原恵一監督の本気と愚痴
去る8月「第34回 東京学生映画祭」を見た。
この日は、とてもすばらしい
みんなの思い出に残ること間違いなしの、すごい映画祭だった。
ただ、あまりに深く思い出に刻まれるたぐいのものだったのか、
まだ消化しきれていないのか、
証言が少ない。
すごい「映画祭」だったのだ。
もしか、すごい「映画」よりも・・・・・・
東京学生映画祭とは
アニメーション部門 審査員コメントにて
日程は3日間あるうちの、見たのは最終日のみ。この日は、
「Dプログラム」として 実写長編1本、
「Eプログラム」で アニメ短編8本、
「Fプログラム」が 実写短編4本、
そして夜に「授賞式」という構成だった。
事件が起きたのはEプログラムである。
上映後、まず前半4本の学生監督たちと、審査員の幸洋子監督、司会役の実行委員1人が登壇。講評を兼ねたトークショーが行われた。
それぞれの作品に、感心した点を言ったり、力を入れたところを訊いていくなど、なごやかな雰囲気。
そして人が入れ替わり、後半4本の監督たちと、審査員の原恵一監督が登壇。
まず学生監督のコメントを司会が振り、各監督が自作の苦労した点、大スクリーンで上映してみての反省などを述べていった。
で。
「つぎに、審査員の原恵一監督から、作品の講評をお願いいたします」
「いや、、、オレはねぇ、、、
これは、、、ダメだと思うよ
どれも、、、
さっきから聞いててさ、その、、、技術的なことばっかり言ってるけどさ、、、
あそこああすればとか、ちょっと音が、とか、、、
そういうことじゃないと思うよ
なんか、、、映画として、、、貫いてるものが、ないんだよね
映画ってさ、そりゃいい画とか、音とか、あるだろうけどさ。
何をって、
まず、ストーリーだろ?
映画を通して、これを、っていう、、、お客にぶつけるものがさ。
それが、、、何もなかったよね
ストーリーが。
全編を通して、これがやりたい、でもいいし、
この画を見せたい! でもいいし、
伝えたいこと、
そのために映画を作ってるっていう、貫いてるものがさ、、、
なにもない
すくなくとも、おれはわからなかったよ
そりゃ、”こんな画面どうやって作ったんだろ?” とか、そういう細かいことはあったよ。
でも、、、それだけじゃ映画か、って。
ツールで遊んでんのかな?って思うよね
”こんなん できちゃったから応募してみよー” って、そういうことなの?
君たちは、プロ目指してんじゃないの?
いや、知らないよ? プロ目指してるんだろうって思って、こっちの思い込みで、それで来てるんだけどさ。
でも、そのつもりで見たよ。おれは。
それで、こんなんじゃ、、、ダメだろって、思ったんだよね
いいのはなかった
めちゃくちゃ見たよ?
めちゃくちゃ見たよ、こっちだって。
何回も、、、それは家でだけど。
家でだけど、75型 ※ のモニターだから、まあそれなりだけど
うーん
そうじゃないよなあ、って思った。
これじゃダメだよって、、、
そちらも、なんか言いたいことあるなら、言ってもらいたいけど
そして数秒の沈黙ののち、勇者がマイクを取った。
菅原監督(『アトミック・ウォー 大腸篇』)
「いや、、、お、あの、ほんとおっしゃる通りっていうか、僕自身はほんとに初めて作った映画で、みんなでやって、できたから折角だから応募しようって。全然プロになるとかの心構えで作ってはいなかったので、ほんと、その通りだと思いました。あはい」
「うーん、、、
もっと何か、ないのかなって思った。
こんなもんじゃねえだろって。
こんなもんのわけないだろって」
「はい・・・・・・・・・」
終。
いや嘘。実はそこで終わらず、
司会「個別の作品についてなど・・・」
という音が耳に入り、この司会の発言には皆が戦慄したというか、君聞いてた? まじ? なんもわかってへんわれ、原監督の言葉も学生の心痛も
原監督より爆弾やん。
というムードが生まれた。と思う。が、
「いや、ないなあ」
と言われて終わった。と思う。
授賞式
Fプログラム、石井岳龍監督による意外な穏やかな講評を経て、夜はとうとう授賞式である。
壇上、左右に長机が置かれ、審査員監督の名が貼られている。
登壇する5名の審査員・・・。
で。
早々にやってきてしまった。
「アニメーション部門、最優秀賞の発表を、審査員の原恵一監督よりお願いします」
センターマイクに向かう原恵一監督。
手持ちの紙を広げる監督。
息を吸う監督。
「アニメーション部門、グランプリは・・・」
「あのさあ、、、、、、
おれは、、、
あげたくないって言ったの
ない、、、
ないよって、
受賞作は、出したくないって言ったんだよね
今日のなかで、そういうのはなかった。
だから、おれはヤダって言ったんだよね
ただ、、、話して 幸さんとも話して
賞っていうの、受賞っていうのがなんだっていうのを、
言うと、
おれも何回か賞っていうのは、それはもらったことがあるんだけど、
あれって、もらうとさ、
”あ、お疲れさまでーす。
またもっと面白いのお願いしまーす。じゃ”
みたいなさ、、、
”はい、お疲れさまー”
ぐらいのさ。もんなんだよね。
つまり、あげるほうからするとさ、
”次もっとすごいもん作れよ” っていう、
”あげたんだからな” っていう、
なんかそういう感じなんだよね。
こっちは、、、
そりゃ嬉しいし、
調子に乗るよ?
調子には乗るんだけど、
でも、それで終わりにはさせてもらえない。
凄いの作ったねー、で、逃げさしてもらえない。
もっとすごいもん作んなきゃいけない。
”あげたんだから!”
もらってしまった! っていう。
そういう、、、プレッシャーとして。
出すことにしました
はるおさき監督『いずみのこえ』です」
そうして、拍手していいんだかどうだかよくわからない、
受賞した監督も、喜ばしいんだか前に行くのが怖いんだか、
やたら、色んな感情を呼び込まれていたのではないか。
そうして、受賞作についてのコメント。
「あなたの作品の良かったところは、、、
良かったのはね、、、
引き算があった
アニメって、もとは真っ白だから、
紙だからね あるいはモニターでも
最初はなにもないんで、ぜんぶ足し算なんだけど、
いまは技術が色々あって、どんどん、どんどん、重ねていけちゃうんだよね
そのなかで、たしかにこんな画どうやったんだろう、って思うのもあるんだけど、
いちばん最新の、すごい技術ですごい、やったやつって、
いちばん早く、古くなるんだよね
それで、いくらでも重ねていけるところで、
あなたの作品は、引き算ができてたと思う
だから。
あのー、ちょっとタルコフスキーを感じたんだよね。
タルコフスキー。知ってる?
知らない?
観てる!?
観てる!!
ほらーやっぱり
タルコフスキーなんだよ
お前らさあ~ 観てる!?
観てねえだろ、タルコフスキーぐらい、観るんだよ
タルコフスキーってのは、ソ連の映画監督で、映画の教科書なら必ず出てくる人、
眠くなる映画、っていうジャンルを作った人だよね
眠いんだよ、、、、、、
だから何回も観るんだよ
でも何回観ても寝るんだよ
でもそれでいいんだよ
くるものがあるんだよ
そうかあー タルコフスキー観てたかあ」
と、上機嫌になるシーンもあり。
記念撮影もある。
並んで撮る。
式はつづく。
とにかく原監督の生み出したムードは はてしなく、その後の他の審査員コメントも
「ここが面白かったよね。おめでとう~」
では済まされない、ような感じがある感じをみなさんが感じており、
「いや、私も、、、原監督の講評を聞いてて、もっと本気で向かい合わなきゃって、自分の経験を本当を言わなきゃって思って、、、」
とか、
「賞って、取れなかったら号泣するし、取れたら次もっと期待されてるんだって押しつぶされるし、、、」
とか、
「受賞したコンペの前の年のを観たらぜんぜんどうでもよくて、次の年の受賞作もどうでもよくて、じゃあ自分の作品もおなじくらいなのか、、、って」
とか、
「そうね、作品の難を言うとすれば、、、」
とか、
プロとしての荒波を、次々吐露する場になっていったのだった。
ひととおり、受賞作の発表はおわり・・・・・・
司会
「では最後に、総評をみなさんからお願いしたいと思います。
まず原監督から」
「あのさあ、、、、、、
みんな、プロになりたいって思って応募してきてる、って考えると、
いや、これは勝手なね、おれの前提でだよ、そうすると、
まあ、いいと思ったのはなかったって言ったけど、
タルコフスキーがあったけど、
次、みんなが作るかどうかはわからないけど、
これでやめるってのは なしだと、思うけどね
おれは子供向けのアニメから入ってさ、
昔からさ、言われたんだよ
『ガキ映画だろ?』って。
『ジャリ映画じゃねえか』
そういうやつらがいて、そんなんでいいんだよって言われてさ。
でも。
そういうことに対して、向かってった先輩もいてさ、
宮崎さんとか、
高畑さんとか、
それこそね
だから、本当にやりたいことは、やるんだよ。
セクハラとかさ、
パワハラとかさ、、、
全然いるよ?
でも、
しないやつも、いる。
中には いる。
そういう、しないやつと、
一緒に、同じことをできるやつと集まって、
作っていく
そんな感じです」
そして、プロの苦みが順番に締めの言葉とされていく・・・・・・
清水崇監督
「いや、おかしいよ!!
みなさん!
めでたいでしょ普通に!
おめでとうでいいんですよ、受賞したんだから!
喜んでいいからね!?
おめでとう!!
あとみんな、レセプション来てね!?
この空気ヤバいなーって!
だれも来なかったらどうしようって!
打ち上げしましょうよ!
おめでとうございます!!」
映画祭が終わって
いやー、むちゃくちゃ面白い講評&授賞式だった・・・・・・
ずっと笑った。
がしかし、
Twitterを見ても、検索しても、この
原監督のすさまじい本音力、
生み出したムーブメント
についての報告がなかなかあがってないもので、
ここに記す。
もしかして、書いたらマズいかもー、と思ってるんだろうか?
あるいはそれ以上に、
今も、マジで腹立って仕方ないのかも?
なんにせよ
めっちゃええやんか。
とわたしは思います。
東京国際映画祭 学生応援団(インターン)によるnoteではこれだけ。
ちなみに原監督、審査員就任時のコメント
これがあって、俄然興味が沸いてその後、原監督の作品
『かがみの孤城』(2022年)
を観た。 (『オトナ帝国の逆襲』はもちろん前に観ている)
これは。
ぜったい観てください。
なんかぼんやり、ヒューマニズムみたいな、いい話を撮る人~ みたいなてきとうな認識で来てしまったのだけど
ヒューマンの現実と暗部を見据えているからこそなんだよなと、
そら当たり前のことだけど、改めて。
原監督の喋ってる姿はYouTubeにもある。
(審査員コメントのときの様子を感じさせるくだり)
(ちなみに相手役をしている樋口真嗣監督も映像系審査員をされるときがありますが、こちらは朗らか派。空気作りに注力され、そしてめっちゃうまい)
こんなに「映画」を抱え、社会に流されてない人がいたのか・・・
いや~ 映画って ほんっとうに いいもんですね。