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星命、意志

今日も私は、街外れの小屋で目を覚ます。既に陽は昇っている。眠るのに時間がかかったから、少しリズムが崩れてしまったかもしれない。

ベッドからずるずると身体を引きずり出していると、小屋の戸をノックする音が聞こえる。


「アストロ、起きてる?」

「今起きたところ〜……」


がちゃり、こちらの姿など気にせず戸を開けてきたのは、シェラタンで生活している私の妹。
引きこもり気味の私を心配してか、よく私の小屋に来ては母親の様に私を律してくれる。


「今日は戴冠式なんだから、早く身支度してちゃんと身なり整えるんだよ。」

「はあい、分かってるよう」


今日は戴冠式。私が"ハマル"の名を受けて、大星命の称号を賜る日。

思えば、私はよく人に懐かれたり一方的に好かれることが多かった様に思う。
私としての自己評価は、牡羊座の星の子としては異端で、慎重派で堅実なタイプ。リーダーシップを取るのが苦手で、何か新しいことに挑戦するのに臆病なタイプ。

そんな私であったのにも関わらず、周囲の星の子たちは私を大星命に推薦してくれた。
私も私で断りきれない性格だったから、そのまま称号を賜る事になったのだけれど。

髪を梳いて顔を洗い、寝間着から正装に着替える。
胸に光るは、牡羊座のマークが秘められたタンザナイトの首飾り。


「準備出来たなら行くよ、皆待ってる。」

「……うん、行こうか。」


小屋から出て、手を引く妹に合わせて金色の翼をはためかせ、市街区の中央にそびえ立つ聖堂に飛び立つ。


「────以上をもって、彼の者を大星命とし、固有名を"ハマル・アストロ"とする。」


聖堂の真中には、私と牡羊座を支配する守護神のアレス様。
それを取り囲む様に、ハマルの星に生きる星の子達が、所狭しと立ち並ぶ。
神の御前で膝をつく私は、周囲の目がどんな風に私を見つめているか分からない。

祝福の視線、憧憬の視線、嫉妬の視線、憎悪の視線。
全てが入り交じった様な、得体の知れない感情の渦が私を取り囲んでいる気がする。
嫉妬や憎悪の感情を読み取っているのは私の被害妄想なのかもしれないけれど、それでも大星命として神の傍で働けることを目標としてきた仲間を沢山見てきたから、多少なりともその感情が含まれているのは確かなはずだ。


「この者を大星命とし、祝福する者は拍手を。」


途端、割れんばかりの拍手が私を包む。

────あぁ、良かった。
私は、牡羊座の子どもとして、認められたのだ。
常日頃から異端として他の子ども達から離れ、一人で暮らしていたけれど、それでも。
私を認めてくれる大多数の子ども達と、アレス様に、私は祝福されているのだ。

アレス様の手で、私はティアラを授かる。翼が金色から真白に染まっていく。


「……今日からお前の名はハマルだ。その名に恥じぬ働きと、星命を送るように。」

「ありがとうございます。アレス様の祝福に感謝を。」


私は、牡羊座の頭を意味する"ハマル"として、新しい命を頂いたのだ。

私は、牡羊座の子どもなのだ

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