羊のゆくえ

未だに羊の行方はわからない。

羊。
羊はなぜ私を選んだのか。

あの日、たしかに、羊が入ってきたような瞬間はあった。
その一瞬、羊と私しか存在しないような錯覚におちいって、ふと隣を見ると、一人ではない事を思い出す。

でも、その瞬間に、羊は私に入り込んできたようだ。

羊は私に、痛みと眠りを与えてくれた。

先生はそれは悪いものではないと言った。
偶然なんだと。

それから、しばらくの間は何もできなくなった。
本を読むこともできない。
だけど、出かける時は本を鞄に入れた。              彼女にとって本はそういう存在なのだ。

そして、羊を思い、りんごを食べた。
食事をする時は、祈りを捧げた。

こんな気持ちになったのは初めてではないと、気づいた。
結局は、あの時から何も変わっていない。
ただ、毎日がひらひらと重なっていっただけだったのだ。

ある朝、起きると、いくらか身体が楽に感じた。
ただ、思うままに家を出た。
風を感じ、目を閉じて、祈った。

サラダとスープとパンを注文した。
ウェイトレスの女性は、奥の四人がけのソファー席を案内してくれた。
喜んで。
というように。

サラダには、色々なものが入っていた。
しゃきっとしたロメインレタスと、エビやベーコン、ゆで卵、アボカドなどが少しづつ入っていた。
一口食べるごとに何故だか泣きたくなってきた。
サラダまでもが
喜んで。
と言っているような気がしたからだ。

幸いにも、本が読めるようになったので、本を読んでいる。

ただ、まだしばらくの間は、祈る事を続けるだろう。

それは、ここから永遠に続くかもしれない。


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