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執筆環境はヘンタイなほどいい

カレーの作り方

 テストで答えがわからないときは、なんでもいいから書いておけ。カレーの作り方とか……という話をはじめて読んだのは、佐々木倫子先生の「動物のお医者さん」の作中だったかと思う。それ以来、僕の世代ではこれが大流行したらしく、大学でも教官が「カレーのレシピばっかり書くな。作って確認する方も大変なんだぞ!」と怒っていらした。実際に作ってみて、美味しかったら点をくれるらしい。いい先生だった。
 なぜこの話をしたのか。それは「書くことがない日は執筆環境のことでも書いておけ」というブログの抜け道を使うためのいいわけである。

ソフトウェア

 僕が書いているのはテキストで、紙の雑誌と違って文字数の制限もなく、高度な検索が必要なほど分量もない。だから正直、何を使っても書ける。
 できれば縦書きで書きたいが、以前にも書いた通り、今はMacならシステム標準のメモ帳で縦書きが選べるし、オープンソースのLibreOfficeを使えばLinuxでも縦書きに困ることはないだろう。それに、昔のワープロは横で書いて、プリントアウトするときだけ縦になるものが多かったから、実は横で書いても不自由で書けないというほどのことはない。       
 ただ僕は縦式を愛用している。MacとiOS版しかないのでオススメできる相手は限られているが、簡単な設定で軽快に原稿用紙を使った執筆ができる。ワープロソフトを使った原稿用紙モードは枚数がかさんでくると重くなってくるものもあるので、縦式の軽快さをみると、かつてpomeraに求めていたものを思い出すのだ。

フルスクリーンにすると高機能なポメラという雰囲気が出る。青空文庫形式のルビにも対応しているので気分次第で他のエディタと混ぜて使うこともできる。

 メモを書きつけるのにObsidianを使っているが、高度なマークダウン機能などほとんど使わない。ただiCloudを介してiPhoneとMacbookで同じメモにアクセスできるのは便利だ。それだけなら標準のアプリでももちろん可能だが、長年メモに使っていたevernoteにとうとう別れを告げたので今までのメモを.mdファイルに一括ダウンロードして、フォルダごとObsidianに引っ越しただけのことである。.mdファイルを扱えるソフトはいくらでもあるから、その時その時で良さそうなソフトを渉猟しても損にはなるまい。
 ちなみにObsidianはファイルのリンク関係を把握する機能やプラグインが充実しているらしく、これはいずれ僕が同人ノベルゲームを作るときに役立ってくれるのではないかとにらんでいる。

グラフビュー。他にも当該ファイルがどの外部ファイルからリンクされているかを一覧表示できたりするのでゲームのシナリオを書くときには活躍してくれそうだ。

ハードウェア

 今はMacBook Pro13(M2)を使っている。漫画の仕事をするのにClipStudioが動いて、Photoshopが動いて、バッテリーで8時間は駆動できるパソコンなど、そんなに多くないからだ。ただしこれはテキストを書く目的には、あきらかにオーバースペックだ。軽くて丈夫な古めのノートパソコンにLinuxでも入れたほうが幸せになれるはずだ。Linuxでは「薙刀式かな入力」が使いにくいので、そのときは、もうひと工夫する必要があるだろうけど。
 キーボードは長年「なんでもいい派」だったのだけど、MacBookを導入したタイミングで考えを改めた。ノートパソコンは設計の都合でキー配列が個性的すぎることが、しばしばある。それでパソコンを買い替えるたびに新しいキー配列を覚えるのだが、これが結構な手間であることはご理解いただけるだろう。
 くわえて故障のリスクである。ノートパソコンの宿命として、モニタもマザボもメモリも、そしてキーボードも壊れるときは一心同体である。なので最近のノートパソコンユーザーの間では「尊師スタイル」が流行りつつあるという。尊師スタイルってのはヒゲモジャの神プロブラマー、リチャード・ストールマンのこと。この人のノートパソコンの上にHHKB(Happy Hacking Keyboard)という、ちょっとお高めのキーボードを載せるスタイルはプログラマーだけでなく物書きのコミュニティにも浸透して、パソコンを買い替えても手に馴染んだキーボードはそのまま使うという「こだわりキーボード文化」をよく目にするようになってきたというわけだ。
 HHKBにしろ自分で組み立ててファームウェアを書き込む、いわゆる自作キーボードにしろ手に馴染んでしまったら積極的に買い替える必要はない。だから丈夫で高性能で壊れても修理可能で、特殊なユーザーにも対応可能なカスタマイズ性が必要になる。そしていったん自分がそれに慣れてしまえば、それがどんなに不合理だろうと非効率的だろうと、それが自分のキーボードになる。他人に貸すことはできないし他人のパソコンを借りるときもメチャクチャ面倒くさい。でもキーボードをそういうスポーツ用品のようなインターフェースとして考えると……そう、新しいパソコンを買ってしまうハードルがめっちゃ下がるのである。

僕のHHKBはキーを何度も入れ替えて遊んだのでキートップの印字とキーの内容がぜんぜんあってない。どうせ手元は見なくなるので直すのも面倒で放置してある。

 僕の使っているモデルは比較的新しいもので、Bluetoothで切り替えてiOSで使ったりもする。極力ホームポジションから手を離さないでタイプしたいので、薙刀式というかな文字入力法も使ったりローマ字入力も併用する。どちらにもメリットがあるので、いずれはその話もするけどホームポジション重視のポイントは親指のカスタマイズである。
 親指でタイプする最下段のキーが3つ上下逆にしてある。
 親指シフト系の入力方法は親指と他のキーを同時に打つことが多い。そこで手を丸く構えて軽く握る動作で一つのキーをタイプすることが増える。その時に手触りがいいようにこの辺のキーを取り外し、逆さまにしている人は案外多いらしい。僕も他の人の記事を真似してこのようにしている。
 スペースバーの左のキーはFnに当ててある。ここにFnがあると左手親指とHJKLでカーソルキーを動かせる。viエディタと同じなので手がホームポジションから離れない。おすすめはしないが慣れてしまえば関係ない。
 スペースバーの右側はBSキーだ。MacだからDeleteキーと呼ぶべきか。
 ガチャガチャ書いていてミスったら右手の親指ですぐなかったコトにできる。これは慣れると手離せない。薙刀式配列にはBSキーも割り当たつているのだがローマ字入力や英語を併用していると今どっちのモードだっけ、と混乱することはよくあるのでキーボードのファームウェアに書き込んでしまった。なのでiPhoneなどでもこれらのキーは使用できる。
 ついでにFn+BSでEnterになってるので、もう小指を伸ばしてEnterをッターンと叩く必要はない。

さらなるヘンタイの世界へ

 どうせ自分しか使わないキーボードである。可能な限り自分の手に合うようにしてしまおう。
 僕がワープロを覚えたMSX2+(!)を卒業してMacintosh LCIIでDTPを始めたとき、キーボードを選ぶ余裕はなかった。
 アメリカのパソコンだからキー配列はアメリカ式。そこになんの疑問もなかったし、比較するものもなかったので、僕は自然とUS配列に慣れて育った。(US配列は上の部分が特に日本語と違って、SHIFT+2で @になるし、8で*、カッコは9と0になる)
 そしてWindowsを動かすために安いPCを組み立てるようになると、はじめて日本語配列キーボードに出会うようになる。
 テンキーや全角半角、変換無変換などがいっぱいついた109キーボード。しかし僕は設定の仕方がわからなかったこともあって、USキーボード設定のまま使っていた。今みたいに自動で認識したりしないので、買ってきてしばらく使って、キートップの印字と入力されたキーが違うという違和感に気づいた時には、すっかり慣れてしまっていたのだ。
 英語配列にはメリットもそれなりにある。カギカッコが横に並んでいて出しやすいとか、脚本を書く時に案外よい。
 しかし純粋な英語キーボードは下段のボタンが少なすぎて、今の僕には物足りない。そういう理由でキーボードの上半分と下半分で違う国の配列になるというキメラ配列が僕のお気に入りになってしまった。これでホームポジションの周りだけが僕の王国になる。
 しかしこのせいで、せっかくのHHKBが右側の大半のキーを使用しなくなってしまった。カーソルキーとか右シフトキーなんて、音楽を作る時くらいしか使わないと思う。BSも移動しちゃったからキーボードの右側にはほぼ指が届かなくてもいい。
 でもまあ、これでいいのだ。どうせ僕しか使わないキーボードなのだから、僕しか便利に思わない作りになっていても迷惑をかけるわけでなし、気にすることはないのだ。
 ようは書き上がった文章が読むに値するものかどうか、それだけなのだ。作業環境についてだべるだけでnoteを埋めるくらいなら、さっさと仕事に戻るべきなのだ

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