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あたしの人生、人の役に立つか?4

4.仕事復帰

「そろそろ仕事してもいいと思います。」

2年過ぎた頃、
いつものように受診に
付き添っていると
医師にこう言われた。

ふと、横にいる夫を見てみる。
嬉しそうなのか、
困っているのか
よく分からない表情。

膝の上の手は
強く握りこんでいる。

次回の予約をその場でとって、
受付で会計をし、
駐車場に行く。

バタン、シュッ、カチッ

車に乗り、シートベルトを
装着しハンドルを握る。

ふと横を見ると、
助手席の夫はかぶってきた帽子を
顔に当て、シートを倒し、
横になっている。

私は何も言わず、
そのまま家まで運転した。


週明けの月曜日、
どうなることかとドキドキしながら
朝を迎える。

夫の様子を見ると、
起きている、、、。

服は着替えられている。

予定の時間には
出られなかったが、
自分のタイミングで
バイクに乗って、
家を出て行った。

その日の夕方、
私は気になって
仕事は早々に終わらし、
子どもを保育園に迎えに行って、
自宅に戻る。

子どもにご飯を食べさせ、
娘と少し遊ぶ。


時計を見ると18時。
まだ帰ってきていない。

19時になって、
通勤に使っているバイクの
エンジン音が聞こえた。

娘が食べた後の
お皿を洗っている手を止めて、
玄関に見に行く。

「おかえり。」

「うん。」

表情はかたく、しゃべらない。
ご飯は食べず、
そのまま寝室に直行して
横になっていた。


次の日も自分のタイミングで
仕事に行っていた、と思う。
私が仕事に行った後に
出て行ったから、
いつ家を出たのかは分からないが
二日目も行っていた。

昨日はすぐに寝てしまって
薬を飲めていなかったので
今日は薬を忘れずに飲んでもらわなきゃと
思って、帰ってきたとき声をかけた。

「おかえり。ご飯できてるよ。」

「うん、ちょっと食べるわ。」

今までだったら、
私よりよくしゃべりながら
ご飯を食べていた夫だったが、
美味しいのかまずいのかも
わからない表情で
ご飯を食べて、
私がテーブルの上に置いておいた
薬を飲んでいた。

カチャン
茶碗とお皿を重ねる音がした。

「もう、寝るわ。」

といい二階の寝室に上がって行った。

3日目、
疲れている様子から
「休ませたほうが良いんじゃないか。」と
私は思った。

体力も落ちているだろうし、
精神的なエネルギーも使っていると
思ったからだ。

朝、コーヒーを夫に手渡す。
においをかいで、カップに
口を付けて一息ついたところで、

「今日、どんな感じなん?
疲れてるし、休んでもいいと思うけど。」

と言うと、

「いや、休んでいる間に
色々できていないことがあったから
行かんとあかん。」

と返事が返ってきた。

こう答えられたら、
「そうなんか。分かった。
無理せんといてな。」

と夫に伝えた。


この日の夕方、
ご飯を作っているときに、
実家の母くらいしか
架けてこない固定電話の
着信音が聞こえた。

♫~

カチャ。

「もしもし。
あ、この度はすみません。
ご迷惑をおかけしています。」

電話出てみると
夫の勤め先の上司だった。

いままで家に電話を架けてくる
ことはなかったので、
何かあったんか??と
思いながら話を聞いていく。

少し間をおいて
ゆっくりと低めのトーンで
話し始める。

「まだ仕事復帰早いと思うわ~。
今日な、職場で泣かはってん。」
困ったような声で言われる。

「え??」

「なんかな、
自分が思っていることが
休んでいる間に出来ていないって
責めるというか
そんな感じで言い出しはって。

そしたら泣いて怒りだしたから、
どないしよ、と思って。

他のスタッフもいたから
その場はなんとかなったけど、
まだ仕事復帰は難しいと思うわ。

また様子みたって。」

「・・・。」

言葉にならなかった。

優しく言ってくださってるが
現場は大変だったと思う。
怒鳴り声や泣いたところを見て
不安定になる利用者さんも
いたと思う。

私は、頭を何度も下げて
お詫びして、電話を置いた。

ガチャン。。。

置いたとたん、

はぁ~、、、。

と大きなため息が出た。


こんなはずじゃなかった。
家も買って、
二人で働いて
ローンを返して
子どもをのびのび育てる
予定だった。


これは、
ちょっと本気で
やばくなる、、、

と直感した。


次は、「仕事復帰 その2」です。
お楽しみに。


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