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ぱるる(島崎遥香さん)についての回想:その2 ― 遅れてきたファンとしての自分と、大場チーム4の解散をめぐって

※10年近く前、AKB関連の雑誌に寄稿した記事を一部改変して出しています。誌面掲載時とは異なる内容です:

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 僕がAKBにハマったのは2011年の夏頃のことだった。もうとっくにAKBが世の中でブームになった後のことである。だから僕は、とても遅れてきたいわゆる「新規」のファンだった。

 ただ、僕が自分でもAKBにすごくハマったのは、2021年の1月、初めて劇場公演を観てからのことだ。それはキャプテンのみなるん(大場美奈)が復帰したばかりの、チーム4「僕の太陽」公演である。

 僕はこのとき、まだAKB紅白でぱるる(島崎遥香)やあんにん(入山杏奈)が気になっていた程度で、それ以外は顔もほとんど一致していない「ド新規」の状態だった。そして正直に告白すると、劇場の存在をナメていた。僕の周りのAKBファンたちは、皆口を揃えて「AKBにハマったのなら、劇場には一度行ったほうがいいですよ」という。「ふーん、そんなものですか」僕はそんな程度にしか考えていなかった。そもそもいまのAKB劇場は倍率もすごく高いので、なかなか抽選に当たらない。会いに行きたくても、なかなか会えないのである。しかもその当時の僕の推しメンは、チーム4のメンバーではなかった。だから、それほど期待もせずにいたのである。

 でも、ついに初劇場を訪れる日が来た。そして、僕は一瞬でチーム4に魅了された。 

 残念ながらこのとき、みなるんは急遽休演になってしまって、研究生が半分を占める公演だった。しかしそんなことは何の関係もなかった。このとき、僕は初めて「AKB」を見たのだと思った。手が届きそうなほどに近い距離で、全力で踊る少女たち。顔の表情も髪の動きも汗の散る様まで、ありありと全てが見える。テレビやグラビアや動画サイトだけで見るAKBは、本当にAKBの魅力のごく一部でしかないのだと、痛感させられた。そして16人いるメンバーの中でも、僕はぱるるが持つひときわ強い瞳の力に圧倒されてしまい、生まれて初めて「推し変」もした。それほど劇場という場は圧倒的だった。

 それからの僕は貪るようにAKBにハマった。現場にも足を運ぶようになった。握手会に行った。名古屋まで遠征もした。ちょうどメンバーのぐぐたす(Google+)が始まった頃でもあったから、チーム4のメンバーの投稿は全部読むようになった。モバメも取った。3月のSSAで行われたコンサートでは、チーム4昇格メンバーが発表され、フルメンバーになった。僕は思わずチーム4コールを大声で叫んでいた。そして5月に岐阜で行なわれた、初のチーム4フルメンバーの全国ツアーコンサートにも参戦した。生活の全てがチーム4を中心に回り始めた。

 そして同月には第4回選抜総選挙が開催された。僕は『AKB48白熱論争』でも話したとおり、ぱるるに29票、まりやぎ(永尾まりや)に10票、みなるんに9票入れた。たいした票数ではないけれど、ついこないだハマったばかりの自分が、大量のCDを買い漁ったのには自分でも驚いた。チーム4からは5人のメンバーが選抜に入ることができて、僕は本当に、まるで自分の家族の幸せを祝福するような気持ちで一杯だった。チーム4のメンバーが主体となっているドラマ『私立バカレア高校』『マジすか学園3』も立て続けに放送された。確かにぱるるは、最初こそ演技もそれほどうまくなかったかもしれない。しかし、初めて僕が劇場で魅了された、ぱるるの目と表情の演技はめきめきと向上していくのが分かった。ぱるるが「顔」となって、チーム4の未来は順風満帆だな、と僕は確信していたのである。

 それが2012年の8月、前田敦子卒業・東京ドーム公演でのことである。「組閣」とともにチーム4はなくなってしまうと発表された。このとき大画面のモニターに映された、ぱるるの衝撃に歪む表情が、いまも脳裏に焼きついて離れないでいる。

 単刀直入にいおう。ぱるるは「やる気が見えない」と批判されてしまうメンバーだった。感情が表に出てこないことが多いのは確かだ。それでも、ほとんど寝る時間もないような過密スケジュールの中で、ぱるるが送ってくるモバメには、彼女の「本気」が込められていて、胸を突かれる思いで一杯になっていた。ぱるるはドラマの主演を始めとして「ゴリ押し」されているとアンチからの批判も大きくなっていたが、それでも自分がチームの「顔」となって、チーム4がもっと一人前のチームとして認めてもらうために、頑張ると各所で発言していたのである。しかし、そのチーム4がなくなってしまう。そう聞いた時にぱるるを襲ったであろう空虚感を思うと、僕は胸が張り裂けそうだった。

 そしてその思いは、ドームの二日目になって爆発した。ドームの二日目でチーム4が「僕の太陽」をうたったとき、ステージ上のぱるるを始めとするメンバーたちは、もうこれがチーム4としては残り少ないパフォーマンスであることを痛感したのであろう、次々と涙を流したのである。これには客席にいた僕も思わず号泣した。

 そして稀代の天才作詞家、秋元康の歌詞は、ここでも奇跡のようなシンクロを起こした。

君が世界のどこかで泣きながら 孤独に震えていたって
必ず僕が探す 愛しさが目印さ

 確かに僕はステージ上の彼女たちの姿を探しながら、絶叫に近い大声で、彼女たちの名前を叫ぶしかなかった。

 率直にいって、僕はチーム4推しとして、今回の解体が本当にショックで仕方がなかった。チーム4とともに、僕はAKBのファンとして、ささやかながらも成長してきたという気持ちでいた、だから、とても大事なものを失ってしまったという思いでいっぱいだった。それこそ組閣の発表直後は、もうAKBを推すのはやめようかと思うくらいの怒りと空虚感に、感情が支配されてしまった。

 もちろんその一方で、チーム4が解体されてしまう理由も十分理解しているつもりである。しばしばチーム4は、ネット上では「アンチ」に叩かれていた。チーム4のメンバーからはやる気が感じられない。成長していない。パフォーマンスで他に劣る。研究生の域を出ていない。

 ……僕は全くそんなことはないと思っていたし、たとえ現時点で劣るように見えたとしても、そこからの「成長を見守る」のがAKBなのだと信じていた。しかし旧来のAKBファンやSKE等の地方Gのファンからは、9期生以降のメンバーはAKBが売れて以降の「恵まれた環境」にあるがゆえに、がむしゃらに頑張る気持ちで他のグループやチームに劣っているのではないかと、批判されていたのは事実である。

 しかし、それは必ずしもメンバーだけに責を帰すべき問題ではないと僕は思う。AKBの強みは何より「劇場」にある。客席からの温かい熱気あふれる声援を受けて、少女たちが輝き、学んでいく「孵化器」のような場としての劇場。それが可能なのは、250人しか入れない狭いハコだからこそ、壇上のメンバーと客席のファンが距離を近づけ、一体となって、ともに熱く盛り上がることができるからだ。

 でも、いまのAKBは人気が出すぎてしまった。先にも触れたように、劇場抽選にもなかなか当たらない。おそらく、いまはほとんどの観客が「新規」のファンなのではないだろうか。僕が劇場に入ったときも「声援がずいぶん小さいのだな」と思ったほどだ。何より僕自身、初の劇場では恥ずかしくて声は出せなかった。またチーム4は後発のチームだから、「古参」と呼ばれる古くからのファンや、他チーム/他グループのファンから厳しい「比較」の目にさらされてしまう。だからチーム4は、かつてのようにファンと一緒になって成長していくことが、構造的に難しい状況に置かれてしまっているのである。その点でいえば、必ずしも彼女たちは「恵まれている」とはいえなかったはずだ。

 もちろんこうした批判があることは、チーム4のメンバーも運営スタッフも当然受け止めていた。事実、7月にはみなるんの呼びかけに田野ちゃん(田野優花)が「チーム4公演みてて成長かんじれますか?」と問題提起を行ったのをきっかけに、パフォーマンスの成長・改善に向けた取り組みも始めていたことがファンの間でも話題を呼んでいた。僕は、アンチからの批判を受けながらも、前に進もうとしていたチーム4の姿に確かな希望を見ていた。そのはずだった。その矢先の、チーム4解体だったのである。
 
 そして去る9月17日。僕は静岡のチーム4ツアー(夜の部)に参戦した。もう最後かもしれない、チーム4の全国ツアーである。

 そこで見たのは、確かな彼女たちの「成長」だった。

 チーム4の全国ツアーのセットリストは、劇場公演曲ではなくシングル曲が多めで組まれている。これは劇場公演をそれほど知らない「新規」のライトファンに配慮したものだろう。通例、こうしたコンサートでは、昔の公演曲のシャッフルが見所の一つになるが、逆にこれが功を奏したのではないかと思う。実に素晴らしかったのである。

 特に圧巻なのは、3回目のMCが終わり、「夕日を見ているか?」から「風は吹いている」まで、7曲連続で続く怒涛のパートである。特に最後の「Beginner」「River」「風は吹いている」の三曲は、振り付けがとりわけ難しいことでも知られている。チーム4のメンバーは、岐阜で僕が初めてこのセットリストを観た時よりも、確実にこの曲を"もの"にしていた。何よりこれらの曲は、「ゼロからスタートする」「苦境を乗り越える」ことをテーマにしている。それはまさにチーム4のメンバーがいま直面しているものでもある。

 特に「River」の「失敗してしまっても 流されてしまっても やり直せばいい」というくだりは、いまのチーム4の置かれた現状をうたっているようにしか、僕には聞こえなかった。僕は、新世代を担うチーム4のメンバーたちが、これらの曲と一体となって迫真のパフォーマンスを見せてくれたことに、深い感動を覚えたのだえる。

 そしてぱるるが「風は吹いている」のセンターで見せた悲痛なまでの表情のパフォーマンスは、恐ろしいまでの凄まじい迫力だった。僕が初めて劇場で衝撃を受けた彼女の表情は、凄まじい高みに達していた。「震災復興応援ソング」として書かれたこの曲は、鎮魂の歌である。そして瓦礫から立ち上がることを決意する歌でもある。ぱるるはこのとき、そうした人々の悲痛なまでの決意を束ねて凝縮する、あたかも「巫女」のようだった。僕は震えが止まらなかった。

 そしてアンコールを迎えて、今回のために用意された新曲「エンジョイ4!」で、会場のボルテージは最高潮に達した。「ワッショイB!」の替え歌であるこの曲は、メンバー16人を紹介しながら、「最強チームは4!4!4!4!」と歌う。

 チーム4は、最強のチームではなかったかもしれない。いやむしろ最後発で最弱のチームだったからこそ、解体されてしまったのかもしれない。しかし、この瞬間、チーム4は間違いなく最強だった。みなるんはアンコール後のMCで、ぜひこの曲を覚えて帰ってほしいといっていたけれども、僕は永遠に忘れることはないと思う。

 そして続く「僕の太陽」で、ステージ上の彼女たちは、ドームの時のように涙を見せて歌うことはなかった。この曲はサビの部分で「太陽は何度も夢を見る」と力強く繰り返す。まさにチーム4のメンバーがこの日見せた輝きは、何度でも繰り返し東の空から上ってくる太陽を思わせるに十分だった。確かにチーム4はなくなってしまうかもしれない。しかし、僕はこれからもチーム4のメンバーたちが次世代の中心となって、AKBが何度でも「太陽」を生み出し続けることを証明してくれるはずだと信じている。

 最後に、カレン(岩田華怜)の言葉を引いておきたい。彼女はドームでチーム4解体が発表された翌日、次のように書いていた。

「どんなに跡形もなくなっちゃった場所も、なくなってないんです。
ずっとあるんですよ、そこに。
それを私は知ってるんです。
私も故郷のたくさんの大切な場所を失ったけど、そこに行くとね、涙が溢れてくるんですよ。
だからね、チーム4も、永遠に皆さんの大好きなチーム4なんです。」

 そう、たとえなくなったとしても、チーム4は永遠に心の中にあり続ける。僕は決してそのことを忘れることはない。ありがとう、チーム4!

(了)

■あとがき:

僕がなぜAKB48、特にチーム4とぱるる(島崎遥香さん)にハマったのか。その過程を、ちょっと当時のAKBヲタじゃないと分からない文脈の説明をすっ飛ばしている箇所は多数ではなりますが、なるべく凝縮してわかりやすく書いた記事(ヲタ活レポ)です。

そして、ある意味では、なぜその後AKB48から次第に離れてしまったかを、端的にあらわしている記事でもあります。

ああ、本当に大場チーム4は素晴らしかった。でも、ここに書いたことは、僕の中で、何一つ変わっていないのです。いまでも「僕の太陽」として、当時の経験は、心の中を照らし続けてくれています。永遠のプレッシャーではなく、永遠のプレジャーとして。


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