中村ハル

日常と幻想の狭間のような、仄暗い短編小説を書いています。 ずっとここの更新止まってたの…

中村ハル

日常と幻想の狭間のような、仄暗い短編小説を書いています。 ずっとここの更新止まってたのを思い出した…。

マガジン

  • 雨色の魚と黒い影

    短編「雨色の魚と黒い影」をまとめています。連載中。

最近の記事

ショートケーキを食べる

 ひょんなことから、会社にショートケーキ好きがふたりいることが判明した。  私はショートケーキが得意ではない。ケーキを選ぶときにショートケーキに意識がいくことすらない。もっぱら、チーズケーキかモンブランで、ババロアがあればちょっとテンションが上がる。  だが、いちじくのショートケーキがあれば話は別だ。いちじくのショートケーキはとても美味しい。  そう言ったら、ふたりとも、口を揃えて「ショートケーキはいちご以外は認めない」と断言した。  そうなのだ。彼らは、おそらく、いちごが好

    • 文学フリマ東京【Q-25】

      11月11日(土) 東京流通センターにて開催の文学フリマ東京37に出店します。 時間 : 12:00〜17:00 入場無料 「これぞ私の文学」というものを、各自が形にして持ち寄るイベントです。様々な文学の形を手に入れられる機会なので、ぜひお越しくださいませ。 さて。私の文学とは。 仄暗くて、少し怖くて、ちょっぴり可笑しい短編と掌編を主に書いています。 日常がほんの少し歪むみたいな、ありそうでなさそうな話が書けていたら嬉しいな。 読んでくれた人が、ほんの少しでも楽しんで、日々

      • 文学フリマ東京36に参加します

        5月21日に開催される文学フリマ東京に参加します。 第一展示場 L-21 【 カラス機関 】 仄暗い短編集を6冊ほど持っていきます。 日常がちょっぴり歪んだ、少し怖くて仄かにおかしい話が多いです。 ということで。すごく久しぶりに、noteのアカウントを持っていることを思い出した…。 普段は、投稿サイトで細々と、ほんのり暗くて薄っすら怖い短編を書いています。 エブリスタ、カクヨム、ノベプラに投稿していて、最近は短編ホラーでエブリスタの超・妄想コンテストで2度、大賞をいただけた

        • メトロに乗って

          特にあてもなく、ふらりと歩いていただけだった。 目ぼしいものも見当たらない、坂ばかりの殺風景な町だ。 せっかく来たのに、と目的地もないくせにぼやきが漏れる。 日没を少し過ぎ、空気は蒼く染まっていた。 そういえば、この辺りに英国菓子の小さな店がなかったか。 ふと、先日雑誌で見た写真と風景が重なった。 ポケットを探るが、スマホがない。家に忘れてきたのだろうか。 確か坂を上がったところに、と辺りを見回すが、右も左も坂だ。少しばかり溜息を吐いたところで、右の坂の角に人影が見えた。お

        ショートケーキを食べる

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        • 雨色の魚と黒い影
          5本

        記事

          雨色の魚と黒い影 第5話.月と亀

          「はて、あれは、なんだったか」 大きな満月が煌めく帰り道、割烹料理店の店先の水鉢の前を通った。 大きな金魚と、小さな金魚。2匹の亀。 月光の下の仄暗い闇の中で、全てはひっそりとしている。もう、眠っているのだろうか。 立ち止まって見下ろしていると、黒い影が水底からゆるゆると伸び上がり、水の面に顔を出した。 ぽかりと、花のつぼみのように、2本ある。 水の上に浮いていた亀が、のそりと浮草の上に這い上る。 2匹の緑の亀は丸い浮草の上に登ると、首をぐいと伸ばして、ぱくんと黒いつぼみを

          雨色の魚と黒い影 第5話.月と亀

          雨色の魚と黒い影 第4話.雨雲

          「や、待って、落ち着いて」 「いや、待たない。生き神になってもよいのですか」 「よくない、よくはないが、刃物はダメだ」 その前に、生き神とはなんだ。尋ねたいがそんな場合でもない。 身を翻して部屋に駆け戻ると、机の間を走り抜ける。男はぺちりと床を鳴らして、追ってくる。事務椅子で通路を塞ぐが、男は右に左に飛ぶような仕草で身軽に障害を越えてくる。 左の視界で、ちらちらと、魚の尾が跳ねまわって、逃げにくいことこの上ない。 がちゃり。 刃物から逃げ回っていると、入り口の扉が唐突に

          雨色の魚と黒い影 第4話.雨雲

          雨色の魚と黒い影 第3話.蛙男

          日に日に魚影ははっきりとし、もう疑うこともなく、目の中に魚がいる。 はて、どうしたものか。 他人から、目の中の魚が見えはしまいか。 顔を洗って覗き込んだ鏡を見て、ふと、不安を覚えた。 出勤途中に早くから開いている、お年寄りばかりが集う薬局に立ち寄り、眼帯を買って左目を塞いだ。 真っ暗になった眼の中で、魚はぱしゃぱしゃと泳ぐ。どうやら、外から見えなくなったのが嬉しいらしい。どうしてそんな風に思ったのかは分からぬが、なぜだかそれが見当違いではないとも思う。 嬉しいのはよいのだが、

          雨色の魚と黒い影 第3話.蛙男

          雨色の魚と黒い影 第2話.眼科医

          その日は1日、左目が霞んで仕事にならず、早めに帰り支度を整え会社を出た。 何やら目の前でちらりちらりと細かな影が動くのだ。 今朝、目に入った水の所為か。金魚が入っている水だ、結膜炎など起こしたのかもしれない。 一度など、大きく腫れて瞼が開かなくなったことがある。侮ってはいけない。 早めに医者に診てもらおうと、会社近くで見つけた眼科へ向かった。 少し古いビルの2階へ上がり、硝子のはまった重い扉を開ける。 やけに薄暗い気がするのは、目の所為だろうか、それとも照明が暗いのか。 どち

          雨色の魚と黒い影 第2話.眼科医

          雨色の魚と黒い影 第1話.金魚と亀

          会社近くの、割烹料理店の軒先に据えられた水鉢に、金魚が飼われている。 水鉢は2つあり、一つには水連に似た浮き草がたっぷりと葉を広げ、その隙間からちらりと覗く水面には淡い色のメダカが泳ぐ。 もう一つの広い鉢には並々と縁いっぱいまで水が注がれ、緑の美しい金魚藻の陰に隠れて、10センチほどの朱色の金魚がゆったりとしている。 そこへ、先だっての祭りの後で、小さな金魚が7,8匹加わった。 朱、赤、斑、と色々の金魚がちろちろと尾を振り泳いでいるのが愛らしい。 先住の金魚はいささか窮屈そう

          雨色の魚と黒い影 第1話.金魚と亀