでっち上げをしていないという証明)にもなります。

 またここで調査の方法論(methodology)に触れるわけですが、この調査方法が自分の研究の目的を達成する上で妥当な方法なのかをきちんと説明することが求められる場合もあります。つまり、自分の研究において採用した調査方法(特定の資料やデータをまた特定の方法で集めた作業)が、他の調査方法よりも「妥当である」のはなぜか、それについてきちんとした説明を求められる必要があります。こうした点について言及しておくことで、この調査で実施された調査の方法が適切であると主張することができるだけではなく、そこで取得された資料やデータが本論文での考察を行うにふさわしい対象となっていることを説明することができます。

方法論の妥当性について書くときも先行文献を参照する

 このような自身の調査方法とそこで取得した資料やデータの妥当性について言及する際に、調査方法や資料分析の方法についての先行研究や文献を参照すると良いでしょう。どのような研究や文献を参照するかと言う点について、まず自分の研究と類似するような先行研究や文献を参照するという方法があります。あるいは、世の中には研究の方法論にのみ焦点をあてて氏筆された膨大な量の論文や書籍が存在します。こうした方法論に特化した文献では、そこで紹介されている調査方法がどのような研究を実施するために有効であるかが必ず説明されています。そうした先行文献を参照することで、自身の卒論研究において採用した調査方法とそこで取得した資料やデータの妥当性を裏付けることができるでしょう。

資料やデータの分析

 収集した資料やデータをどのように分析するのか、それがこの段階ではもっとも重要な作業になります。資料やデータを集めている過程で、多くの場合は果たして自分が集めている資料やデータは役に立つのだろうか、あるいは資料やデータはどこまで集めれば良いのかという不安が生じてきます。しかし、こうした心配は以下の手順を踏んだ分析を「資料やデータを集めながら」行うことで解消されます。

分析しながら調査する

 まず覚えておきたいことは、資料やデータの分析はそれらの収集が完了してから行うわけではない、ということです。

 別の言い方をすると、資料やデータの収集と分析は同時進行であるということです。もちろん、計量調査のように、アンケートなどの調査によって一定のデータを収集しなければ分析作業が開始できない場合があります。しかし、卒論研究の大半を占める量的な調査では資料やデータの収集と分析は同時進行で行うのが鉄則です。なぜならば、その都度に実施する資料やデータの分析作業を通して、今自分の調査の進捗状況や、これから必要な補足調査の検討、あるいはフォローアップのための追加調査や資料収集の方向性が明らかになります。こうした「ながら」調査によって、今の自分の調査や資料やデータ収集の進捗状況を、自分が一本の論文の中で取り上げて考察したい内容や論点を充分にカバーできているかどうか、それを客観的に把握することができます。

収まりの悪い資料やデータは貴重品

 このような「ながら」調査は、もう一つの重要な成果をもたらします。それは、その都度収集した資料やデータを分析していくと、そこには必ず「収まりの悪い」資料やデータが含まれていることに気がつきます。この「収まりの悪い」というのは、つまり自分が卒論研究で仮説として検討していた)あるいは想定していた)概念やできごとを裏付けるための資料やデータのカテゴリーに収まっていない対象です。一見するとこうした「収まりの悪い」資料やデータは自分の研究にとって障害となったり、あるいは無駄な内容のように捉えてしまいますが、それは大きな間違いです。なぜなら、調査によってそうした資料やデータに遭遇したとき、そしてそれを自分の研究の中に「新しい考察」や「新しい概念」として分析して見せたとき、そこで初めて自分の研究の「独創性」が生み出されるからです。つまり、調査によって当初の先行研究の中である程度想定されていた、あるいは当初の研究計画の予定通りの範囲内に収まっている資料やデータしか集められていないことは、自分の研究の独創性や批判性がまだ充分に生み出される段階に達していない、と言うことになります。

資料やデータから分析の視点を生み出す方法

これまでの研究を元に分析方針をたてる

 収集した資料やデータ(一次データ)には,これまでの研究経験に基づき、そこには研究のために重要な何かが含まれていると言うことは経験的、あるいは直感的に把握できます。しかし、いくらそれをわかっていても、それが読者にとってその重要性がわかるように示されないことには、資料やデータを用いて自分の研究の目的が論証された事にはなりません。つまり、調査で収集したデータはあくまでも鉱山で採石した原材料に過ぎないわけです。これまでの調査で、その鉱石にはいくつもの貴重な物質が含まれているとは明らかです。しかし、それを精錬して個々の物質として結晶化させなければ実際に何かを取り出したことにはなりません。卒論調査において資料やデータを分析するというのはこのような喩えで考えることができます。

 ではこうした鉱石を製錬するような作業として、卒論研究における資料やデータはどのように分析にかけられるべきなのでしょうか。そこで必要なのが、自分の研究計画とこれまでの執筆作業において、序論で述べた研究目的、およびその後の先行研究のレビューで取り上げてきた本論の研究目的を考察する上で鍵となるいくつかの理論や概念モデルです。

 まず初めに、卒論研究での「目的」がありました。しかし、この目的に直接的にこたえられるような考察を組み立てていくのは容易ではありません。なぜなら、こうした研究目的は往々にしてかなり抽象的で一般化されたものであることが多いためです。そのため、そうした研究目的を直に説明しようとすると、当然分析や考察も大味になる(つまり他の研究目的であっても当てはまってしまう)ような結論に行き着いてしまいます。

 そこで、研究の目的を達成するためには「急がば回れ」の方針を立てる必要があります。そこで必要なのが「分析」の考え方です。分析という言葉は、文字通り考察の過程を「分けて 折る」という意味です。つまり、研究目的を明らかにする上で検証するべき理論や概念モデルについて、個別に取り上げて、収集した資料やデータがそれをきちんと裏付ける結果をもたらしているかを考察するのです。そして、収集した資料やデータをどの程度まで「分けて折る」のか、その時にこそこれまでの先行研究で本論の研究課題を明らかにする上で重要だとして取り上げてきた理論や概念モデルを用いることになるのです。

 この分析作業を実施していると、当然のことながら研究計画当初に先行研究のレビューで提示した本論での重要な理論または概念モデルが、本調査においても収集した資料やデータを通してきちんと反映されているかが明らかになってきます。中には、今の手持ちの資料やデータでは、最初に提示した理論や概念モデルのいくつかを十分に説明することができないと感じることがあります。その時には、こうした理論や概念モデルをきちんと説明するために必要な資料やデータを取得するための追加調査が必要になります。こうした作業が先に述べた「ながら」調査なのです。

分析から章立てを検討する

 事前に本論での重要な理論や概念モデルとして取り上げた内容が、果たして自分が収集した資料やデータにもきちんと反映されているか、それぞれを個別に取り出して検証していくことで、論文における分析や考察パートの章立てや、各セクションの構成があらためて決定されていきます。こうした章立てや、各セクションの構成については、分析パートの各セクションが少カテゴリーであり、各章が中カテゴリーである(そしてこうした分析パートの最後に改めて包括的に検討される研究目的こそが大カテゴリーとなる)と考えます。そして、各章(中カテゴリー)にその中カテゴリーに含まれる少カテゴリーが章の中のセクションになるよう章立てを行います。

 このようにして、実際に自分が収集した資料やデータに基づく分析によって、研究計画当初に提示した章立てやそこで検討される理論や概念モデルの変更が余儀なくされます。しかし、これはむしろ自然なことであり、自分の目と耳と足で取得した資料やデータに基づく成果として(つまり自分の頭の中で生み出した机上の空論ではないという意味で)、研究が充分に行われることを示す証拠でもあります。むしろ自分が研究計画書で示したとおりの章立てや構成とは大幅にずれることのない分析結果が出てしまった場合、自分の調査の範囲や対象、あるいは分析方針の妥当性について再度検討する必要があるでしょう.たいていの場合、こうした問題は調査において広範囲で客観的な資料やデータの取得がおこなれていないことを暗示しています。

未知の物質を取り出す

 そしてここで先ほど述べた「収まりの悪い」資料やデータ、あるいはこうした鉱石の製錬作業の中で取り出された「未知の物質」をどのように扱うのか、それが重要になってきます。それをこの研究には「不要」な残滓として遺棄してしまうのでは、この研究を通した「未知の発見」(私達の研究では新しい理論モデルの提供や新たな分析視点の構築)にはつながらないわけです。

 こうした「未知の物質」を資料やデータから取り出してみたら、こうした内容が果たして自分の研究目的をこれまで検討していなかった新しい理論や概念モデルから捉え直す、あるいは自分が提示した理論や概念モデルを修正する、つまり一石を投じる結果になる論点を生み出すのではないかと考えてみましょう。もちろん、このような思考プロセスを自分自身の独創性に委ねるのではなく、こうした新しい視点を支持するであろう理論や概念に依拠した研究でありつつも、これまでの先行研究の調査では触れたことのなかった先行研究や論文を探してみることが必要です。そうした「新たな」先行研究が構築している理論や概念モデルの力を借りて、この「未知の物質」を精錬し、自分自身の卒論研究が依拠していた先行研究やその分野において支配的であった理論や概念モデルに一石を投じることになるでしょう。

個々の分析における資料やデータの記述と説明

 分析パートの個々のセクションにて取得した資料やデータをどのように分類し、そしてどのように分析するかについては、まず整理した資料やデータが何を言っているかを「記述」します。分析パートにおけるこうした資料やデータの「記述」においては、その伏線として冒頭に先行文献や研究を紹介し、それを支持する「事例」として、自分が整理した資料やデータを「記述」するという二段構えでも良いでしょう。その上で手がかりになる理論や概念モデルでその意味(重要性)を「説明」することが必要になります。前述の「論文の書き方・書き直し方(1)」を参考にして下さい。

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