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食堂に行かなくなってから、だいぶ経った。
部屋の前に置かれる食事も、一週間もするともう置きに来なくなった。

食事は命の為、生きる為のものだ。
ぼくはそもそも、死にたがっていたではないか。
そう思うと、食事をする必要性を考えなくなった。

毎日いつもの部屋でいつともなく目覚め、すぐに個室に置かれた端末に接続する。
ぼくの生きるべき世界軸は、ここインターネットだ。
現実の世界なんて、肉体なんて、ぼくにとっては煩わしい。

言ってしまえばぼくは社会不適合者なのだ。
自己開示が下手過ぎて腫物のように扱われ、こちらに歩み寄ってくれた人にすら何も言えず、他人行儀のままのぼくに呆れて離れられる始末。
生涯ぼくは孤独で、何処にも居場所が無く、唯一人間らしい交流をする場所といえば、インターネットを通じて生まれたコミュニティの末端で、人の発話を眺めているくらいだ。
これでも交流をしていると思う程度には、本当に人と触れられない。

そんなぼくのいつもの居場所に、怪しげなものが飛び込んできたのだ。


『人間の命を、バーチャルに』


藁にも縋る思いでここのよく分からない実験に参加し、有用と判断されたので今もなお生かされている。

「結局今も生きてんだよなぁ……いつになったら肉体を捨てられるんだろうな、出来ないくらいならいっそ」


はやくしんでしまいたいものだ。
このじごくからぬけだしたい。


そう思いながら、ぼくはまた人間と交流している。

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