<ブラジル国際私法の相続規定について>
(法曹関係者向けです。)
<ブラジル国際私法の相続規定について>
ブラジル民事施行法(国際私法)第10条1項は、相続の準拠法を、財産の所在にかかわらず、被相続人または不在者の住所地の国の法によるとしています。
そこで、日本に住所を有するブラジル人が死亡した場合、
1 日本の国際私法では、被相続人の本国法であるブラジル民法が準拠法(通則法36条)
↓
2 しかし、1で述べたとおり、この場合、本国法が準拠法となる場合ですので、
①指定されたブラジルの(民法ではなく)国際私法が
②日本民法を準拠法とする場合には
例外的に日本民法が適用されることになり(通則法41条1項)
↓
3 上記例の場合、
①ブラジルの国際私法(民事施行法10条1項)は
②死亡地の法(日本法)を準拠法としている
↓
4 以上から、ブラジル人が日本で死亡すると日本民法が適用される(通則法41条1項)。
ということになります。
従って、
A:誰が相続人か
B:相続分はどうなるのか
等の問題は日本の民法で処理されることになります。
しかしながら、厄介なことに、ブラジル民事施行法第10条2項は
「相続人又は受遺者の住所地法は彼らの相続能力を規律する」(訳:望月)
とあり、
上にあげた、「A:誰が相続人か」
という問題は、相続人がブラジルに住んでいる場合に、同法10条2項が適用され、日本法にならないのでは?という疑問がでてきます。
これについては、ブラジルの国際私法は次の通りに解釈しているようです。
α:誰が相続人か(たとえば、奥さんが相続人になるのか)→死んだ人の住所地の民法
β:(αによって奥さんが相続人とされる場合)その人は、法律上奥さんなのか、行為能力があるのか→その奥さんの住所地の民法
日本での問題に引きなおして言えば、
β部分はそもそも相続の送致範囲(相続の準拠法の問題ではない)ではなく、日本の国際私法の別の規定で別途婚姻の有効性が判断されます。
ですので、やはり、日本においてはA、Bいずれも日本民法が適用になります。
ブラジルと同様の規定があるアルゼンチン(民法3283条と3286条(注)、同国は民法中に国際私法規定があります)国内でもそのように解釈しているようです(ドイツからアルゼンチンに行ったゴールドシュミットの説が上記解釈と同じです。)。
テキストにも「矛盾する規定の解釈」というくだりで説明がありました。矛盾というより、ブラジル民法施行法の規定からだと、送致範囲が不明確、という方が正しいのかもしれません。
注:2014年10月7日公布の新法(民商法典)以前の旧民法の条文になります。新法については戸籍時報774号26頁以下参照。(平成28年9月28日追記)
現行の国際私法規定は同国民商法典2647条参照(死亡者の住所地法+アルゼンチン国内の不動産に関してはアルゼンチン法)
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