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「まあ、大きくなったわねえ」

 私が5歳になった時から同じ敷地の隣の家に祖父母が住んでいた。毎日のように遊びに行き、大いに可愛がってもらったものである。

 祖母の妹がよく訪問してきていて、私を見るたびに「まあー、大きくなったわねえ!」とビックリしてみせてくれた。子ども心に誇らしく思ったものだ。

 囲碁プロ棋士の仲邑菫さんが韓国棋院への移籍を発表した。「将来のスター候補の流出は日本の囲碁界にとって衝撃」ということらしい。


 わずか10歳で特例としてプロ入りした際のことはよく覚えている。椅子に座ったら床に足が届かないほどのあどけない女の子。報道陣が大いに期待した記者会見ではすっかりその場の熱気に呑まれてしまってほとんど言葉を発することができず、ニュース番組の担当者が頭を抱えていたものだ。

 囲碁の知識はさっぱりの私でも、特例でのプロ入りについては「話題づくりの“客寄せパンダ”になっちゃっうことはないのかな」と心配にもなった。

 その菫ちゃん、ことしは史上最年少でタイトルを獲得してしっかり実力を伸ばしたのである。余計な心配は無用だったわけで、「プロという環境で強くなってほしい」という関係者の思惑がしっかり結実したことになる。その本人が「さらに厳しいと環境を」と希望したら、それは止められないだろう。

 韓国移籍の記者会見の映像で菫さんはか細い声ながらしっかりと話していた。「まあ、大きくなったわねえ!」と親戚のおじいちゃんのように思った次第である。おじさんのとっては「わずか4年」でも、子どもの成長には大切な大切な期間なのだな。

 「ワシも毎日、漫然と過ごしている場合ではないな」と自分の停滞ぶりを反省するきっかけにもなったことである。
(23/10/31)

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