パリ五輪の卓球日本代表戦の感想
男女とも、お疲れ様でした。女子は惜しくも届かなかったですが、銀メダルは立派ですね。早田も怪我をした中で、シングルスの銅メダルと頑張りました。
男子はメダルに届きませんでした。これについては後述します。
まずは、女子団体の決勝―中国戦を中心に話を進めて行きたいと思います。
何と言っても、オーダー変更に驚いた人が多かったのではないでしょうか。当方も決勝で変更してくるとは予想してなかったです。
ここに渡辺監督の驚くべき構想力、選手起用の上手さを感じました。
当方は女子団体戦が始まる前に、エース早田の怪我があってシングルス2点起用は無理だから、ダブルスで張本美和と組ませて出すことを考えていました。
ですが、始まってみると早田-平野のダブルス、張本美和のシングルス2試合起用ということで、好調平野を2点起用した方が、とか思っていたのですが、違う組合せで試合を進めていきました。
ですが、決勝戦だけは当方の予想したダブルスの組にしてきたのですね。ここに渡辺監督の選手に対する信頼と、美和に対する「育成」方針を初めて感じ取れました。
当方の推測は以下のようなものです。
まず、張本美和が五輪初出場で最年少の為、経験が最も浅いわけです。団体戦が五輪初の試合です。一方、平野と早田はシングルスで試合をこなしており、強豪相手にも五輪という大舞台での試合経験を積めました。
美和にはこれがなかったわけです。そこで渡辺監督は、敢えて「美和を一人にさせる」「相手エース格に必ず当てて、試合経験を積ませる」という、五輪の舞台に慣れてもらう作戦をとったのでしょう。
起用に応え、準決勝までは全て3-0 勝利で、美和は第2試合で相手エースに当たっても無難に勝ち、試合慣れをしていくことができました。準決勝のドイツ戦でも同じオーダーでいったわけですが、美和にとっては最大の試練となりました。
高身長でパワーのある相手エースの強打に屈したわけですが、これは対中国戦での下準備となる為には必要な試合だったと思います。勝敗は別にして、美和がこれを経験しなければ決勝で活躍するのは難しくなる、ということはあったと思います。
準決勝ですから、大事な一戦であり、重圧もこれまでとは違いますし、相手の上手さ・強さもレベルが上がっているわけで、これに克つことが美和には必要でした。先輩お姉さん2人が絶対勝ってくれるから大丈夫、ということで、最大の試練を乗り越えた美和が涙したのは、その緊張と重圧から解放された為だったと思います。
早田の怪我は、チームにとっての危機になりそうでしたが、逆にこれを利用してエースの怪我をカバーし合う全員の力を発揮できたのと、美和の成長を促したことは、まさに怪我の功名でした。
それが中国戦のダブルスでも生きました。
年長の早田が美和を引っ張り、美和は精神的にも安定して試合に臨めました。早田のフォア、美和のバックと強打を揃えて、中国のパワー系に対抗することを監督は構想したのだと思います。
実際、試合展開は強打の応酬となり、最強ペアを相手に一歩も引けをとらない早田-美和のコンビネーションは素晴らしかった。美和のサーブやバックリターンも効いてたし、強化を続けたであろう早田のフォアのストップレシーブも効果を挙げた。怪我の復調を見せたバックハンドのチキータやクロスのドライブやカウンターも打てていた。
が、中国は簡単にはゲームを獲らせてはくれない。終盤の勝負所でミスを減らした上、強いドライブを打ってくる。
2ゲームオールで迎えた最終第5ゲーム、早田-美和が中盤から抜け出し、9-5と4点リードを奪った。普通なら、ほぼ試合が決まったであろうリードだったが、ここからの中国は驚異の集中力で同点に追いついた。これは早田や美和が震えたわけではなく、普通の相手なら打ち返せないかもしれない(決定打になってるであろう)球を一本多く返球してきたのだ。
得点源だった美和のサーブをも、狙い澄ましてフォアリターンエースなんて、あの場面で打てる選手は相当少ないだろう。それほどの連続得点だった。美和は、やや心細かったシングルスと違い、早田がいてくれることで力を発揮でき、ファインプレーの連続だった中国を相手にマッチポイントを跳ね返すプレーを出せた。早田もよく打ち抜いて美和を引っ張ってくれた。
が、勝負運は中国にあった。
試合内容で見れば、勝てても不思議ではない早田-美和のペアだったが、あと2点で敗北という場面でも、驚異的集中力を発揮して最高のプレーを出せる中国がやっぱり強靭すぎるのだった。
ここを落としたので、中国チームには精神的に余裕が生まれたであろう。
平野はエース孫との試合で、序盤に7-1と大量6点リードを奪うも、追い付かれてデュースとなり、粘りを見せたが11-13でゲームを落とした。このショックはその後の精彩を欠く結果となってしまった。
恐らく、あのまますんなり第1ゲームを獲れていれば、「行けるぞ」という気持ちにも流れにもなったと思うが、大量リードを守り切れずに「落とした」という残念さが心の底に澱のように残ってしまったのでは。
淡泊な試合運びとなってしまい、プレッシャーのない孫は鬼のように仕留めにかかってきた。これで日本は2敗と追い込まれてしまった。
第3試合の美和は、パワー系最強の王との対戦となった。序盤8-5と3点リードから10-7とゲームポイントを迎えたが、さすが中国、そこから同点に追いついてきた。
ドイツ戦での敗戦が生きたか、ここから美和は「自分の卓球」に集中し、食らいつく。バックハンドが冴えていた。14-12と振り切り、ゲームを先取できた。
次のゲームでも、点差をリードされても粘りを見せ、劣勢の中から終盤追い付き、10-10の同点となる。が、粘りが力尽きて10-12とゲームを獲られタイにされてしまった。
こうなると、精神的優位に立つ王が本領を発揮してくる展開となった。第3ゲームで4-9と5点リードを奪われ、挽回が難しくなる。王にゲームポイントを握られながらも2、3点返したが7-11で落としてしまった。多分、メンタル面のスタミナが尽きかけてたのだろう。
張りつめた場面の連続で、同点から一気に点差が離されると気落ちするのも無理はない。第3ゲーム最後にバックハンドのストレートがサイドアウトした後、ガックリとうなだれた美和には、そこから挽回できる気力があまり残ってなかったかもしれない。
万策尽きた感じが急激に襲ってくるような?そんな雰囲気だった。
3選手の全体的な評価としては、プレー自体はかなり通用する部分も多くなり、打ち合いでも勝負できる場面は増えたが、精神的タフさとかここぞの勝負勘のようなものは、やはり中国が一枚も二枚も上手だった。
以前より近づいたとは思うが、逆転するにはまだ及ばない部分があるのかな、と。
男子は、張本の成長が期待される。特に、メンタル面での強化が必要かと。勝てる試合を落とす、というのは、シングルスの樊戦や団体のスウェーデンのケルベリ戦、フランスのルブラン弟戦などで見られた、勝負所を迎えてやや萎縮する・消極的となる傾向が出てしまうことがあるからだ。
相手はそこにつけ込んで逆転に成功してしまうわけで、そこが勝敗を分ける差となって顕れたのではなかろうか、と。
フランス戦の後のツイート。
男子は中国が抜けてはいるが、あとは混戦ぎみで、シングルスの強豪は下剋上っぽい?
なので、張本以外にも戸上、篠塚やその他のポイントゲッターとなる選手の強化が大事ですね。
男女とも、卓球代表に感謝を申し上げたい。
厳しい試合を戦い抜いてくれたこと、本当にお疲れ様でした。
これからも頑張ってください。
ありがとうございました。
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