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狐日和に九尾なぐ 第十一話

■新興宗教の教祖として担ぎ上げられそうになるのは、わらわだけ。

「なぐちゃん、すごいね。それってどんな傷や病気でも治せるものなの?」
 私はなぐちゃんの不思議な能力を二度目にしている。
 オレンジ色に光った右手を患部にかざせば、見る見るうちに元通り治癒されるその様子は、まるでマジックのようだった。

「わらわの囁きに応えてくれた分だけの力しか発揮はできん。重い病などは難しいかもしれんのう。かつてに比べるとその力はだいぶ無くなっているようじゃ」
「ふーん、そうなんだ。なんで昔と今でそんなにパワーダウンしちゃったの?」
「――わらわの力の源は人間たちの信仰心によるものじゃ」

 なぐちゃんによると、人々が彼女に対する求心力を高めれば高めるほど、その能力は大きく発揮されるらしい。
 今日の比ではない力を使えるというのであれば、もしかして国一つぐらい動かせるのでは?

「なぐちゃん、自分の商品価値ってどのぐらいだと思う?」
「急になんじゃ。わらわは売り物ではないぞ!」
 まぁ売り物ではないよね。でもねなぐちゃん、その力はカネの匂いがぷんぷんするよ。
 ウチに転がり込んだのも何かの縁。少しばかり甘い蜜を吸わせてくれてもいいよね?

「ごめんごめん。じゃあ別の質問をしようか。
 なぐちゃんは““力が欲しい““――?」
 私の問いかけにキツネ耳がぴょこんと反応する。思い悩むような表情を隠すように咳払いをし、ポツリポツリと自身の思いをなぐちゃんが語り始めた。

「確かに今のままでは力が足りないのは事実。ただ、力は巨大になりすぎるととてつもない過ちを犯すこともある。己の掌に収まるぐらいの力で充分なのじゃ……」
「そんなの勿体ないよ! 力はあればあるほどいいんだよ……! 私と一緒に手を組もう、なぐちゃん! ああ、そうだ。なぐちゃんを教祖にして、新興宗教を立ち上げよう! 人々を救うこともできるし、信者たちからのお恵みで私たちは何不自由なく暮らすことができるよ! どうかな!?」

 戸惑うなぐちゃんの手を取ると、「なっ、やめるのじゃ! 強引すぎるのは嫌なのじゃ!」と言われて手を振りほどかれてしまった。
 もうちょっと手懐ける期間が必要だったかな?
「お主もやはり、邪な心を持った愚かな人間なのじゃな」
「そんなことないよ、そんな心を持ってたら私はなぐちゃんのことを助けてなかっただろうし」
「たわけめ」

 あ、ヤバいかも。
 なぐちゃんの九尾が毛羽立ち、私への疑心をあらわにしていることがわかる。
 え、えーと、これ何かされるパターンですか? 痛いのは嫌だよ。
「な、なぐちゃん。あのね」

「――その汚れた心、いただくとしよう」
 凛とした声だった。 
 かざされたその右手は、ただただ蒼く光り、すぐに私を包み込んだ。

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